一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.16 No.4 December 2023

総  説

オピオイド受容体ヘテロ二量体の疼痛制御における役割と期待
─ 基礎研究からわかること─
藤田和歌子
[要旨] 次世代の新規鎮痛薬創薬標的としてオピオイド受容体ヘテロ二量体が注目される.その三次元構造は未解明であるが,細胞レベルでの解析から,受容体同士の相互作用は明らかである.delta オピオイド受容体(DOPr)- kappa オピオイド受容体(KOPr)ヘテロ二量体,mu オピオイド受容体(MOPr)-DOPr ヘテロ二量体,MOPr-KOPr ヘテロ二量体,MOPr-ノシセプチン/オーファニン受容体(NOPr)ヘテロ二量体が知られる.中でもMOPr-DOPr ヘテロ二量体は,脳内で幅広く発現し,疼痛時に増加することも明らかにされた.オピオイドリガンドの受容体への結合親和性や下流シグナルは,単量体あるいはホモ二量体の場合とヘテロ二量体とで異なっており,ヘテロ二量体は独自の細胞内シグナルを活性化させる独立した受容体ユニットであると理解される.実際,これまでに合成された各種オピオイド受容体ヘテロ二量体標的アゴニストの多くが,動物実験において強い鎮痛作用を示す一方で,依存性や耐性形成は少ないなどの報告があり,疼痛制御に関わる次世代の創薬標的として大いに期待される.
キーワード:DOPr-KOPr,MOPr-DOPr,MOPr-KOPr,MOPr-NOPr,RTP4

原著論文

Barthel Indexを用いた終末期がん患者の予後期間の予測に影響を与える因子
岡本伸也、岡崎和子、岡田昌浩、村上史承、杉原弘記、星野祥儀、小川裕香、細川智弘、森尾南々、番匠谷研吾、
竹井英介、竹田修三、杉原成美
[要旨] 我々は,Activities of Daily Living(ADL)の評価法の一つである Barthel Index(BI)が予後予測指標として有用であることを明らかにしている.本研究では,複数回入院した終末期がん患者の入退院時の BI が予後期間の予測結果に与える影響について検討した.BI 値の中央値は,前回入院時は 70 点,前回退院時は 95 点,最終入院時は 35 点であった.また,BI 値(0-75 点 /80-100 点)の 30 日後の予後期間の予測精度(感度,特異度,診断精度)は,前回入院時(0.875,0.519,0.600),前回退院時(0.400,0.750,0.600),最終入院時(0.846, 0.444,0.743)であった.終末期がん患者の予後期間の予測に BI を用いる場合は,入院時や退院時等の予後期間の予測を行うタイミングにも考慮して評価する必要があると考える.
キーワード: Barthel Index,予後予測,終末期がん患者

短  報

内臓神経ブロックによる夜間痛や突出痛の消失が頻繁な電話相談や時間外受診の解消につながった膵臓がんの2症例
佐藤哲観、川村泰一、佐藤 哲、田中 怜、天田斉子、賀茂佳子、鈴木知美、臼井比奈子
[要旨] 症例 1:50 歳台,女性.膵尾部がん.心窩部,左季肋部に持続性の鈍痛と夜間に強い突出痛あり.
 症例 2:50 歳台,女性.膵頭部がん.心窩部,両季肋部,背部に持続的な鈍痛と食後や夜間に強い突出痛あり.
 両症例において内臓神経ブロックを実施した結果,夜間や食後の突出痛が消失し電話相談や予定外受診が不要となった.内臓神経ブロックは,薬物療法に抵抗性の突出痛を消失させ,痛みによる不安行動の解消にもつながる可能性がある.
キーワード: 内臓神経ブロック,膵がん,突出痛,夜間痛,不安行動

早朝から起床時に増悪する疼痛にクロナゼパム錠が奏効した1症例
杉原弘記、岡田昌浩、岡本伸也、岡崎和子、黒河香織、渡辺陽子、竹井英介、河合良成、杉本盛人、大枝忠史
[要旨] 左腎盂がんの再発,多発肺転移,第 2 腰椎転移,第 10-12 胸椎転移を認めた症例.オピオイド, NSAIDs のみでは緩和困難であった早朝から起床時に増悪する疼痛に対し,患者の訴えから筋固縮による夜間痛と考え,クロナゼパム錠の眠前追加が奏功した症例を報告する.
キーワード: クロナゼパム,筋固縮,夜間痛