一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.9 No.4 December 2016

原著論文

プロトコールによる血清マグネシウム濃度測定と高マグネシウム血症発現因子の検討
中島 誠、佐藤 穂波、高橋 武士、寺師 守彦
田中 千恵、大瀬 克広、林 秀樹、杉山 正
[要旨] オピオイドによる便秘の管理のために,緩和ケア病棟での酸化マグネシウム製剤(MgO 製剤)の使用頻度は高い.MgO 製剤服用患者では定期的な血清 Mg 濃度の測定が必要となるが,当院での測定頻度は十分ではなかった.そこで,緩和ケア科医師と緩和ケア病棟担当薬剤師間でプロトコールを作成し,血清 Mg 濃度の測定体制を構築した.その結果,血清 Mg 濃度の測定頻度は有意に増加した.次に,血清 Mg 濃度が測定された患者を対象とし,高 Mg 血症発現患者の要因解析とカットオフ値の算出を行った.その結果,高 Mg 血症の危険因子として血中尿素窒素の上昇が検出され,カットオフ値として 22.5 mg/dl が検出された.高 Mg 血症の早期発見は,複雑な臨床症状を呈するがん終末期患者の苦痛の原因検索につながる.また,腎機能の低下や脱水等がある患者は,高 Mg血症を起こす危険があるため,MgO 製剤の使用は慎重に検討する必要があると考えられた.
キーワード: 緩和ケア病棟,酸化マグネシウム,高マグネシウム血症,プロトコール,血中尿素窒素

 

ホスピス緩和ケア業務に従事する薬剤師に対するターミナルケア態度尺度を用いた意識調査
小畑 友紀雄、森本 泰子、齋藤 俊子、尹 美帆、徳山 尚吾
[要旨] 近年,ホスピス緩和ケア領域において,医療チームの一員として薬剤師にもそれらに関連する業務への参画が強く求められている.しかしながら,現状において,緩和ケア業務に従事する薬剤師はまだ少ない.一方,薬剤師に比較して,多くの医師や看護師は本領域において積極的に活動している.その理由の一つとして,「死生観」や「ホスピス緩和ケアへの考え方」に差異があると考えられたことから,「死にゆく患者に対する医療者のケア態度を測定するターミナルケア態度尺度 日本語版(FATCOD B-J)」1)を用いてアンケート調査を実施した.対象は,「緩和ケア病棟入院料届出受理施設」(NPO 法人日本ホスピス緩和ケア協会 HP に掲載)の中で,近畿地区(滋賀県,京都府,大阪府,奈良県,和歌山県,兵庫県)に住所登録のある 45 施設においてホスピス緩和ケア業務に従事する薬剤師 41 名とした.その結果,ホスピス緩和ケアに従事する薬剤師は,業務にかかわる期間が長く,業務形態が専任であり,本領域に関する情報の収集が十分行える環境である場合に,緩和ケアに対する積極性が高まることが示唆された.
キーワード:ホスピス緩和ケア,FATCOD B-J,死生観,ターミナルケア態度

 

麻薬取扱保険薬局における麻薬備蓄状況ならびに患者への服薬指導の実態調査
藤井 美佳、立松 三千子、湯川 和典、金田 典雄
[要旨] 平成 26 年 4 月に診療報酬の改定が行われ,基準調剤加算 1 の施設基準に麻薬小売業者免許取得の要件が加わった.それにより麻薬小売業者免許を取得する保険薬局(以下,薬局)が増え,医療用麻薬(以下,麻薬)の院外処方が今以上に一般的になると考えられる.そこで,麻薬処方箋を応需する薬局における服薬指導等の実態を明らかにすることを目的として,アンケート調査を実施した.その結果,麻薬を常備していない薬局が多いことや,保険薬局薬剤師(以下,保険薬剤師)の緩和医療に対する基礎的知識が不足していることなどが明らかとなった.また,レスキューに関する知識は普及しているが患者指導がされていないケースが多いなど様々な問題のある現状がみえてきた.今後,院外麻薬処方箋を取り扱う保険薬剤師は,十分ながん患者サポートを行うため,医療機関との連携を進めるとともに疼痛治療に関する知識を身につける必要性があると考えられる.
キーワード: 医療用麻薬,院外麻薬処方箋,緩和医療,保険薬局,レスキュー

 

短報

ロピバカイン硬膜外投与患者の在宅療養への調整経験
-緩和ケアチーム薬剤師の視点から-
近藤 有、柴原 弘明、村松 雅人、小島 康裕、小林 聡、阿部 美香、渡部 恵
植松 夏子、田中 沙耶、横山 美里、柴田 賢三、西村 大作、坪井 伸治
[要旨] ロピバカイン硬膜外鎮痛法でのがん患者在宅療養調整を経験した.薬剤師の視点では,①院外処方困難なロピバカインを院内処方する際の各部署との事前連携調整,②処方当日調製後,訪問看護へ連絡,麻薬搬送証明書・麻薬受領書の準備,という流れの構築がポイントであった.薬剤師は,在宅療養でのロピバカイン硬膜外鎮痛法において,患者・家族がスムーズに薬剤投与を受けられるサポート体制構築を担うことが重要である.
キーワード: ロピバカイン,硬膜外鎮痛法,在宅

 

高用量のメサドンからオキシコドン注にオピオイドスイッチングをした1例
三浦 篤史、山本 亮、篠原 圭祐、北原 奈緒美、大塚 菜美、宮田 佳典
[要旨] メサドンから他のオピオイド鎮痛薬の換算比は確立しておらず,安全で効果的なオピオイドスイッチングは困難な状況にある.筆者らは,閉塞性イレウスにより内服困難となった胃がん患者に対し,高用量メサドンからオキシコドン注にオピオイドスイッチングをした.オキシコドン注の用量は,メサドン導入前のオピオイド量の7 割とした.呼吸抑制のリスクを考慮し,レスキューを併用しながらタイトレーションする方法が現実的であると考えられた.
キーワード: メサドン,オピオイドスイッチング,オキシコドン