年会報告
第12回年会報告
2018年5月25日(金)・26日(土)・27日(日)の3日間、初夏のさわやかな天候のもと東京ビッグサイトTFTビルにて第12回年会を開催しました。 本年会は第1回以来の東京開催となりました。この11年の間で、緩和医療を取り巻く環境と、考え方について変化がありました。対象は、「がん疼痛」にとどまらず、「非がん」にまで広がりました。また「人生100歳時代」といわれる中、地域包括ケアシステムの構築が模索されています。全ての人が自らが望む場所で、あらゆる痛みから解放され、人生を積極的に生きていけるよう支えることが、緩和医療に取り組む私たちのミッションといえます。そこで、今年会のメインテーマは「いのちの輝きを支える」としました。
事前の参加登録は、2,300名を超え、招待者を含めると2,820名と、これまでの最多の参加者をお迎えすることができました。特に学生の参加者が155名と多かったことは学会の将来にとって頼もしいことです。 また、教育セミナーは事前登録時点で1,000名を超えたため、2か所のLIVE会場を設営した結果、1,242名にご参加頂き、これもまた過去最多となりました。
薬局薬剤師として初めて年会長を務める立場から、「地域を支える」ことを強く意識して様々なセッションを企画しました。 特別講演は昭和大学医学部医学教育学教授 髙宮有介先生に、教育講演は5名の先生方にご登壇頂きました。年会企画を含む27本のシンポジウム、4本のワークショップについても多くの方にご参加頂き、立ち見が出る会場もありました。一般演題では約300題の発表があり、各会場で活発な議論がなされていました。
また今回は、年会長特別企画として「こころに残る一症例」と題し、症例の共有を通して学びの場となるようなセッションを開催しました。本学会としては初めての企画でしたが、病院、外来、在宅の3つの部門からの各4人の演者による報告は、演者からも参加者からも大変好評でした。
多くの方に参加して頂けるよう学会場のTFTホールで実施した懇親会も、200名を超える方々に参加頂き、パラアスリートの土田和歌子氏を迎え、そのお話から生きることのパワーをいただきました。土田さんが会場をラウンドし、参加者と懇談してくださったことで、2020年東京パラリンピックが身近なものとなったように感じます。
さらに、市民公開講座を日曜日に組み込みメイン会場で開催したことも、この年会の新たな試みでした。料理人の笠原将弘氏、ソムリエの田崎真也氏を迎え、食を楽しみ、いのちの輝きを支えることについて講話頂きました。
緩和医療への関心は年々高まっています。薬剤師も遅れることなく、緩和医療に深くかかわっていくことが求められます。本年会が、今後の皆様の業務や研究を進めていくうえで、何らかのヒントとなることができていれば嬉しく思います。
最後になりましたが、新たな企画をいくつも盛り込んだ3日間の年会を無事終えることができましたのも、ご参加頂きました皆様、開催に際して企画や運営にご尽力頂きました実行委員長、プログラム委員長をはじめとした委員会委員各位、協賛を頂きました各企業、その他ご支援頂きました多くの皆様方のお陰と、心より御礼申し上げます。
トライアドジャパン株式会社 代表取締役副社長
第12回日本緩和医療薬学会 年会長
竹内 尚子
第11回年会報告
がん対策基本法の成立から10年が経過し第11回目となる本年会のメインテーマは、「次代を拓く!緩和医療薬学の新たな展開」と題し、関東以北で初めて北海道、札幌での開催である。第11回日本緩和医療薬学会年会は6月2日(金)~4日(日)の3日間、札幌コンベンションセンターで開催された。
年会に事前参加登録した人数は1,745名(会員1,324名、非会員359名、学生62名)、当日参加登録した人数は361名(会員103名、非会員219名、学生39名)で、招待者・協賛展示企業・プレス含め年会参加者総数は2,410名であった。また年会開催時好評の教育セミナーは、予定の事前募集定員800名を越え、理事会で審議いただき急遽LIVE会場を設営することで対応した。その結果、全登録者は1,008名(本会場807名+LIVE会場201名)となり、参加者の多さに改めて驚いた。
基調講演は第9回日本緩和医療学会総会を2004年に札幌で開催された並木昭義(現小樽市立病院病院局長)に、特別講演は森田達也聖隷三方原病院副院長に、教育講演は5つ5名に、ワークショップ2つ、スポンサードワークショップ1つを企画した。また特別企画セッションを設け、歴代代表理事および新代表理事(3名)にご登壇いただき、本学会の過去・現在そして今後の展望について会員に紹介いただくこととした。シンポジウムは年会企画も含め25題および一般演題386題の多数の演題をいただいた。一般演題は例年にない多数の応募があったことから、これらを口頭発表64題、ポスター発表322題として受理した。余裕を持った会場と時間配分に心掛けたつもりであったが、一般演題が予想以上に多かったこともあり、従来2日間の会期中閲覧できたポスター発表は第1日目と第2日目に分けたため、少しでも会場の窮屈な思いを解消できたのではないかと考える。今回は口頭発表64題より1題、ポスター発表322題より5題の合計6題の優秀発表賞を選出した。
従来のランチョン型セミナーを改め、共催企業によるプロモーション活動と講演(プログラム・要旨集に要旨あり)を連動させた新しいタイプの「メディカルセミナー」を企画し、共催企業や参加者からも大変好評であった。懇親会は北海道らしさを十分に味わってもらうためアトラクション付(J1コンサドーレ札幌チェアガール+よさこいソーラン平岸天神)で繁華街薄野のキリンビール園(中島公園店)で行った。事前参加登録者150名あまりを含め、276名の方々が集まって楽しく賑やかに盛大に行うことができた。また、年会プログラム・要旨集のアプリでの閲覧や託児室の設置も参加者に大変好評であった。
本年会の目的には、会員だけでなく市民・道民に対する緩和医療薬学の啓発活動がある。今回の道民公開講座には、「仏教から見た緩和ケア―医療チームに参加している僧侶の話―」と題し、浄土真宗本願寺派善福寺・長倉伯博住職に講演をして頂いた。利便性を考慮し札幌医科大学講堂で開催し、約200名の参加者があり長倉住職の講演に感激して帰られた。
