一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.17 No.3 September 2024

総  説

薬剤師が知っておくべき注射薬配合変化試験の基本的知識とピットフォール
近藤匡慶・髙瀬久光
[要旨] 注射薬は,臨床現場では輸液バックや点滴ルート内で配合され投与される場合が多く,配合変化の危険性が存在する.注射薬の配合変化試験は配合変化を回避するうえで重要な情報であり,その試験結果は,データベース化され,配合変化早見表を作成するなど加工により臨床で広く使用されている.配合変化試験は,目的に応じて主にY字配合,点滴ボトル内配合およびシリンジ内配合に分類され,物理化学的にさまざまな方法で評価されている.配合変化を認める組合せであるにもかかわらず,実臨床では配合変化出現時間よっては配合し投与する場合があり,配合変化試験結果の解釈には注意する必要がある.本稿では,配合変化試験の基本的知識およびピットフォールについて述べる.
キーワード:注射薬,配合変化,化学的配合変化試験,物理的配合変化試験,注射薬配合マネジメント

 

我が国の有害事象自発報告データベースを用いた がん・緩和薬物療法に関する研究報告
菅原英輝
[要旨] 我が国の有害事象自発報告データベース(Japanese Adverse Drug Event Report database: JADER)が公開され,データマイニング手法を用いた研究報告が盛んに行われている.しかしながら,自発報告データベースには,さまざまなバイアスが存在し,有害事象の発現割合を算出する分母が存在しないなどの限界点がある.医薬品安全性監視においては,シグナル検出にとどまることなく,さらに観察研究によって検証されることが望まれる.すなわち,自発報告データベースを用いた研究結果は,さらなる検証のため観察研究のテーマとなりうる.そこで,がん・緩和薬物療法の領域で注目される医薬品と有害事象の組み合わせを探ることを目的として,JADERを用いた研究報告を調査した.

キーワード: 医薬品安全性監視,有害事象,自発報告,シグナル検出,がん・緩和薬物療法

原著論文

オピオイド鎮痛薬を入院中に開始した外来頭頸部がん患者を対象とした病院薬剤師による電話サポート介入の効果
志田有里・飯田真之・番匠咲帆・蓼原 瞬・大本暢子・山本和宏・大村友博・丹生健一・矢野育子
[要旨] 入院中にオピオイド鎮痛薬 (オピオイド) を導入し外来移行した頭頸部がん患者に対し,病院薬剤師が電話で定期的に疼痛評価やオピオイド副作用評価を行い (電話サポート),必要時に薬剤調整などを医師に提案する取組みを行い,その効果を評価したので報告する.解析対象患者は 10 名,電話サポートの期間と回数の中央値はそれぞれ 123 日と 5 回であり,患者から薬剤師への相談は 40 件,薬剤師から医師への提案は 53 件であった.疼痛強度を示す 1 日平均 numerical rating scale は介入前後で 5.5 から 1.0 と有意に低下し,エドモントン症状評価システム改訂版による副作用評価では倦怠感と便秘の項目で介入前後の変化量がそれぞれ− 2.5,− 4.5 と有意に低下した.以上,外来頭頸部がん患者への薬剤師による電話サポートはオピオイドによる疼痛緩和や副作用回避に有用であり,オピオイド適正使用に繋がることが示唆された.
キーワード: オピオイド鎮痛薬,外来がん患者,電話サポート,頭頸部がん

短報

 医療用麻薬のレスキュー薬自己管理に影響を及ぼす患者状態及び中止要因の検討
中西順子・篠永 浩・原田典和・加地 努
[要旨] レスキュー薬自己管理の有用性は報告されているが,自己管理開始後の中止基準が不明確なため,中止要因について後方視的に調査した.退院まで自己管理した患者を完遂群,入院中に中止となった患者を中止群として比較し,治療状況,Performance Status(PS),入院期間で差があった.完遂群では開始時と終了時点での PSに差はなかったが,中止群では有意に増悪(p < 0.001)しており,自己管理可否には全身状態が影響することが示唆された.
キーワード: 自己管理,レスキュー薬,中止要因