一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.8 No4. December 2015

原著論文

トラマドール/アセトアミノフェン誘発嘔気、嘔吐における予防対策の有用性と関連因子
芳野 知栄、河添 仁、井門 敬子、田中 亮裕、田中 守、荒木 博陽
[要旨] 弱オピオイドであるトラマドール塩酸塩 / アセトアミノフェン配合錠(以下,TRAM/APAP)は,嘔気・嘔吐を起こしやすく,疼痛コントロールの障害となることが懸念される.オピオイドの嘔気・嘔吐に対しては,必要に応じて制吐薬の投与が推奨されているが,予防投与の有用性を示す根拠はない.そこで,愛媛大学医学部附属病院で TRAM/APAP が新規導入された入院患者(80 名)における,制吐薬予防投与の有用性および嘔気・嘔吐発現リスク因子について評価した.制吐薬予防投与の有無による TRAM/APAP 誘発嘔気・嘔吐に有意な差はみられなかった(p = 0.968,p = 0.816).嘔気・嘔吐発現のリスク因子を検討した結果,胃腸障害が嘔気発現のリスク因子であることが明らかとなった(p = 0.042).胃腸障害のある患者には制吐薬の予防投与が有用である可能性が示唆された.
キーワード: トラマドール塩酸塩 / アセトアミノフェン配合錠,嘔気,嘔吐,制吐薬,予防投与

 

モーズペーストの利便性改善に向けた研究~基剤変更が粘性に及ぼす影響~
佐藤 淳也、茂庭 美希、藤澤 晨、工藤 賢三
[要旨] モーズペーストは,表在性腫瘍の縮小や止血および滲出液制御を目的とした院内製剤である.しかし,経時的にその粘性は高くなり,適用皮膚の状態に応じて調節する必要がある.そこで,粘性変化が少なく,利便性の改良を目的に,組成や基剤の変更を検討した.基本組成は,塩化亜鉛 30 g を蒸留水 25 ml で溶解した水溶液に亜鉛華デンプン 27.5 g を混合し,グリセリン 20 ml で粘度を調整した.これに対して,亜鉛華デンプンを 1/2,1/3, 1/4 倍量およびグリセリンを 1.5,2 倍量に変更した製剤,および亜鉛華デンプンのかわりにマクロゴール軟膏,親水軟膏,亜鉛華軟膏,吸水軟膏,プラチベースを使用した製剤を作製し,スプレッドメーターを用いた展延性を 7日間にわたり測定した.その結果,基剤を親水軟膏に変更することにより経時的な粘性変化を防ぎ,利便性を向上させることが可能であると思われた.
キーワード: モーズペースト,利便性,粘性,基剤変更,スプレッドメーター

 

オキシコドン持続皮下投与開始時の有効性および安全性
中川 左理、花城 理人、岡本 禎晃、久米 典昭、田中 育子
明石 延子、中嶋 真一郎、西本 哲郎、西浦 哲雄
[要旨] 2012 年,オキシコドン単剤の注射剤が発売されたが,有効性や安全性の情報がまだ十分とはいえない.そこで,市立芦屋病院で,2012 年 8 月 1 日から 2013 年 11 月 30 日にオキシコドン持続皮下投与を施行した患者を対象に,使用状況をレトロスペクティブに調査した.調査期間中,本剤の投与を施行した患者は 59 名であった.投与後 24 時間以内に痛みが軽減した患者は 42 名中 40 名(95.24%)で,痛みのスコアの平均値(± SD)は有意に減少していた(投与前:2.21 ± 0.61,投与後:0.43 ± 0.67,p < 0.05).他のオピオイド投与中の有害事象で本剤に変更した患者 9 名のうち,ほぼ全例で有害事象の症状が改善した.投与後に有害事象が出現した患者は 22 名(37.3%)で,刺入部の発赤で他剤に変更した 1 例を除き,いずれも軽度で本剤の投与を続行した.今回の調査より,疼痛コントロールにおける本剤の有用性,安全性が明らかとなった.
キーワード: オキシコドン持続皮下投与,がん性疼痛

 

短報

難治性化学療法誘発性悪心に対しオランザピンからミルタザピンへの変更が著効した2例
今城 宏文、古川 卓也、久保田 豊、深沢 健一、斉藤 和彦
[要旨] がん化学療法誘発性悪心 ・ 嘔吐(CINV)は患者の QOL を低下させる症状の一つである.難治性 CINVに対するオランザピン(OLZ)の有効性が報告されている.しかし,糖尿病患者や OLZ の有害事象により投与できない症例を経験する.今回,OLZ からミルタザピン(MIR)への変更で悪心が改善した症例(44 歳,女性,卵巣癌;50 歳,男性,食道癌)を経験した.CINV に対して MIR は,有効な選択肢の一つである.
キーワード: ミルタザピン,CINV,制吐薬