本年会を通じて、地域包括ケア時代に期待される次代の緩和医療薬剤師像についても理解を深めていただいた。年会開催に当たっては、年会長の独自性を出すこととも大切である。今回の年会で問題になったこと、十分に煮詰まらなかったところを次回の第12回日本緩和医療薬学会年会(東京)で取り上げることが望まれる。講師陣も熱のこもった講演をされ、参加者も大変熱心に聴講していた。緩和医療薬学に対する関心の大きさが窺えた。どの会場も参加者が多く、熱心な講演、発表、討論がなされ好評であった。
札幌医科大学医学部附属病院 薬剤部
第11回日本緩和医療薬学会年会長
宮本 篤
第10回年会報告
2016年6月3日(金)~5日(日)の3日間にわたり、第10回日本緩和医療薬学会年会を、アクトシティ浜松で開催致しました。
多くの社員が参加できる総会を実現するため、本年会より開催時期を社員総会と同時開催にしたことから、秋から春開催へと変更になりました。過渡期に当たる第10回は第9回の年会と8ヶ月しか離れていない開催となりましたが、過去最高である2693人の方々にご参加いただく事が出来、一般演題は286演題(口頭44題、ポスター242題)と多くの会員の皆様にご発表いただきました。
日本緩和医療薬学会は、おそらく他の薬学関連学会同様、製薬企業の協賛数が年々減ってきておりました。そこに大きな問題意識と先見の明を持っていた川村理事より、長引く不況の中、関連メーカーに一方的かつ継続的な支援を求める医療系学会運営は持続不可能であること、透明性と公平さが求められる昨今、必ずしも適切ではないこと、参加者全員にメリットがある新しい年会のあり方を考えるべきであるとのご意見を伺いました。
当学会の区切りとなる第10回年会から、その新しい年会のあり方を是非示したいと考え、川村理事に第10回年会のプロデュースを懇願しました。そして、川村理事の言う自律&自立する学術大会を、このホスピス発祥の地である浜松で実現したいと考えました。本会のテーマを「JI-RI-TSU~緩和医療薬学の持続可能性を探る~」とし、ソーシャル・ランチ、インフォメーション・セッション、ディベートシンポジウム、ワークショップ、参加型の懇親会、PEOPLE同窓会、など、新しいコンセプトの企画をご提案いただきました。
また、第8回年会において発信した、私たちの姿勢「私達は、よりよい緩和薬物療法の提供・支援を目指し、薬剤師と薬学研究者が一丸となって、多職種と連携し緩和医療の充実・発展に努めます」に沿って、多くの多職種にもこの薬学会にご参加いただきたいと考え、「認定看護師(CN)/専門看護師(CNS)研修会」も教育研修委員会に支援していただきました。
本年会での一番大きな改革は、企業からの支援が難しくなっている現在、製薬企業に多大な負担を強いるランチョンセミナーを設けなかったことだと考えております。参加者が自分で購入したランチを片手にアクトシティの屋上に上がり、志を共にする仲間と話をしながら、ピクニックのようなランチタイムを過ごすしながら、参加者相互の体験から学ぶというソーシャル・ランチを開催したのです。具体的には、参加登録時に1000円のランチクーポン(お土産購入券として使用も可能)を購入していただき、当日好きなランチに交換して、アクトシティの屋上に設けた、「栄養」「オピオイド」「終末期」「連携」のテーマ毎の4会場に別れ、他者と語り合いました。
展示ブースはメイン会場とは少し離れている構造上、足を向ける参加者があまり多くないという問題があるため、参加者が必然的に展示ホールへと足を向けるオペレーションとして、ポスター発表だけではなく口頭発表と、さらには展示ブースの新しい活用方法として、インフォメーション・セッションを開催しました。つまり、展示ブースのメイン部分に、口頭発表と同じ会場を設営し、参加者に情報やメッセージを投げられる場を設けたところ、製薬会社はもちろんのこと、ラベル・ポンプの会社、薬局などのこれまで展示の申し込みをしなかった組織の方々にもご参画頂くことができました。
他にも、多くの組織が協賛しやすいように価格帯を限界まで落とした、モーニングセミナーとスイーツセミナーを設け、花月堂のお菓子や新発売のハーゲンダッツアイスクリーム等の飲食物は年会側から提供して、協賛側の負担ができるだけないようにして開催致しました。
初の試みとして行なったディベートシンポジウムでは、Clica(会場内で自分の端末から司会者へリアルタイムの質問ができる)システムを導入したことにより、演者と参加者が一体となって議論ができたように思います。
参加者はそれぞれに日々貴重な経験をしています。演者から一方的に話を聞くだけでなく、ソーシャルランチを始め、ディベートシンポジウムや6つのワークショップなど、成人学習の視点から参加者相互に学び合う機会を、あらゆる場面に設計してもらいました。
参加した方々に年会参加のアンケートをお願いしたところ、438名の方に回答を頂きました。結果は、第10回大会について89%の人が魅力的であったとのご回答をいただき、大変満足度が高かった年会を開催できたとわかりました。特に、Clicaシステムを導入したディベートシンポジムは、63%の参加者があった方がいいと回答しており、自由記入欄には、「意見を言いやすく発展性があると感じた」との意見が聞かれ、Clicaの導入は年会をアクティブ・ラーニングの場とするための有効なシステムとなり得ることがわかりました。また、新しいコンセプトで良かった企画は、宿泊証明による還元26%、学会提供のスイーツセミナー23%、ネームホルダーの持参22%、学会提供のモーニングセミナー13%と好印象でありました。
今回、このように多くの方々に浜松の年会に参加していただけたのは、FacebookなどSNSによる広報活動により、皆さんにこれまで以上の情報を届けられ、同時に参加者の皆様にご賛同いただけた結果であると思っています。
この年会を経験し、新しい事を始めるときは強い反発もあり、理解を得るまでに多大な時間と労力がかかると痛感しました。しかし、進むべき方向を訴え、ご理解・ご賛同いただけたときには、物事を動かしとても大きな力になるのだと実感しました。
このように新しい一歩を踏み出した本年会を無事に終えることが出来ましたのも、年会プロデューサーをお引き受けくださり、確固たる理念のもとアイデア満載の年会を企画・設計してくれた川村理事の尽力あってのことです。そして、この年会の熱いメッセージを受け取り、ご理解・ご参加頂きました多くの皆様をはじめ、年会運営にご尽力頂きました関係者各位、協賛を頂きました各企業・組織、その他ご支援頂きました多くの皆様のお陰でございます。この場をお借りして深く感謝申し上げるとともに、今後の日本緩和医療薬学会の益々の発展を祈念致します。
