一般社団法人 日本緩和医療薬学会

menu

学会誌 VOL.9 No.3 September 2016

原著論文

軽度から中等度がん性疼痛患者のトラマドールの疼痛コントロールに影響する要因解析
田中 美穂、岸本 大裕、長安 真穂、酒井 繁彰
田中 嘉一、中島 由紀、杉浦 宗敏、濱田 潤
[要旨] WHO 除痛ラダー第 2 段階の治療薬トラマドール塩酸塩カプセル(TRM)が,がん患者の疼痛コントロールに影響を与える要因を解析した.2011 年 3 月~ 2015 年 2 月に千葉県済生会習志野病院に入院した際にがん性疼痛コントロールを目的に TRM の投与が開始された患者 76 名を対象とし,基本患者背景(性別,年齢,入院日数,原発がん種など)および疼痛治療に関する患者背景(TRM の投与量,レスキュー薬の使用の有無,鎮痛薬の併用の有無,オピオイドスイッチングの有無など)を調査した.TRM による疼痛コントロールと患者背景の関連性をロジスティック回帰分析で解析したところ,オピオイドスイッチング有(p < 0.01),レスキュー薬使用有(p = 0.01),定時量 200 mg 以上(p = 0.05)が有意な関連要因であった.TRM の適正使用にはオピオイドスイッチングのタイミングを適切に判断する必要があり,その判断のためには,レスキュー薬の使用や TRM の用量調節が重要であることが示唆された.
キーワード: トラマドール,疼痛コントロール,オピオイドスイッチング,ロジスティック回帰分析

 

オキシコドン誘発悪心・嘔吐に対する予防的制吐薬の使用状況とその効果
久米 初枝、宮崎 雅之、加藤 博史、前田 愛、十九浦 宏明
杉下 美保子、足立 康則、安藤 雄一、山田 清文
[要旨] 強オピオイド鎮痛薬を初回導入する際に,オピオイドの副作用である悪心・嘔吐を予防する目的で制吐薬を予め定期内服することについての有効性は,エビデンスに乏しく,国内および海外におけるガイドラインでは積極的には推奨されていない.当院で新規にオキシコドン錠(Oxycodone: OXY)10 mg/day を導入した患者 201名を対象に,OXY 誘発性の悪心・嘔吐を予防する目的で使用されるプロクロルペラジン錠(prochlorperazine: PCZ)の使用状況と制吐効果について,電子カルテで後方視的に調査した.162 名の患者(80.6%)が PCZ を予防的に内服し,PCZ を予防的に内服していた患者の Complete Response (CR),Total Control(TC)の割合がそれぞれ 85.8%,68.5% であるのに対し,PCZ を内服しなかった患者では,それぞれ 74.4%,66.7% と両群間に有意差は認められなかった(CR: p = 0.136,TC: p = 0.824).多変量解析において,性別(女性)が嘔吐の独立した要因因子となった(オッズ比 : 2.228).OXY で誘発される悪心・嘔吐に対する PCZ の予防内服の制吐効果は確認できなかった.
キーワード: 予防的制吐薬,悪心・嘔吐,オキシコドン,プロクロルペラジン,女性

 

麻薬自己管理下における End-of-dose failure の実態調査
佐藤 淳也、吉田 翔、森 恵、木村 祐輔、工藤 賢三
[要旨] End-of-dose failure(EDF)とは,定時麻薬の切れ目の痛みを示し,生理学的な突出痛とは区別される.しかし,がん患者における EDF の実態は明らかではない.そこで,麻薬自己管理下における使用状況から EDF の実態を後方視的に調査した.レスキュー麻薬の 1 日平均使用頻度(±標準偏差)および全使用回数における EDFの頻度は,経口オキシコドンあるいはモルヒネ徐放剤使用患者(25 名)において 2.2(± 0.4)回,188/419 (44.9%),およびフェンタニル貼付剤使用患者(5 名)において 2.8(± 1.1)回,29/166(17.5%)であった.いずれの製剤においても EDF と思われるレスキュー麻薬の使用頻度は高いと思われ,EDF に注目したベース麻薬の用量調節が重要であると考えられた.
キーワード: end-of-dose failure,麻薬自己管理,レスキュー麻薬,突出痛

 

短報

Effects of a Camostat Mesilate Gargle on Stomatitis Caused
by Molecular Target Therapy:A Case Report
Naoko ISHII、Yayoi KAWANO、Masahito SUZUKI、Masayo KOMODA
Kimiko MAKINO、and Takehisa HANAWA
Abstract: Sorafenib is a small molecule that inhibits tumor cell proliferation and tumor angiogenesis and increases the rate of apoptosis in a wide range of tumor models. Generally, stomatitis occurs in approximately 40% of cancer patients treated with chemotherapy. In the case of sorafenib, 10% of patients develop stomatitis as a serious adverse effect. A case of serious stomatitis induced by the use of sorafenib is reported. The patient had already used rebamipide and allopurinol. Therefore, the patient was treated with camostat mesilate as an alternative. The stomatitis improved, and the associated pain was relieved. The patient’s food intake and quality of life improved.
Key words: stomatitis, molecular target therapy, camostat mesilate gargle

 

消化管閉塞に伴う嘔吐症状に低用量オクトレオチドが奏功した終末期がん患者の2症例
小林 星太、寺田 祐里、大和 太郎、枝廣 茂樹、菅 幸生
[要旨] オクトレオチド注射液は,がん患者の消化管閉塞に伴う消化器症状の改善を目的に,通常 300 µg/ 日で持続投与される.今回われわれは,定期投与量 120 µg/ 日のオクトレオチドが消化管閉塞に伴う嘔吐症状に奏功した在宅終末期がん患者の 2 例を経験したので報告する.通常よりも低用量のオクトレオチドが有効である可能性が示された.
キーワード:  オクトレオチド,オキシコドン,消化管閉塞