一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.16 No.1 March 2023

原著論文

ナルデメジントシル酸塩による排便回数の変化に影響を与える因子の探索的検討
泉谷紘平、和地 徹、佐藤優弥、田口 伸、清水富士子、小松田智也、柳田真樹子
[要旨] オピオイド誘発性便秘症(opioid-induced constipation,以下,OIC)は服薬アドヒアランスの低下に影響し疼痛緩和を妨げることが報告されている.ナルデメジントシル酸塩(以下,ナルデメジン)は OIC 治療薬であるが,本剤による排便回数の変化に影響を与える因子についての報告はない.本研究では,ナルデメジンの使用状況を調査し,ナルデメジンによる排便回数の変化に影響を与える因子の検討を行った.入院中にナルデメジンを導入した患者 37 名を対象とした結果, ナルデメジンの導入後 7 日間の平均排便回数のベースラインからの変化量に影響を与える独立した因子として「年齢」が抽出された (p = 0.0335).高齢者ほどナルデメジンの導入後の排便回数の変化が乏しい可能性が示されたが,高齢者では副作用の少ないナルデメジンは有用な選択肢になりうるため,今後さらなる検討が求められる.
キーワード:オピオイド誘発性便秘症,ナルデメジントシル酸塩,年齢,高齢者

オピオイド誘発性便秘症患者におけるナルデメジンの便秘改善効果
世古口拓也、永田裕章、野口祥紀、三宅知宏、辻村恭江、谷村 学
[要旨] オピオイド誘発性便秘症(opioid-induced constipation: 以下,OIC)を適応としたナルデメジン(以下, nal)の実臨床での効果について主観的評価ツールを用いて検討した報告は少なく,本研究にて OIC 患者への nal導入による便秘改善効果を前向きに調査した.調査は,2018 年 4 月 1 日から 2020 年 3 月 31 日の間で,伊勢赤十字病院で OIC に対して nal が導入された入院患者を対象に,導入前,1 週間後,2 週間後において,日本語版便秘評価尺度(以下,CAS)を用いて便秘の重症度を評価した.導入 1 週間で CAS スコアの有意な改善を認めた(p < 0.05).また,JPAC-QOL を用いて便秘特異的 QOL を評価し,導入 1 週間で JPAC-QOL スコアの有意な改善を認めた(p < 0.05).本研究から,実臨床での OIC に対する nal の便秘改善効果が示され,さらに QOL 改善にも期待できることが示唆された.
キーワード: ナルデメジン,オピオイド誘発性便秘症,CAS,JPAC-QOL

短報

化学放射線療法に伴う口腔粘膜炎にフェンタニル貼付剤を使用して呼吸抑制が生じた症例
宮田恵里花、鈴木宣雄、神田友江、伊藤大輔、大塚崇史、松岡知子、吉村知哲
[要旨] フェンタニル貼付剤は定常状態に達するまでに時間を要し,有効域と中毒域の幅が狭いため投与量調整が容易ではない.今回,中咽頭がんに対する化学放射線療法に伴う口腔粘膜炎にフェンタニル貼付剤を使用し,呼吸抑制を起こした症例を報告する.呼吸抑制の原因として,がん性または慢性疼痛でない口腔粘膜炎は,外因性オピオイドの影響を受けやすいことや定常状態に達する前に増量したことで過量投与になった可能性が考えられた.
キーワード:フェンタニル貼付剤,口腔粘膜炎,呼吸抑制