聖隷浜松病院 薬剤部長
第10回日本緩和医療薬学会年会長
塩川 満
第9回年会報告
平成27年10月2日(金)~4日(日)にかけて、パシフィコ横浜・会議センターにて「第9回日本緩和医療薬学会年会」を開催いたしました。晴天に恵まれ、気持ちいい横浜の海の風が感じられました。3日間の会期を通して、2,600名ほどの先生方にご参加いただきました。ご参加いただいた皆様方には、学会を盛り上げていただきました事に心から感謝し、御礼申し上げます。
すべての患者さんとその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持あるいは向上のために、薬剤師をはじめとする医療従事者、研究者、日本緩和医療薬学会は真摯に取り組んでいるのはご承知のとおりです。多くのがん患者さんは、がんと診断された時から疼痛があり、がん治療を続けながら同時に緩和ケアを必要としています。このことは、がん患者さんだけでなく、がん疾患以外の術後の疼痛、リウマチ疾患や帯状疱疹痛などを有する患者さんも疼痛緩和ケアの対象となります。
このように、広がりをみせる疼痛緩和ケアや支持療法などの多様な緩和ケアに対処するため、緩和医療薬学のステップ・アップが是非とも必要と考えました。同時に、緩和領域におけるチーム医療の再構築も重要な課題と考えていました。従来の医療機関内の疼痛緩和ケアチームの活動のステップ・アップとともに、「薬(病院)-薬(薬局)-学(大学)-会(学会)」の連携によるチーム活性力を多面的に高め、本学会が主体的に取り組む姿勢を提示し推進することを、第9回年会で会員ならびに全医療従事者、患者さんと家族の皆様と共有できること切望いたしました。
こうした趣意から、第9回年会では「ステップ・アップ緩和医療~多様な緩和ケアとチーム活性・連携力の醸成~」をタイトルに掲げ、薬剤師、薬学系研究者のみならず、広く医療従事者、福祉関係職、行政ならびに医療関係企業のご参加を得て、今後の緩和医療薬学の方向性を忌憚なく協議していただければと考えました。
今回は、特別講演として独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長 近藤達也先生に緩和医療における臨床試験の重要性について、そして昭和大学大学院保健医療学研究科 副島賢和准教授に「涙も笑いも力になる、患者に寄り添ういのちの授業」と題して、患者さんの立場でご講演いただきました。教育講演9セッション、シンポジウム23セッション、ワークショップ3セッションを企画いたしました。非常にバランスのよいご講演になったと自負しております。特に教育講演の1つの新しい試みとして参加型教育講演「トライしてみよう!がん疼痛のアセスメント 実践を交えて」を開催いたしました。非常に好評で、ワークショップとともに参加型教育講演は今後の年会の企画案として継続すべきものと強く感じました。
また、同時開催されました市民公開講座では、アロマセラピーを使った健康づくりに取り組まれている星薬科大学先端生命科学研究所生命科学先導研究センターの塩田清二特任教授に楽しくご講演いただきました。550名ほどの方々が参加され、アロマセラピーに代表される代替医療への関心の高さに驚かされました。
会員の皆さんの発表では、一般演題が291演題(口頭発表:57演題、ポスター発表:234演題)でした。シンポジウムは23セッションで、基礎研究や臨床研究、薬・薬連携、在宅医療の取り組みなど幅広い内容になりました。超高齢化が進む日本の医療は、今後、大きく機能再編が進み、基幹病院が急性期医療を担い、慢性疾患や長期療養・終末期医療、緩和医療そして介護の場は病院から地域・在宅へと移行することになります。在宅医療では、患者さんの望む生活とQOLの維持・向上を目的とする支える医療が中心であり、NBM(Narrative based medicine)患者さんの物語に基づいた医療]の実践が求められます。また、多様な疾患を合併することの多い在宅患者さんの病状やその変化を把握し、医療・介護・社会心理的に適切な対応をする必要があるため、在宅医療やその介護は地域の多職種が連携・協力したチーム医療での取り組みが重要であり(地域包括ケアシステムなど)、薬剤師をはじめとする医療スタッフもこうした在宅チーム医療に加わり情報共有するとともに、患者さん・家族から自ら臨床情報を収集して臨床判断し、治療・ケア・支援を積極的に実践する能力が必要となると考えられます。在宅医療への関わりについても、多くの参加者により熱い議論が繰り広げられました。最終日には、厳正かつ公平な審査の結果、口頭発表およびポスター発表の中から6題が、年会優秀発表賞として選出され、閉会式にて表彰させていただきました。
第9回年会では参加者の自己研鑽力と研究力を高めるために、本学会はもちろん関連学会の単位認定の取得を促進しました。年会開催中に取得できた単位認定は、緩和薬物療法認定薬剤師(日本緩和医療薬学会)、薬剤師研修センター認定薬剤師(日本薬剤師研修センター)、がん専門薬剤師(日本医療薬学会)、薬物療法専門薬剤師(日本医療薬学会)、がん薬物療法認定薬剤師(日本病院薬剤師会)、外来がん治療認定薬剤師(日本臨床腫瘍薬学会)でした。参加者には大変好評でした。一方、研究力を高めるために2日間にわたって本学会研究推進委員会が主催する「研究相談会」を開設しました。本学会の取り組む姿勢が、しっかり示されたものと思います。
本年会を無事に終えることができましたのも、ひとえに年会にご参加頂きました多くの皆様方をはじめ、年会開催に際して企画・運営にご尽力いただきました委員各位、昭和大学の皆様、協賛をいただきました各企業、その他ご支援いただきました多くの皆様方のお陰と、心から御礼申し上げます。年々大きくなる本学会が益々発展されますことを祈念いたしております。
昭和大学 薬学部 薬物療法学講座 医薬情報解析学部門 教授
第9回日本緩和医療薬学会年会長
加藤 裕久
第8回年会報告
