学会誌 VOL.14 No.4 December 2021
原著論文
Mohsペーストの使用状況および障壁要因に関する全国調査 ──日本緩和医療薬学会 研究推進委員会 推進研究テーマ結果報告── |
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田口 真穂、佐藤 淳也、紅谷 梨央、清原 祥夫、宮崎 雅之、山本 泰大 槙原 克也、髙瀬 久光、山田 博章 |
[要旨] Mohsペースト(MP)は,悪性腫瘍による皮膚自壊創の制御を目的とした院内製剤である.多数の有効症例報告を有するが,十分に普及しているとはいえない.そこで,日本緩和医療薬学会会員で病院および薬局に勤務する薬剤師を対象に,使用状況および普及の障壁要因を調査した.回答数は 281 例で,MP の調製経験割合は,勤務先属性が,がん拠点病院,拠点外病院,薬局の順に高かった.薬局は,医師からの要望はあるが調製経験はない割合が高かった.項目別障壁スコアは MP の物性変動に起因する項目と知識不足が高く,施設別障壁総合スコアは薬局が有意に高値を示した.調製経験を有する 174 例のうち,施行場所は入院 92.5%,外来 25.3%,居宅 8.0%であった.最も多く使用されている疼痛対策予防は,経口オピオイドであった.普及の障壁は施設により差があり,適正使用のためには手続きを含め,調製・使用方法,副作用予防等の情報を共有する必要があると考えられた. |
キーワード: Mohs ペースト,モーズ軟膏,がん性創傷,アンケート調査 |
緩和薬物療法認定薬剤師への点滴ルートマネジメントに関わる実態と情報ニーズの調査 |
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吉田 真人、近藤 匡慶、菅谷 量俊、佐藤 淳也、髙瀬 久光 |
[要旨] 緩和医療領域では,点滴ルート確保が困難な場合が多く,皮下投与も含め限られた投与ルートで医療用麻薬などが投与されており,配合変化回避を含めた点滴ルートマネジメントが重要である.しかし,配合変化回避に向けた取り組みの報告は少なく,緩和医療領域での実態や情報ニーズは明らかでない.そこで,日本緩和医療薬学会 緩和薬物療法認定薬剤師に対してアンケート調査にて評価した.715 名中 185 名から回答があり,95.7% の回答者が配合変化試験未実施の組み合わせの配合に関する相談応需の経験があり,88.1% の回答者が不安を伴って回答している現状が明らかになった.加えて,配合変化だけでなく同一ルート投与時の流速変動などを懸念する意見も得られ,緩和医療領域での点滴ルートマネジメントの必要性が明らかとなった.今後,緩和医療の医療安全に貢献すべく,配合変化試験に基づいた点滴ルートマネジメントを確立していく予定である. |
キーワード: 緩和医療,配合変化,点滴ルートマネジメント,医療安全 |
短報
メサドンとタクロリムス使用中の患者にボリコナゾールを併用した症例 |
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橋本 百世、西浦 哲雄、松田 良信、田中 育子、仁木 一順、岡本 禎晃 |
[要旨] Cytochrome P450(CYP)3A4 に関係するメサドンやタクロリムス等を使用中の患者にボリコナゾールを併用した.開始後 Day3 に眠気が出現したためメサドンを減量し,Day11 に痛みの増強が出現したためメサドンを増量した.ボリコナゾールの血中濃度が予想より高値であったため減量した.また,タクロリムスの血中濃度は約 4 倍に増加したため減量した.3 剤併用により,いずれの薬物の血中濃度にも影響を及ぼしたと考えられる. |
キーワード: メサドン,ボリコナゾール,薬物相互作用 |
少量ミダゾラムによる調節型鎮静にて治療抵抗性の苦痛を軽減し退院が可能となった1例 |
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加藤 あゆみ、岡村 由美子、鈴木 規仁、伊勢 雄也 |
[要旨] 疼痛や倦怠感に治療抵抗性を示し,鎮静を希望した患者に対しミダゾラムの投与を少量から開始したところ,睡眠と覚醒のバランスを保ち症状が緩和され,全く選択肢として挙げられなかった退院に繋げることができた.患者に余力がある時期に調節型鎮静を開始することは,体力を温存して症状を緩和し,Quality of Life を確保するために有意義であることが示唆される. |
キーワード: ミダゾラム,調節型鎮静,Quality of Life |
Enhancement of Medical Condition Assessment of Cancer Patients after the Introduction of an Audit System |
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Kensaku AWAJI, Shouhei FUKAO, Satomi NAKASE, Erika TAKESHITA Kazutoshi SUGAYA, and Hisamitsu TAKASE |
Abstract: A newly introduced audit system (AS) enhanced prescription proposals to benefit ward pharmacists who may be unfamiliar with chemotherapy. This study aimed to evaluate its utility. A weekly audit using the AS monitoring sheet and its medical records was conducted in patients with cancer who received chemotherapy or were taking opioids. The AS revealed that the rate of change in prescriptions was 82.9%. It resulted in a numerical rating scale score reduction for pain (5.0→3.3, p < 0.00), an increase in serum sodium levels (129 mEq/L→133 mEq/L, p < 0.00) and improvement in constipation and diarrhea. AS ensured appropriate medical intervention. |
Key words: palliative care, audit system, education |