学会誌 VOL.11 No.1 March 2018
原著論文
がん患者の突出痛に対するフェンタニル舌下錠適正使用に関する検討 |
---|
鍛治園 誠、岡田 阿佑美、佐田 光、片山 英樹、松岡 順治、北村 佳久、千堂 年昭 |
[要旨] フェンタニル舌下錠は,がん疼痛の中で突出痛に用いられるレスキュー薬である.しかし,従来の速放性製剤と異なり,1 日の使用回数や開始時の適正用量の検索など煩雑さを感じる薬剤である.そのため,多くの施設での積極的な使用には至っていない.岡山大学病院でフェンタニル舌下錠が処方された入院患者 31 名を対象に,患者の背景,至適投与量,至適投与量までに要した使用回数および日数,定期オピオイド鎮痛薬の 1 日投与量を後方視的に調査した.至適投与量は 61%が 100 µg であり,至適投与量決定までに要した平均投与回数は 3.8 回,平均投与日数は 2.3 日であった.定期オピオイド鎮痛薬とフェンタニル舌下錠の至適量に相関はみられなかったが,6割の患者は最低用量で疼痛のコントロールが可能であり,外来での導入も可能であることが示唆された.そこで,患者記録シートを作成し,外来で安全に導入することを目的に取り組みを行った. |
キーワード: フェンタニル舌下錠,至適投与量,相関性,適正使用 |
入院患者の麻薬自己管理の実施実態に関するアンケート調査 |
---|
佐藤 淳也、岡本 禎晃、高橋 寛名、八重樫 学、的場 元弘 |
[要旨] 麻薬性鎮痛薬を用いたがん性疼痛の管理には,突発的な痛みの発生時に速やかにレスキュー薬を使用することが重要である.これには,入院患者自らによる麻薬の自己管理が有効であるが,その普及実態は明らかではない.そこで,麻薬自己管理に関するワークショップの開催時に,アナライザーを用いて普及実態を調査したので報告する.ワークショップ開始時の参加者 74 名の所属施設の 52%において麻薬自己管理が実施されていた.しかし,自己管理させている麻薬の量については,1 回分に制限しているとの回答が 73%を占めた.まだ,麻薬自己管理未実施の理由として,院内ルールの未整備や医療スタッフの合意が得られない,紛失・盗難等事故への懸念が回答された.実際の事故の経験としては,紛失(9 件)が最も多かったものの,盗難は回答されなかった.現在,医療用麻薬適正使用ガイダンスにおいて麻薬自己管理の実施が推奨されており,ガイダンスを院内で周知するなどの啓発活動が重要であると考えられた. |
キーワード: 医療用麻薬,自己管理,実態調査 |
三環系抗うつ薬アミトリプチリンを用いた含嗽水の耐用濃度の検討 ─健康人を対象とした単盲検かつ探索的研究─ |
---|
佐々木 寿子、江口 智子、国分 秀也、厚田 幸一郎 |
[要旨] がん化学療法による口腔粘膜炎の痛みに対して,アミトリプチリンを含嗽水として用いた場合の効果を検討する前段階として,健常人を対象に耐用濃度の検討を行った.同意取得が得られた健常人にアミトリプチリン含嗽水 3 濃度を 1 回ずつ,計 3 回含嗽してもらった.主要評価項目を刺激感,副次的評価項目をしびれ感,有害事象を倦怠感,眠気とし,含嗽後 60 分間について VAS 値による経時的評価を行った.調査対象は 20 例(脱落 3 例)であった.刺激感において 0.10%群と 0.20%群の間に有意差が認められた(p < 0.016).しびれ感の VAS 平均値は濃度に従って大きくなり,全群間で有意差が認められた.眠気は全群で認められた.0.20%溶液では他の群に比べて刺激感が強い傾向にあり,また眠気も濃度依存的に強くなる傾向があったことから,含嗽に適していないと考え,アミトリプチリン含嗽水としては 0.10%溶液が適していると考えた. |
キーワード: アミトリプチリン,三環系抗うつ薬,口腔粘膜炎,疼痛,含嗽水 |
処方改良Mohsペーストの保存安定性評価 |
---|
田口 真穂、重山 昌人、田村 大喜、森 和也 村田 実希郎、埴岡 伸光、山本 浩充、寺町 ひとみ |
[要旨] Mohs ペースト(MP)は,表在性腫瘍に対して緩和目的に使用される院内製剤の外用薬である.MP は,調製直後から硬度や粘弾性が著しく変化して均一な塗布が困難なこと,さらに,患部の水分吸収後に液状化して塗布部以外に流出することの 2 つの問題点を有している.処方改良により塗布性を改善したソルビトール添加 MP (S-MP)と,塗布性および液状化を改善した非デンプン含有 MP(C-MP)について,保存後の安定性を検討する目的で製剤学的評価を行った.4℃または 40℃で 30 日保存後,MP は硬度の低下および伸長特性の増大が観察された.S-MP は 4℃で硬度が上昇し,40℃で伸長特性が増大した.C-MP はいずれの条件においても,硬度および伸長特性の有意な変化はなかった.有効成分の放出試験では,各 MP ともに,保存による放出性の変化は認められなかった.以上の結果から,C-MP の製剤特性が最も安定していると推察された. |
キーワード: Mohs ペースト,院内製剤,処方改良,安定性評価 |
短報
緩和ケアチームの支援により難治性神経障害性疼痛にメサドンが有効であった一例 |
---|
山田 正実、地丸 裕美、渡邉 美貴、松村 千佳子、鎌田 実、高橋 一栄 |
[要旨] 筆者らは,高用量モルヒネ注射でも軽減しない難治性神経障害性疼痛を有する患者が,メサドンへスイッチを行ったことで疼痛が軽減した症例を経験した.モルヒネにはなくメサドンが有する NMDA 受容体拮抗作用,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用により,神経障害性疼痛が軽減したと考えられる.難治性がん疼痛,神経障害性疼痛に対してメサドンは有効な選択肢の一つとなると考えられた. |
キーワード: メサドン,神経障害性疼痛,オピオイドスイッチング |