平成26年10月3日(金)~5日(日)にかけて、愛媛県県民文化会館(ひめぎんホール)・愛媛看護研修センター・愛媛県身体障害者研修センターにて「第8回日本緩和医療薬学会年会」を開催致しました。最終日午後には台風18号(5日には鹿児島県奄美地方に接近、その後北東方向に進み、6日朝8時頃に静岡県浜松市上陸)の影響で雲行きが怪しくなり、交通網がどうなるか心配しながらのフィナーレでしたが、なんとか無事に終了することができました。最終的には2,200名ほどの先生方にご参加いただきました。ご参加頂いた皆様方には、学会を盛り上げていただきました事に心から感謝し、御礼申し上げます。
「日本人の2人に1人はがんに罹患し、3人に1人はがんで死亡する時代」ということが報道され、病院でもがん患者が大多数を占める状況になっています。緩和医療分野についても2008年度の診療報酬改定で緩和ケアチームに対する算定がなされ、罹患から退院後の在宅医療に至るまでがん患者に対する痛みの緩和対策は医療従事者にとっての重要な取り組みとなっています。このような状況下、第6回の本学会では平井先生が「緩和医療のブレイクスルー ~行動する薬剤師に向けて~」をテーマに、ただ座って勉強するだけの時代は終わったということをアピールされました。第7回では鈴木順子先生が「今「絆」でつくる地域の緩和・・・薬局が担う地域の緩和医療・・・」で、保険薬局薬剤師に強いメッセージを与えてくださいました。今回のテーマは「輪(つながり)~いま、緩和医療にできること~」としましたが、これには「日本において益々高まる緩和医療の重要性を鑑み、保険薬局薬剤師、病院薬剤師、薬学研究者の連携強化を図り、緩和医療における薬物療法の推進と充実、さらに大学での教育研究と企業での開発・学術研究の進歩発展を図り、社会に貢献することを目的とする」という本学会の理念に沿った活動を再認識しましょうというメッセージも込めたつもりです。基礎、臨床、製薬会社、大学の4つの輪がつながった緩和医療の重要性を強調したいと考えて、このようなメインテーマを設定しました。シンポジウムも基礎から臨床まで幅広いテーマになった様に思います。少し振り返ってみますと、特別講演では基礎、基礎的要因を含んだ臨床、そして特別企画ではがん患者さんの発表という形に致しました。最前線の素晴らしいご発表に感激いたしましたが、演者のお一人である井上和秀先生(九州大学大学院薬学研究院 教授)は平成26年度の紫綬褒章を受章されたという素晴らしい知らせが12月に飛び込んで来ました。ATP受容体やグリア細胞が関与する痛みのメカニズムを世界的に牽引されてきたことが評価されたと心からお慶び申し上げます。がん患者のご家族が発表した市民公開講座では医師、病院薬剤師、保険薬局薬剤師、看護師とともに、「がんと向き合う人のために~『痛い』を伝えるとき~」というテーマで、患者はどうすれば「痛い」をうまく伝えられるか、医療者はどうすれば汲み取れるかを考えました。この講座では、併せてがん患者、あるいはそのご家族に俳句でお気持ちを詠んでいただき、優秀作品を表彰いたしましたが、心にじーんと来る作品ばかりで、その解説をされる先生方のお言葉にさらに目頭が熱くなりました。患者さんとの連携にも少し貢献できたのではないかと思いました。
発表内容は、一般演題が319演題(口演:87演題、ポスター:232演題)、シンポジウムが今回のメインテーマであるつながりを意識した内容を含め、24セッションで、基礎系や臨床系の話題、薬・薬連携の取り組みなど幅広い内容になりました。多くの参加者により熱い議論が繰り広げられました。また、論文の書き方の解説や、専門薬剤師の認定取得に向けたシンポジウムを開いたことも今回の特徴の1つです。毎年開催しているワークショップでは「緩和医療に求められる薬物療法の介入と副作用対策~はじめの一歩」をテーマに、定員制の参加型ワークショップを行いましたが、大変な熱気で参加者の先生方の意欲を感じました。また、教育セミナー2題、ランチョンセミナー11題、坊っちゃんセミナーと題するモーニングセミナー3題にも多くの先生方の参加をいただきました。最終日には、厳正かつ公平な審査の結果、口頭発表およびポスター発表の中から4題が、年会優秀発表賞として選出され、閉会式にて表彰が行われました。
以上、本年会を無事に終えることができましたのも、ひとえに年会にご参加頂きました多くの皆様方をはじめ、年会開催に際して企画・運営にご尽力頂きました委員各位、協賛を頂きました各企業、その他ご支援頂きました多くの皆様方のお陰と、衷心から御礼申し上げます。年々大きくなる本学会が益々発展されますことを記念致しております。
愛媛大学医学部附属病院 教授・薬剤部長
第8回日本緩和医療薬学会年会長
荒木 博陽
第6回年会報告
平成24年10月6日(土)ならびに7日(日)の両日、神戸国際会議場・神戸国際展示場(神戸市)にて「第6回日本緩和医療薬学会年会」を開催致しました。2日間天候にも恵まれ、病院薬剤師、保険薬局薬剤師、薬学研究者をはじめ、医師、看護師、企業人、宗教学研究者、セラピストなど、招待者を含めると2,300名を超える多分野の先生方にご参加頂くことができました。ご参加頂いた皆様方には心からお礼申し上げます。
現在日本は、2030年問題とも言われる、超高齢化・大量死の時代を迎え、3人に1人はがんで亡くなる時代となりました。「我が国における緩和医療の重要性を鑑み、保険薬局薬剤師(薬)、病院薬剤師(薬)ならびに薬学研究者(学)間の連携(薬・薬・学連携)の強化を図り、緩和医療における薬物療法の推進と大学や企業での教育研究の発展に寄与する」との学会理念のもと、薬剤師の緩和医療への主体的参画が求められております。また、緩和医療はがん患者の疼痛管理だけに止まらず、例えば神経難病や子供の疾患などにも、緩和的アプローチが必要とされます。折しも学会直後の10月8日夕刻、今年のノーベル医学生理学賞受賞者が発表され、京都大学教授・山中伸弥氏(神戸大学医学部卒)の名前が全世界に響き渡りました。山中教授のiPS細胞は、難病治療や新薬開発への応用が期待されており、再生医療だけでなく、緩和医療の世界とも関連してくると思われます。医学生理学の常識を覆したiPS細胞の存在は我々に、常識に囚われていては画期的な進歩発展は望めない、ということを教えてくれています。そういった思いの中で、いま第6回の年会を思い返しております。
