一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.14 No.1 March 2021

原著論文

がん患者の呼吸困難に対するコルチコステロイド投与と
Support Team Assessment Schedule Japanese Version (STAS-J)
評価スコアの変化
前田 剛司、早川 達
[要旨] 呼吸困難は,患者の不快な感覚と定義される主観的な症状であり,がん患者が訴える症状のなかで割合が高率である.特に,終末期ではその頻度がさらに上昇する.呼吸困難を緩和することは,患者の QOL の向上が期待でき,生存の延長に寄与できることから,きわめて重要なことと考えられる.今回,終末期がん患者の呼吸困難に対するコルチコステロイド投与と,STAS-J 評価スコアを使用してその投与効果を評価することにより,コルチコステロイド投与と STAS-J 評価スコアの変化を明らかにして,呼吸困難の緩和に使用するコルチコステロイドの有効性を探索した.コルチコステロイドの投与 2 日後に,STAS-J 評価スコアの変化率が大きいことが示された.特に,重症群の呼吸困難の緩和に対するコルチコステロイドの使用は,コルチコステロイドの有効性が享受できる患者群となる可能性がある.
キーワード:終末期がん患者,呼吸困難,コルチコステロイド,STAS-J,評価スコア

 

一般病棟の終末期における化学療法の現状
米北 浩人、藤田 淳志、津野 侑子、中村 英治
[要旨] 死の直前まで行う化学療法は,その身体的ダメージから有害事象を出現しやすく,Quality of Life の低下が懸念される.しかし,化学療法を中止する明確な時期はなく,中止の決断は難しい.本研究では,一般病棟の終末期における化学療法の実態調査を行った.対象は,切除不能・進行再発の固形がん患者 391 例を後方視的に調査した.死亡前 14 日以内の化学療法の実施率は 11.8%,死亡前 30 日以内に新規抗がん薬を導入した割合は 8.7%であった.また,死亡前 30 日以内に化学療法を実施する背景因子は Performance Status > 2 と経口投与で,分子標的薬,フッ化ピリミジン系薬が多く使用されていた.そのため,患者と治療目標を一致させ,早期から患者の意向に沿った意思決定支援を行い,適切な時期に化学療法を中止することが望まれる.
キーワード: 終末期,Quality of Life,化学療法,経口抗がん薬

 

短報

メサドンからオキシコドン注へ変更し,再度メサドンへの切り替えが可能であった1例
大内 竜介、薄井 健介、岡田 浩司、倉田 奈央子
鈴木 清寿、長尾 宗紀、児山 香、渡辺 善照
[要旨] メサドンは他のオピオイド鎮痛薬への換算比が確立しておらず,内服が継続できなくなった際のスイッチングが困難であることが知られている.今回,激しい悪心により経口メサドンの継続が困難となったため,メサドン導入前のオピオイド量の 80% 相当のオキシコドン注に変更し,レスキューを併用しながらタイトレーションを行った.その後,消化器症状は軽快したため再度経口メサドンへ切り替え,外来で化学療法を継続できた.
キーワード:メサドン,オピオイドスイッチング,オキシコドン

 

覚醒剤依存症の既往が影響したと考えられたオピオイド誘発性せん妄を認めた1例
萬谷 摩美子、黒屋 謙吾、小木曽 綾子、山田 泰史、轟 慶子、山田 祐司
[要旨] 転移性骨腫瘍(以下,骨転移)治療でオピオイド鎮痛薬(以下,オピオイド)使用後にせん妄を呈した症例を経験した.放射線治療・脊椎固定術の施行後,オピオイドの減量・中止によりせん妄は改善した.しかし,病状進行によるオピオイドの再開で,せん妄が再出現した.のちに覚醒剤依存症の既往が判明し,覚醒剤既往歴がオピオイドによるせん妄に影響していた可能性が示唆された.がん疼痛治療で,薬物使用歴を把握することは重要である.
キーワード: 覚醒剤,オピオイド,せん妄

 

腎細胞がん化学療法中に発症したSJSの経過と被疑薬に関する一考察
杉山 奈津子、佐藤 淳也、黒﨑 隆、吉成 宏顕、橋本 竜
神坐 美弥子、前澤 佳代子、内田 克紀、百瀬 泰行
[要旨] 甲状腺機能低下症の副作用歴がある腎細胞がん骨転移再発の 50 歳代女性患者が,がん化学療法中にスティーブンス・ジョンソン症候群を発症した.起因薬剤の特定には至らなかったが,複数の被疑薬と腎盂腎炎感染症の影響が複合して発症したと考えられた.がん化学療法中の患者は,複数の副作用を発現することがあるため,注意する必要があると考えられた.
キーワード: がん化学療法,スティーブンス・ジョンソン症候群,副作用