学会誌 VOL.10 No.4 December 2017
総説
がん悪液質の症状緩和を促す六君子湯─食思促進ペプチドグレリンシグナル作用を通して |
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上園 保仁、宮野 加奈子 |
[要旨] がん患者の苦痛を全体的に捉え,1 人の患者全体の症状を改善するという観点から,中国で生まれ日本で発展した「漢方薬」が重要な補完療法として位置づけられている.21 世紀に入り漢方薬の作用機序の科学的根拠が明らかになるのに伴い,がん患者の諸症状に合わせた漢方薬処方も行われている.がん悪液質は終末期がん患者にみられ,食思不振,体重減少,特に骨格筋の消耗を伴う病変であり,その治療法はまだ確立されていない.近年悪液質の食思改善のため,漢方薬六君子湯が奏効することが明らかとなってきた.基礎研究により,六君子湯は構成する 8 種の生薬のうちの 5 種が協働しあい,末梢で唯一の食思改善ホルモンであるグレリンシグナルを増強することで悪液質を改善することが明らかとなった.このように科学的根拠に基づいた漢方薬の処方が,今後,がん患者の支持・緩和療法としてますます重要になるものと思われる. |
キーワード: 漢方薬,六君子湯,がん悪液質,食思亢進ホルモングレリン,グレリンシグナルエンハンサー |
原著論文
山口県下の病院における患者の麻薬自己管理に関する実態調査 |
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尾﨑 正和、佐藤 真也、伊東 真由子、岡 智之、木下 英樹 藏田 康秀、塚原 邦浩、平岡 ひろ子、光末 尚代、古川 裕之 |
[要旨] 入院患者による医療用麻薬の自己管理に関する山口県での調査報告はなく,実態は不明であった.当委員会では,山口県下の病院全 125 施設を対象として,自己管理および施設環境に関する多肢選択式の質問票を用いて任意の実態調査を行った.54 施設から回答があり,麻薬の患者自己管理を実施している施設は 21 施設であった.自己管理を実施している施設は実施していない施設に比べ,有意に医療用麻薬の採用が多かった.緩和医療に関する専門・認定資格者の在籍や緩和ケア病床の保有も,自己管理率の高さに影響していた.自己管理では,レスキュー薬に限定して 1 回分のみ渡している施設が最も多く,患者の要件に対し基準を設けている施設は 21 施設中 10 施設であった.今回の調査結果にもとづき,疼痛緩和における患者ニーズと法的規制のバランスを考慮して,各施設で実施可能な方策を検討するために本調査結果を利用していく. |
キーワード: 麻薬自己管理,緩和医療,医療用麻薬,質問票,実態調査 |
がん終末期で消化管閉塞が認められない悪心に対するオクトレオチド酢酸塩の効果 |
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丸山 昌広、梅村 雅之 |
[要旨] がん終末期の悪心に対しメトクロプラミドやハロペリドールを単独または併用で使用しても改善が認められず,消化管閉塞が認められない患者にオクトレオチド酢酸塩を投与した症例が散見された.そこで,このような症例に対するオクトレオチド酢酸塩の有効性を明らかにするため,診療録および看護記録より後ろ向き調査を行った.胃がん 4 例,腎細胞がん 1 例が対象となった.オクトレオチド酢酸塩投与開始 3 日後,悪心の頻度および強度のグレードはそれぞれ 4.13 ± 0.83 から 2.25 ± 0.89,3.75 ± 1.16 から 1.75 ± 0.46 に有意に低下した(p <0.05).有効であった原因は不明であるが,文献から,消化液の分泌抑制および水分・電解質吸収促進作用が示唆された.がん終末期における悪心は,原因を詳細に検討し,対応することにより症状の改善が期待できると考えられた. |
キーワード: オクトレオチド酢酸塩,悪心,消化管閉塞,がん終末期 |
短報
ソルビトールの添加で塗布性を改善した新処方Mohsペーストの臨床使用の1例 |
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橋口 宏司、田口 真穂、菊池 絵里、飯村 仁美、横山 敦 久保 雅恵、神谷 武伺、藤澤 順、重山 昌人、寺町 ひとみ |
[要旨] 現在臨床で使用されている Mohs ペースト(MP)は,調製後から経時的に硬度や粘弾性が著しく変化するために塗布性が悪く,各施設で塗布方法の検討が行われている.これらの物性変化を改善するために,ソルビトールを添加した新処方 MP を,乳がんの皮膚自壊創に対し臨床使用した.新処方 MP は従来問題であった塗布性を改善し,安全性や効果は同等であると推察された. |
キーワード: Mohs ペースト,乳がん,ソルビトール |
ホスピスに入院した患者のポリファーマシーの検討 |
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岩崎 誠、吉田 博史、西立野 研二 |
[要旨] 終末期がん患者における内服薬を,ポリファーマシーの観点から検討した.2016 年 4 ~ 10 月に入院した患者 98 人の持参薬を検証した.検証した持参薬は合計 491 剤であり,患者 1 人あたりの持参薬数は平均 5 剤であった.患者によっては薬への思い入れが強いこともあり,単に減薬するのではなく,患者,家族と合意するプロセスが重要と考える. |
キーワード: ポリファーマシー,がん終末期,ホスピス |