学会誌 VOL.10 No.3 September 2017
原著論文
側管から投与されるオクトレオチドのステロイド注射剤および静脈栄養剤との配合変化 |
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佐藤 淳也、山田 岳雄、工藤 賢三 |
[要旨] オクトレオチド酢酸塩(サンドスタチンⓇ皮下注用;OCT)は,消化管閉塞による悪心嘔吐の改善を目的に,ステロイド注射剤や静脈栄養剤と併用されることが多い.OCT の投与方法としては,保険適用外ながら,静脈投与される場合がある.また,OCT とステロイド注射剤や静脈栄養剤との配合変化を避けるため,その側管から投与される場合がある.しかし,側管投与における OCT の安定性は不明である.本研究では,臨床使用濃度(10 µg/ml)に調製した OCT が,50 ~ 250 倍に希釈した 4 種のステロイド注射剤および 3 種の静脈栄養剤の側管から投与した場合を想定した短時間の安定性を検討した.結果として,ステロイド注射剤と混合 15 分までの OCTの分解はわずかであった.一方,ほとんどの静脈栄養剤との混合では,直後から分解が目立った.以上より,側管から OCT を混合する場合,メインルートに流れるステロイド注射剤による OCT 分解はわずかであるが,静脈栄養剤では混合直後から OCT 分解の可能性があり,たとえ側管からの投与であっても混合は避けるべきであると思われた. |
キーワード: オクトレオチド,デキサメタゾン,ベタメタゾン,静脈栄養剤,配合変化 |
トラマドール・アセトアミノフェン配合錠におけるCYP2D6阻害作用をもつ薬剤の影響 |
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小澤 康久、大竹 剛靖、権藤 学司、下山 ライ、北川 泉 田中 江里、田中 正史、巽 一郎、山下 理絵、仲鉢 英夫 |
[要旨] トラマドールは Cytochrome P450 2D6(以下,CYP2D6)に代謝され,その代謝物が強い鎮痛効果を発揮するため,海外では CYP2D6 の代謝が効果に影響を与えるという報告があるが,日本の添付文書には記載がない.そのため,日本人において CYP2D6 阻害作用をもつ薬剤がトラマドール・アセトアミノフェン配合錠の鎮痛効果に影響があるか否か,後方視的に調査を行った.2013 年 1 〜 12 月にトラマドール・アセトアミノフェン配合錠を入院中に開始された患者を対象に,疼痛は投与前の Numerical Rating Scale(以下,NRS)と投与 1 日後・3日後の 1 日の NRS の平均の差で評価した.併用薬を CYP2D6 阻害作用のある薬剤(以下,阻害薬剤),CYP2D6の基質として代謝される薬剤(以下,基質薬剤),阻害作用もなく基質とならない薬剤の 3 群に分け,阻害薬剤を併用している群と併用していない群の比較と,阻害薬剤・基質薬剤と併用した群と併用していない群とを比較した結果,いずれも鎮痛効果の低下は確認できなかった.これより,添付文書上からの検索では CYP2D6 の影響を予測することはできないと考えられる. |
キーワード: トラマドール,CYP,CYP2D6,阻害,相互作用,競合的阻害,NRS |
Effect of Olanzapine on Opioid-induced Nausea and Vomiting in Cancer Patients |
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Yuko YOSHIDA, Keiko KOMORI, Yoshimi FUJI, Mari TAKAGI, Masumi SANDOU, and Etsuko UEJIMA |
Abstract: Opioids may be used for pain relief in cancer patients, but nausea and vomiting develop as side effects in 10-40% of these patients at the beginning of administration or as a result of a dosage increase during the treatment period. There are few high-quality studies showing that the antiemetics used clinically are effective for the inhibition of opioid-induced nausea and vomiting. This retrospective study evaluated the efficacy and safety of olanzapine administered to patients who were receiving opioids. Twenty-five patients who experienced minimal beneficial effects with metoclopramide, prochlorperazine, or other types of antiemetics, and who then received olanzapine as an additional antiemetic agent at our hospital, from 2010 through 2015, were eligible for this study. Nausea and vomiting were prevented in 0% and 12% of the patients, respectively, before the addition of olanzapine and in 56% and 80%, respectively, after the addition of olanzapine. In the statistical analysis, a significant difference (p < 0.001) was found between the 2 groups. The study results showed that the symptoms of nausea and vomiting improved significantly after the addition of olanzapine. This suggests that opioid-induced nausea and vomiting may be suppressed by the addition of olanzapine, which may have contributed to improved quality of life in these patients. |
Key words: antiemetics, cancer patient, nausea and vomiting, olanzapine, opioid |
短報
胆嚢がん化学療法施行中の関節リウマチ患者にアバタセプトを投与しえた1症例 |
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滝澤 康志、西澤 さとみ、風間 恵美、芦原 典宏、山田 重徳 高木 寛司、上條 浩司、石坂 克彦 |
[要旨] 日本ではがん患者が増加し関節リウマチ患者が,がんに罹患することも少なくない.今回,基礎疾患の関節リウマチの治療中に胆嚢がん(Stage ⅣB)と診断されてがん化学療法をおこなっていたが,手指関節症状増悪に伴い,生物学的製剤の T 細胞選択的共刺激調節剤とがん化学療法を併用したところ,関節リウマチの症状は改善し治療が継続できた症例を経験したので報告する. |
キーワード: 生物学的製剤,関節リウマチ,がん化学療法 |
Sulfamethoxazole-Trimethoprimの投与法変更により難治性悪心が緩和した1例 |
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淡路 建作、髙瀬 久光 |
[要旨] Temozolomide の副作用である悪心の予防目的で,5-HT3 受容体拮抗薬の投与が推奨されるが, Radiation Therapy との併用療法においては不十分との報告がある.今回,難治性の悪心発生後,Prednisolone 投与も一過性の症状緩和しか得られず,併用薬の Sulfamethoxazole-Trimethoprim の投与法変更後に改善を認めた症例について報告する.併用療法に対する制吐剤の追加および抗悪性腫瘍剤以外の併用薬の悪心への寄与を検討する必要性を考えた. |
キーワード: 5-HT3 受容体拮抗薬,難治性悪心,Sulfamethoxazole-Trimethoprim |