学会誌 VOL.14 No.2 June 2021
総説
オピオイドによる緩和薬物療法における遺伝子診断を用いた個別化医療の発展と課題 |
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田中 怜、佐藤 淳也 |
[要旨] 遺伝子診断を用いた個別化医療の研究においては,情報が広く公開され,化学療法への臨床応用が活発に行われている.一方で,疼痛緩和治療に関する遺伝子診断の実用化に関しても大きな期待がされているが,これまでにその情報は限定されていた.その理由として,鎮痛発現のメカニズムが明確に判明していないことや,化学療法における生存期間の延長効果などの,明確なアウトカムを設定することが難しいことが挙げられる.しかし,近年の様々な報告から,オピオイドの鎮痛効果に関する各遺伝子変異の寄与が判明し始めており,緩和ケアに関わる医療従事者が遺伝学やゲノム医療に関して理解していく意義は大きいと思われる.そこで,本稿では個別化医療や遺伝子診断における基礎用語の解説をはじめ,オピオイドに関する遺伝子変異を薬物動態学と薬力学の観点で分類し,遺伝子変異の有無による臨床効果への影響について網羅的に解説した. |
キーワード:オピオイド,遺伝子診断,遺伝子変異,個別化医療,SNP |
原著論文
保険薬局の医療用麻薬の有効利用の実態と緩和医療に対する意識調査 |
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土井 信幸、小見 暁子、佐藤 雅夢、北村 修、奥藤 祐三、平田 陽一郎、秋山 滋男 |
[要旨] 保険薬局の緩和医療への介入に対する障壁の一つに,医療用麻薬の不動在庫の破棄ロスなどの経済的負担増が課題となっている.本研究では薬剤師を対象に,地域の薬局間,多職種連携による医療用麻薬を有効利用するための方法について実態調査を行った.また,薬剤師の緩和医療における意識と課題を調査し,薬剤師の緩和医療への参画を妨げる要因を解析した.医療用麻薬を有効活用する仕組みの有無については,23.7% で具体的に実施しており,有効利用の方法として,市内の薬局間で麻薬小売業者間譲渡許可を受けるネットワークを構築していた.緩和医療の課題として,レスキュー時対応の情報不足により,患者の疼痛コントロールが不十分になってしまった例などがあった.薬局間や多職種との連携で地域包括ケアシステムの構築をさらに推進することで,経済的負担の軽減,服薬情報の一元的・継続的な把握と薬学的管理・指導を適正に行うことが可能になると考える. |
キーワード:保険薬局,緩和医療,医療用麻薬,有効利用,地域包括ケアシステム |
入院患者の医療用麻薬自己管理の普及実態における全国調査 ─日本緩和医療薬学会 研究推進委員会 推進研究テーマ結果報告─ |
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佐藤 淳也、宮崎 雅之、高瀬 久光、田口 真穂、槙原 克也、山本 泰大、上園 保仁 |
[要旨] 医療用麻薬を用いたがん性疼痛の管理には,適切ながん性疼痛の評価に基づく定時麻薬の用量設定およびレスキュー薬を適時使用することが重要である.これには,入院患者自らによる医療用麻薬の自己管理が有効である.しかし,その普及実態は明らかではない.そこで,日本緩和医療薬学会会員のなかで病院に勤務する薬剤師を対象に,入院患者への医療用麻薬自己管理の普及実態を調査した.その結果,228 件の回答が得られた.回答者の属性は,60%ががん拠点病院,73%が緩和ケアチームの構成員,58%が緩和薬物療法認定薬剤師であった.これらの調査対象において,自己管理を実施している回答者の割合は 71%であった.検討した事例を含むと 90%の回答が自己管理に関心をもって取り組んでいた.しかし,60%以上の管理状況は,レスキュー薬 1 回分など制限を設けていた.また,自己管理ができなくなったときの中止判断の基準がないなどの問題点も明らかとなった.自己管理の普及には,そのメリットを周知するほか,標準的管理方法の策定などの啓発活動が重要であると考えられた. |
キーワード: 医療用麻薬,がん性疼痛,自己管理,実態調査 |
Are Corticosteroids Useful for End-stage Cancer Patients? A Retrospective Chart Review in the Palliative Care Unit |
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Ikuko TANAKA, Yoshiaki OKAMOTO, Yoshitaka TAKAHASHI Seiji ASADA, and Chikako NUMATA |
Abstract: Corticosteroids are widely used to treat a variety of symptoms in terminal cancer patients. Although they have been shown to improve general fatigue, anorexia, nausea/vomiting, brain-metastasis-related symptoms, and dyspnea, further evidence is required. Major adverse effects due to corticosteroid administration include psychological symptoms, infections, muscular atrophy, osteoporosis, and peptic ulcers. Furthermore, symptoms that show as adverse events, such as the exacerbation of the primary disease, have also been observed. The timing of appearance and type of adverse effects remain to be clarified. In this study, we clarified the purpose, effectiveness, and adverse events of corticosteroid use in terminal cancer patients admitted to the palliative care unit. We conducted a chart survey involving 595 patients who were admitted to the Palliative Care Unit of Ashiya Municipal Hospital between July 1, 2012 and December 31, 2015. Corticos-teroids were mainly used to relieve general fatigue and anorexia and were effective in over 70% of patients. Furthermore, there was a significant difference in the period of food intake between corticosteroid- and non-corticosteroid-treated patients with meals taken 3.9 and 6.8 days before death, respectively. The period from the start of administration until the appearance of adverse events was approximately 3 weeks. Delirium and oral candidiasis were the most frequent adverse events occurring in 26.5 and 13.8% of patients, respectively. Although there was no significant difference in incidence of delirium between patients receiving or not receiv-ing corticosteroids, there was a significant difference in incidence of oral candidiasis. Corticosteroids may be safe and effective if the administration period is limited and used with a specific purpose. |
Key words:adverse effect, palliative care, corticosteroid, cancer, end of lifecare, symptom management |
短報
オクトレオチドとノルアドレナリン投与による徐脈が疑われた1例 |
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牧浦 耕平、堀 智貴、尾崎 智規、吉岡 奈津恵、生島 繁樹 |
[要旨] オクトレオチドには重大な副作用として徐脈があるが,臨床での報告は少ない.今回,イリノテカンによる下痢に対して使用したオクトレオチドで徐脈を経験した.オクトレオチド投与直後より心拍数が減少したが,オクトレオチドの中止だけでは改善せず,ノルアドレナリンの関与も疑われた.心拍数の最低値は 40 回/分であった.オクトレオチドとノルアドレナリンの併用には注意が必要である. |
キーワード:オクトレオチド,徐脈,ノルアドレナリン |