今回のテーマ「緩和医療のブレイクスルー ~行動する薬剤師に向けて~」を選んだのは昨年の春頃でした。以前から、緩和医療に取り組む薬剤師の中で、ある種の戸惑いや何をすればよいのか途方に暮れているような感じが存在するのを見るにつけ、ただ座って勉強するだけの時代は終わっている、というもどかしさを感じていたのが、このテーマを選んだ一番の理由です。また、医療現場ではチーム医療が謳われ、多職種協働が当たり前になりつつある中で、果たして薬剤師がチームの一員になって生き生きと仕事ができているのだろうか、という疑問もありました。しかし、今回の学会発表を俯瞰してみて、行動する薬剤師の数は着実に増加している、という感を強く致しました。今回学会を開催して得られた、一番の収穫だったと思います。単なる一例報告やアンケート集計、あるいは基礎実験データに止まらない、きちんとした研究デザインに基づく研究成果をどう共有するか、治療にどう反映するか、という姿勢が根付いてきたということでしょう。
発表内容は、一般演題が279題(口演:38演題、ポスター:241演題)、シンポジウムはオピオイドの基礎と臨床、緩和における症状マネジメントや薬物治療、トータルペイン、スピリチュアルケア、そして教育など、様々なテーマのシンポジウムが合計13セッション(55演題)、多くの参加と熱い議論が繰り広げられました。また難治性疾患の緩和・サポートと、患者主導の臨床試験という珍しいテーマのワークショップ、多職種協働緩和ケアチーム活動のデモ「ライブカンファレンス」と討論など、インタラクティブ・参加型のプログラムにも多くの方に満足して頂いたようです。
特別企画として設けた、当学会代表理事の加賀谷肇先生と、日本緩和医療学会の前理事長をつとめられた恒藤暁先生の対談では、緩和医療の歴史と今抱えている問題点、両学会の将来について、短時間で網羅的に理解することができました。特別講演のAndrew Dickman先生のご講演では緩和医療における今後の薬剤師のあり方を、淀川キリスト教病院の田村恵子先生のご講演では医療従事者としてケアの本質についてお話いただき、多くの参加者に感銘を与えていたようです。招待講演の沼野尚美先生は「心にふれる人との関わり」、森田達也先生は「緩和医学における最近の知見と臨床疫学の基礎」、石飛幸三先生は「平穏死のすすめ」という演題でご講演頂き、感動とモチベーションの高まりを与えて下さいました。年会2日目には、オレンジバルーン・プロジェクトの一環として、市民公開講座が開催されました。「もうひとつの薬~生活薬のひろがり~」では、徳永進先生の体験に基づく、「ひと」とその「行動」がお薬である、というお話に、参加された一般の方々も時折笑いながら、深く頷いておられました。
尚、厳正かつ公平な審査の結果、口頭発表の中から4題が、年会優秀発表賞として選出され、閉会式にて表彰が行われました。
以上、本年会を無事に終えることができましたのも、ひとえに年会にご参加頂きました多くの皆様方をはじめ、年会開催に際して企画・運営にご尽力頂きました委員各位、協賛を頂きました各企業、その他ご支援頂きました多くの皆様方のお陰でございます。この場をお借りして深く感謝申し上げるとともに、今後の日本緩和医療薬学会の益々の発展を祈念致します。
神戸大学医学部附属病院 教授・薬剤部長
第6回日本緩和医療薬学会年会長
平井 みどり
第5回年会報告
年会報告に先立ちまして、宮城県三陸沖を震源とした「東日本大震災」で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げるとともに、犠牲になられた方々とご遺族の皆様に深くお悔やみを申し上げます。また、被災地にてご尽力されている方々に敬意を表するとともに、一日も早い復興をお祈り申し上げます。
未曾有の大震災を目の当たりにし、開催の延期あるいは中止を検討した時期もありましたが、「我が国における緩和医療の重要性を鑑み、保険薬局薬剤師(薬)、病院薬剤師(薬)ならびに薬学研究者(学)間の連携(薬・薬・学連携)の強化を図り、緩和医療における薬物療法の推進と大学や企業での教育研究の発展に寄与する」との学会理念のもと、非常時であるが故の年会開催の重要性を考え、平成23年9月24日(土)ならびに25日(日)の両日、幕張メッセ(千葉市)にて「第5回日本緩和医療薬学会年会」を開催致しました。当日は天候にも恵まれ、病院薬剤師、保険薬局薬剤師、薬学研究者をはじめ、2,400名を超える多分野の先生方にご参加頂くことができました。
様々な疾患に基づく身体的・精神的苦痛からの解放には、患者様やご家族を中心に複数の医療専門職が力を合わせて診療に携わる医療、いわゆるチーム医療の実践が必要不可欠です。このことは、緩和医療の分野においても例外ではなく、薬剤師は医師や看護師のみならず、様々な専門性を有するメディカルスタッフ、さらには医療ソーシャルワーカー等ともより綿密な連携を図っていくことが重要です。したがって、薬学領域とともに、医学、看護学、その他多くの学問領域に関わる医療の専門家が、より有効性と安全性の高い緩和薬物療法の実践に向けて議論する場を提供することは、本学会に与えられた大きな責務であります。このような考えのもと、本年会では、チーム医療の理念に基づいた患者様本位の質の高い緩和薬物療法の実現に主眼をおき、メインテーマを「共に語ろう・・・緩和医療チームと薬剤師の未来」と致しました。
本年会では、特別講演3題および招待講演4題をはじめ、バラエティーに富んだプログラムを企画致しました。特別講演では、消化器外科の世界的権威である北島政樹先生(国際医療福祉大学学長)、日本緩和医療学会理事長の恒藤暁先生(大阪大学大学院医学系研究科教授)、ならびに日本サイコオンコロジー学会代表理事の大西秀樹先生(埼玉医科大学国際医療センター教授)のお三方をお招きし、それぞれのお立場から緩和医療の現状と未来についてご講演頂きました。また、招待講演では、緩和医療にまつわるキーワードとして「心療内科」、「がん専門薬剤師」、「アロマセラピー」、「笑い」を取り上げ、それぞれの領域でご活躍の先生方にご講演頂きました。シンポジウムにつきましては、公募企画の中から内容的に幅広くかつ会員の皆様のニーズにお応えできるようなテーマ21題を採択致しましたが、いずれのシンポジウム会場も非常に盛況でした。さらに、ワークショップの企画に際しては多職種の先生方にご協力頂き、「死生観」および「精神疾患」の2テーマについて議論できる機会を設けました。そして、一般演題につきましては、震災の影響で大変な時期であったにも関わらず、口頭発表とポスター発表を合わせて270題の応募を頂きました。年会当日は、日頃の研究成果が存分に披露されるとともに、発表者と聴衆の間では活発な議論が展開されておりました。尚、厳正かつ公平な審査の結果、口頭発表の中から6題が、年会優秀発表賞として選出されました。加えて、年会前日には、オレンジバルーン・プロジェクトの一環として、「共に語ろう・・・家族ががんになったとき~親と子の絆、そして社会のサポート~」をメインテーマとした市民公開講座を開催致しました。日頃、がんに罹患した親御さんやお子さんのみならず、その家族含めたサポートに尽力されている臨床心理士およびソーシャルワーカーの先生方にご講演頂き、がん医療における家族に絆の大切さを再認識することができました。
