学会誌 VOL.15 No.2 June 2022
原著論文
精巣胚細胞腫瘍に対する低用量シスプラチン分割投与におけるアプレピタントの制吐効果 |
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中村真理子、蛯江裕美、吉見 陽、肥田裕丈、田中理子、宮崎雅之、山田清文、野田幸裕 |
[要旨] 精巣胚細胞腫瘍に対する標準治療として,低用量シスプラチン分割投与を含むがん化学療法が用いられる.低用量シスプラチンは,高用量シスプラチン単回投与と比較して催吐性が低いことが知られているが,アプレピタントを含む 3 剤併用制吐療法の有効性を調査した報告は少ない.そこで,精巣胚細胞腫瘍に対して低用量シスプラチン分割投与を行うがん化学療法でのアプレピタントの有効性について,後方視的に調査した.低用量シスプラチン投与後の急性期におけるアプレピタント投与群の悪心・嘔吐の発現率は,非投与群の発現率と比較して有意な差は認められなかったが,遅発期以降では,非投与群の発現率と比較して有意に低かった.したがって,精巣胚細胞腫瘍に対する低用量シスプラチン分割投与におけるアプレピタントの併用使用は,遅発期の悪心・嘔吐の軽減に有用であることが示唆された. |
キーワード:がん化学療法に伴う悪心・嘔吐,制吐療法,アプレピタント,シスプラチン分割投与,精巣胚細胞 |
シスプラチン分割投与レジメンにおける制吐薬変更前後の制吐効果の比較検討 |
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小山直子、橋詰淳哉、伊藤直子、原澤仁美、中川博雄、中村忠博、大野純希、兒玉幸修 |
[要旨] 長崎大学病院(以下,当院)では頭頸部癌に対する化学療法として,シスプラチン(以下,CDDP) 20 mg/m2 を days 1-4 に投与する CDDP 分割投与レジメンを登録している.本レジメンに対する予防的制吐薬としてアプレピタント,グラニセトロン,デキサメタゾンの併用を行っていたが,嚥下困難な患者にも対応可能とするため,2017 年 4 月以降,予防的制吐薬をホスアプレピタント(以下,FosAPR),パロノセトロン(以下,PAL),デキサメタゾン(以下,DEX)へ変更した.制吐薬の変更前後の CR 率(全患者に対する嘔吐なしおよび追加制吐治療なしの患者の割合)を調査した.変更前群 31 名,変更後群 30 名が評価対象となり,days 1-9 の期間において, 2 群間で CR 率の有意な差は認められなかった.本調査より,FosAPR,PAL,DEX による制吐療法は,内服困難な患者に対して CDDP を連日投与する場合の選択肢の一つであることが示された. |
キーワード:パロノセトロン,アプレピタント,制吐療法,化学療法誘発性悪心・嘔吐 |
フェンタニル舌下錠の突出痛コントロール不良に至るリスク因子の探索 |
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加藤博史、成瀬 亮、長谷川真由、宮崎雅之、千﨑康司、野田幸裕、山田清文 |
[要旨] フェンタニルクエン酸塩舌下錠(Fentanyl citrate Sublingual Tablets: FST)はがん患者の突出痛に使用されるが,至適投与量が定時投与オピオイドの投与量と相関しないなどの特徴があるため,導入後も突出痛のコントロールができず中止に至る症例も見受けられる.本研究では,FST の突出痛コントロール不良に至るリスク因子を後方視的に調査した.名古屋大学医学部附属病院にて FST を入院下で導入した患者を抽出し,患者背景を調査した.解析対象は 65 名であり,突出痛コントロール良好群 31 名,不良群は 34 名であった.両群間でロジスティック回帰分析を行ったところ,持続痛の存在が FST 導入後に突出痛コントロール不良に至る有意な因子として見出された.定時投与オピオイド鎮痛薬使用下においても持続痛が残る患者に対して,FST を導入しても突出痛のコントロールが十分にできないことが示唆された. |
キーワード:フェンタニル,舌下錠,がん疼痛,突出痛,持続痛 |
がんおよびがん治療による神経障害性疼痛に対するデュロキセチンの効果発現時期の検討 |
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西澤庸介、石村 光、岡野智史、尾崎正和、幸田恭治、北原隆志 |
[要旨] 国内で化学療法誘発性末梢神経障害治療に汎用されている薬剤の中で,デュロキセチンが神経障害性疼痛に関するガイドライン改訂第 2 版において唯一推奨されている.抗うつ薬であるデュロキセチンは投与初期に,悪心等の副作用発現によって継続困難となることが知られている.また,デュロキセチンの神経障害性疼痛に対する効果発現時期は検討されていない.山口大学医学部附属病院において,がんおよびがん治療による神経障害性疼痛に対して 2016 年 1 月 1 日~ 2018 年 12 月 31 日の間にデュロキセチンが新規で投与開始となった患者を対象に,効果発現時期に関わる後方視的な調査を行った.Receiver Operating Characteristic 解析による効果発現日のカットオフ値は投与開始後 21 日であった.効果発現まで副作用を予防することで,より多くの患者の神経障害性疼痛を緩和できると考える. |
キーワード:デュロキセチン,神経障害性疼痛,化学療法誘発性末梢神経障害,がん,receiver operating characteristic |
短 報
オキサリプラチン治療再導入後の2クール目に過敏反応で心肺停止を来した直腸癌の1例 |
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杉原弘記、岡田昌浩、岡本伸也、村上史承、岡崎和子、江木美峰、渡辺陽子、田代 操、竹井英介、村田年弘 |
[要旨] 4 年以上前にオキサリプラチン(L-OHP)による治療歴のある患者へ L-OHP 含有レジメンを再導入した.1 クール目は過敏反応等の異常所見は認めなかったが,2 クール目の L-OHP 開始から 20 分後に心肺停止となった.直ちに心肺蘇生法を開始し,心拍および自発呼吸は再開した.本症例の提示が今後,L-OHP の過敏反応への対応において参考になるものと考え,ここに報告する. |
キーワード:オキサリプラチン(L-OHP),心肺停止,治療再導入 |