以上、本年会を無事成功裡に終えることができましたのも、ひとえに年会にご参加頂きました多くの皆様方をはじめ、年会開催に際して企画・運営にご尽力頂きました組織委員、プログラム委員、実行委員各位、協賛を頂きました各企業、その他ご支援頂きました多くの皆様方のお陰でございます。この場をおかりして心より厚く感謝申し上げるとともに、今後の日本緩和医療薬学会の益々の発展を祈念致します。
国際医療福祉大学 薬学部 学部長・教授
第5回日本緩和医療薬学会年会長
武田 弘志
第4回年会報告
2010年9月25日(土)、26日(日)の両日、鹿児島市民文化ホール(鹿児島市)をメイン会場として、第4回日本緩和医療薬学会年会を開催いたしました。
本年会では、病院薬剤師、開局薬剤師、薬学研究者など様々な分野で活躍する薬剤師が一堂に会し、お陰さまで2,400名を超える方々にご参加いただきました。
本年会のメインテーマは、「みんなでふくらまそう こころでつなぐ緩和医療 -今、知識を深めて実践へ-」とし、これまで緩和医療について研鑽を積んでこられた先生方をはじめ、これから緩和医療に携わっていく方々にとって、本年会が緩和医療に関する知識、技能、態度を深め、実践につなげていただく絶好の機会となることを願い、企画運営いたしました。
日本緩和医療薬学会の年会は、第1回から第3回まで首都圏で行われてきましたが、今回、鹿児島ということで、初めての地方都市開催となりました。このような年会を地方で開催することで、その地域における緩和医療への関心を一気に高めることができると思います。
鹿児島でも薬剤師が緩和医療に取り組み始めたところですが、年会の開催によって、当地でも緩和医療に対する機運が高まり、県内から450名以上の方が参加されました。また、地域の医療従事者が年会に参加することをきっかけに、学会会員になったケースもあり、学会の発展にもつながったのではないかと思います。
また、緩和医療は、まさにチーム医療であることから、年会開催に当たっては、日本緩和医療学会、日本薬剤師会、日本病院薬剤師会、日本看護協会など25団体のご後援をいただき、薬剤師だけでなく、医師、看護師に加え、臨床心理士、理学療法士、さらに、製薬会社の学術担当者や医薬情報担当者などにも、参加を呼びかけ、多数の方々にお集まりいただきました。
さて、プログラムについてですが、特別講演2題、招待講演4題を含め多くのシンポジウムを企画し、いずれも非常に盛況となりました。特別講演では、緩和医療の第一人者で、日本で初めてホスピスを立ち上げられた金城学院大学長の柏木哲夫先生が、「緩和医療のこころ」をテーマにご講演され、先生の緩和医療への熱い思いに参加者一堂、強い感銘を受けました。
また、日本緩和医療学会の緩和ケア普及啓発作業部会で、オレンジバルーンプロジェクトの中心を担っておられる兵庫県立大学看護学部教授の内布敦子先生にご講演いただき、一般市民への緩和ケア普及の必要性について改めて考えさせられました。
メインのシンポジウムでは、緩和医療薬学会の評議員の先生方からシンポジウムの企画を募集する形式を採り、寄せられた33の応募から過去最高数となる20テーマを採択しました。基礎研究から、薬学教育、地域医療、患者接遇に至るまで、非常に多岐に渡るテーマとなり、今回の年会の特徴ともなりました。
特に、基礎研究関連では、いずれも満席となる活況で、薬学の底辺の深さ、力強さを強く感じる、内容の濃い、充実したものとなりました。
一般演題においても、口頭演題74題およびポスター演題315題の計389題もの登録をいただき、過去最高数となりました。いずれの会場でも非常に活発な討論が行われました。
なお、今回は口頭演題から3題、ポスター演題から6題の優秀発表賞を選出いたしました。
また、今回からの新たな試みとして、日本緩和医療薬学雑誌に掲載された論文の中から、優秀論文発表賞が選考され、本年会では、受賞された聖路加国際病院薬剤部の塩川満先生と岩手医科大学附属病院薬剤部の佐藤淳也先生に受賞講演をお願いしました。
もうひとつ、初めての試みとして、企画された先生方からの熱い要望にお応えして、多職種参加型問題解決ワークショップを開催しました。医療従事者がそれぞれの立場で患者とコミュニケーションを図り、立体的な緩和ケアを目指すというもので、参加希望者が多く、非常にアクティブなものになりました。今後も多職種参加のもと、続けていただければと思います。
さらに、一般市民を対象とした市民公開講座では、オレンジバルーンプロジェクトの一環として、川越博美先生および川越厚先生をお呼びし、「家で生きることの意味-地域で支える緩和ケア-」をテーマにご講演いただいたところ、多くの市民がその話に心打たれるとともに、緩和ケアについてご理解を深めていただけたのではないかと思います。
これからの薬剤師は、病院や地域医療におけるチーム医療の中で、患者さんとより多く接することが求められる時代に突入しました。
本学会の使命は、緩和医療において、薬剤師が、基礎的な知識に基づいて臨床で十分に力を発揮出来るようにすることであり、少しでもその使命を果たすために様々な企画をいたしました。
遠路、鹿児島までお越しいただいた皆様方、ならびに、年会開催においてご後援をいただいた鹿児島県をはじめ各種団体、協賛をいただいた各企業、組織委員会、プログラム委員会、実行委員会各位、その他ご協力いただいた多くの皆様方に心より感謝申し上げ、第4回日本緩和医療薬学会年会のご報告とさせていただきます。
鹿児島大学医学部・歯学部附属病院 教授・薬剤部長
第4回日本緩和医療薬学会年会長
山田 勝士
第3回年会報告
第3回日本緩和医療薬学会年会が、2009年10月17日(土)~18日(日)にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催され、私が大会長の誉を任ぜられました。お陰さまで大変盛況のうちに終了することができ、参加者も招待者を含め2,300名を超える規模となりました。
本会のメインテーマを「ココロとカラダの痛みを和らげる医療をめざす」といたしました理由は、痛みのみではなく総合的に患者を診る力を参加した方々に再認識していただきたいとの思いからでした。また、今回の大会では3つのサブテーマを掲げました。
まず、緩和医療における研究の最前線の情報を得られる大会であること。
それは医療現場における痛みと副作用の管理だけでなく、栄養管理や褥瘡・感染症なども含むトータル的な緩和医療としての情報です。
またそれには、痛みのメカニズムなど研究者からの最新の報告、コミュニケーション技術の習得の機会を含んでいます。
2つ目には、在宅における緩和医療です。
国の施策として在宅医療への波はこの分野でも例外ではなく、開局の薬剤師にとって、緩和医療の知識、またその医療用麻薬の取り扱いのノウハウなどはこれからますます必要になっていくものと考えます。
このため、在宅医療を担う開局薬剤師に向けた情報発信をすることにいたしました。
最後は、がん医療の最新エビデンスの情報です。
近年様々な専門薬剤師の認定が行われるようになってきましたが、緩和医療においては痛みのみに特化するのではなく、痛みの原因となっているがんそのものの正しい知識と最新の治療方法、そしてその効果などを知っていただきたいと考えました。
このため、乳がん、肺がん、大腸がん、また抗がん剤による副作用への対処など、トータル的に痛みを管理できる情報を得ていただきたいとの考えです。
これら3つのサブテーマのもとにプログラムを編成し、本会の特色を前面に押し出すことといたしました結果、シンポジウム13、セミナー16、特別講演 2、招待講演2、口頭発表16セッション、その他代表理事講演、大会長講演など大変盛りだくさんの大会となりました。
今回の特別講演には17日の初日にWHOのDr.ScholtenにWHO疼痛治療ガイドラインの現状についてご報告いただきました。
また、2日目の特別講演にはNHKエデュケーショナル・エグゼクティブプロデューサーの坂井かをり先生に、患者の視点に立ったがんや緩和の医療についてご講演いただきました。
医療者が忘れがちな患者視点の医療とは何かを熱くお話しいただき、私たちが心のこもった医療を提供することが患者にとってどれだけ大事なことなのか、改めて教えていただきました。ご講演の後、会場からたくさんの質問が寄せられたことも印象深いエピソードの一つです。
今回の大会で私が取り組みたかったことがもう一つあります。それは口頭発表に重点を置くことです。
いつしか薬剤師の学会発表の主流はポスター発表となり、大会によっては全てポスター発表というプログラムも散見されるようになりました。これは薬剤師のディベート力を磨く機会を自ら放棄しているように思えてなりませんでした。薬剤師がこれだけ病棟などの臨床の現場に赴くようになってきたにもかかわらず、このままでは現場での医師や看護師との協議、さらには情報を必要としている患者への適切な対応ができなくなってきてしまうのではないかとの危機感からでした。
口頭発表で堂々とフロアからの質問に答え、また決められた時間内に起承転結を付けたメリハリのある発表を行う。これは臨床の現場で必ず役に立つ、また、臨床で必須となるスキルです。
このため、今大会では優秀発表賞はすべて口頭発表から選出するとし、プライオリティーを付けた演題募集を行いました。
大会中、口頭発表ブースは入りきれない参加者であふれ、発表者と参加者のやり取りも大変活発に行われていました。
いずれの会場も参加者であふれ、また椅子の増設が追い付かず、大勢の方に立ち見でのご不便をおかけしましたことをこの場をお借りしてお詫び申し上げます。
しかし、今回ご参加いただいた薬剤師のうち500名近くの方が開局の薬剤師であったことは、やはり緩和医療、がん医療が在宅医療への流れを受け、急速に増 えていることを裏付けているのではないかと改めて感じることができました。
また、本会と並行して東京都内の船堀タワーホールにて市民公開講座を開催いたしました。一般市民の皆様に、薬剤師が緩和医療の中でどのような役割を担っているかを知っていただくことも目的の一つではありましたが、なにより、がんになる前に緩和医療のこと知っていただきたく、テーマを「がんと向き合うためのがん治療と緩和ケア」とし、現在緩和ケアを受けられている方のみならず、がん治療を受けている方、さらにはがんではない方にもご参加いただき緩和医療について、医療用麻薬について正しい知識を持っていただくことを主目的といたしました。パネリストには、帝京大学医学部内科学講座/有賀悦子先生、同志社女子大学薬学部/中西弘和先生、聖路加国際病院看護部/中村めぐみ先生をお招きし、それぞれの専門分野からのお話と緩和医療がいかにチーム医療で成り立って いるか、そして緩和医療を受けることがどれだけメリットがあることなのかをお話しいただきました。大変好評であったとお聞きしています。
最終日には、優秀発表賞の発表が行われ、病院薬剤師から3名、開局薬剤師から1名、大学研究者から1名の合計5名の方が表彰され盾と記念品が贈られました。
簡単ではございますが、第3回日本緩和医療薬学会の年会報告とさせていただきます。ありがとうございました。
日本医科大学付属病院薬剤部薬剤部長
第3回日本緩和医療薬学会年会長
片山 志郎
第2回年会報告
日本緩和医療薬学会は2007年3月に創立され、記念すべき第1回年会は星薬科大学毒性学教室教授の鈴木勉理事長が年会会長として同年10月に星薬科大学にて開催されました。
私は第2回年会長を拝命し、2008年10月18・19日にパシフィコ横浜にて開催させていただきました。年会のメインテーマを「緩和医療の知識・技能・態度をみがく」とし年会実行委員長は森田雅之先生(神奈川県病院薬剤師会会長)、プログラム委員長は第1回に引き続き亀井淳三先生(星薬科大学教授) にお願いいたしました。
年会前夜から教育セミナーを4テーマ、初日開会前の早朝から2テーマ計6テーマを企画しました。
さらに、7つのシンポジウム、7題のランチョンセミナー、コミュニケーションスキルアップのためのワークショップ並びにポスター展示、企業展示コーナーも併設企画しました。さらに2日の午後には緩和医療の普及・啓発のための市民公開講座を横浜市開港記念会館で開催しました。
一般演題251題、特別講演2題で、初日は緩和医療に携わる者にとっては神様のような存在であるオックスフォード大学名誉教授のロバート・トワイクロス先生をお招きすることができました。メインホールは通路まで聴衆で埋め尽くされ、「がん患者の症状マネジメント」について感動的な講演を拝聴できました。
また、2日目には朝日新聞社科学エディターの高橋真理子先生にご登壇いただき、緩和医療と薬剤師について熱いメッセージを頂戴いたしました。
今年会では、緩和ケアの普及・啓発活動として厚生労働省と日本緩和医療学会が中心となって2008年3月から展開されているオレンジバルーンプロジェクトを大きくとりあげ、「緩和ケアで苦痛を和らげ、笑顔をとりもどしてほしい」と願いをこめて、この事業に協力いたしました。その結果、薬剤師のみならず医師、看護師も多数参加され、2,200名を超える参加者を迎え、無事終えることができました。
第2回年会のメインテーマを「緩和医療の知識・技能・態度をみがく」とさせて頂いたのは、医療に携わる者の共通認識としてその生涯を通して知識の吸収、 そして技能の研鑽、とりわけ緩和医療に携わる者は医療に対する姿勢や態度が問われるからです。
また、今年会では緩和薬物療法認定薬剤師の認定制度がスタートし、2010年には緩和薬物療法認定薬剤師を誕生させることが公表されました。
日本緩和医療薬学会は、発足したばかりの若い学会です。ライフワークとしてがんの痛みで苦しむ患者さんと向き合い 、痛みから解放されるよう互いに研鑽を重ねていくことが、本学会設立の精神です。これからも一緒にこの学会を育てていきましょう。
最後に、年会開催にご後援をいただいた神奈川県はじめ各種団体、協賛をいただいた各企業、実行委員会ならびにプログラム委員会各位、特に本年会の参謀として全精力を注いでくれました大江洋一先生(済生会横浜市南部病院薬剤部)、年会期間中にご協力いただいた製薬企業各位、その他ご参加いただいた皆様に深謝いたします。
日本緩和医療薬学会副理事長
第2回日本緩和医療薬学会年会長
加賀谷 肇
第1回年会報告
日本緩和医療薬学会は平成19年3月24日に約600名の会員で設立された薬剤師を中心とする学会でありますが、この半年間で会員数は約1,600名に増加し、薬剤師の緩和ケアに対する関心の高さと本学会に対する期待の大きさが明らかになりました。一方、平成19年4月1日には「がん対策基本法」が施行され、日本緩和医療薬学会は本法と共に歩みだしたとも言えます。
がん対策基本法では「がんの予防」、「がんの治療」、「緩和ケア」を三本柱にし、居宅におけるがん患者に対するがん医療の提供のための連携協力体制の確保も盛り込まれており、緩和ケアの充実が種々の立場から図られています。
緩和医療において病院薬剤師は緩和ケアチームの一員として、また保険薬局薬剤師は居宅での薬物療法に携わり活動しています。一方、大学では緩和医療に用いられる薬物に関する教育や研究が広く行われており、企業では新薬の開発や学術情報の収集、提供を行っています。
これらの連携を目指すのが本学会の課題の1つであり、今回は「緩和ケアにおける薬(病院)・薬(薬局)・学(大学)連携の実践」をメインテーマとして第1回年会を開催しました。
開会式には厚生労働大臣舛添要一先生より祝辞を頂き、厚生労働省大臣官房審議官(医薬担当)黒川達夫先生に代読頂きました。
聖路加国際病院院長福井次矢先生には特別講演として「Quality Indicator:医療の質を測る」をご講演頂き、緩和医療の質をどのように測るか考えさせられました。また、プログラム委員会の努力により、教育セミナーを企画、実現できたことは会員のレベルアップに貢献できたとるものと確信しております。早朝からの教育セミナーにも関わらず長蛇の列が出来、関心の高さと向上心の強さに敬服しました。
教育セミナーには多くの参加申し込みを頂き、ご希望の方全員にご参加頂けなかったことをここでお詫び申し上げます。現在、DVD化を行っておりますので、学会ホームページ上でご案内申し上げます。
さらに、8題のシンポジウムでは緩和ケアに関する最新、且つ最先端のご講演 を頂き、各会場とも立ち見が出るような状況でありました。また、議論も活発で、1時間もオーバーした会場が出る程でありました。
そして、最も喜ばしいことは会員の皆様からポスター発表で180題もの演題をご発表頂いたことです。2日間にわたり、ポスター会場(体育館)は熱気に満ちあふれておりました。審査員の先生方のご協力により、優秀ポスター賞を11名の先生に授与させて頂きました。第1回年会の記念すべき受賞者の先生方には心よりお祝い申し上げます。
学会の運営面では評議員会および総会で2008年収支予算、投稿規定、「緩和薬物療法認定薬剤師」の認定要件、3つの常置委員会(教育システム検討委員会、法人化準備委員会および認定試験委員会)をお認め頂いた。したがって、来年から本学会の機関誌が発行されることになりますので、奮ってご投稿下さいますようお願い申し上げます。
また、「緩和薬物療法認定薬剤師」の認定要件が決定しましたので、会員の先生方には認定要件を満たすよう計画的に活動頂きたくお願い申し上げます。
これを受け、認定要件を満たすようそのサポートをするために教育システム検討委員会を新たに設けました。認定要件を満たした先生方には認定試験を受けて頂くことになります。
そこで、認定試験委員会も新たに設置を認めて頂きました。また、緩和医療薬学の基本を本学会で本にまとめ、認定試験、さらには6年制大学の教育にも使用できるに企画委員会で取り組んで頂いております。
最後に、第1回年会の企画、運営の行って頂きましたプログラム委員会(委員長亀井淳三教授)、年会運営事務局(事務局長成田年准教授)の先生方、さらにご協力頂きました星薬科大学薬物治療学教室および薬物毒性学教室の教室員の方々に心より感謝申し上げます。
また、実務を担当頂いた(株)毎日学術フォーラムと(株)ザ・コンベンションの方々に深謝申し上げます。
日本緩和医療薬学会理事長
第1回日本緩和医療薬学会年会長
鈴木 勉