一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.7 No.4 December 2014

総説

Potential Role and Challenges of Methadone in Cancer Pain Management
Yoko TARUMI,Sharon M.WATANABE
Abstract:  While remarkable progress has been made in strategies for cancer treatment, strategies for cancer pain management are still in their infancy with respect to translating results from animal models to the clinical setting, due to the complex biopsychosocial nature of cancer pain. Although conventional cancer pain management based on the World Health Organization three-step ladder may serve well for the majority of patients, up to 30% of patients with cancer pain may not benefit from the standard approach. The strategy of switching from one opioid analgesic to another, in order to overcome worsening side effects while attempting to improve analgesic efficacy, has been empirically accepted. This practice has been strongly based on the assumed equianalgesic dose ratio between opioids. However, the growing realization of opioid-induced hyperalgesia and the role of methadone in receptor recycling have provided new insights into the mechanism of cancer pain that does not respond to conventional opioid treatment. As cancer is no longer considered a terminal disease, concern has been raised about the side effects of long-term opioid therapy. Although methadone has been recognized as pharmacokinetically challenging to use, its unique pharmacodynamic properties may provide advantages over other opioid analgesics. Establishing phenotypes that respond to certain types of approach may help clinicians to stratify the approach further.
Key words: methadone, cancer pain, tolerance, opioid-induced hyperalgesia, opioid switch (rotation,substitution)

 

原著論文

がん化学療法誘発性悪心・嘔吐の客観的評価とQuality of Life評価に関する研究
川野 千尋、平山 武司、小泉 和三郎、黒山 政一
[要旨] 本邦におけるがん化学療法誘発性悪心・嘔吐の評価は客観的評価法が主で,信頼性・妥当性が検証された Quality of Life (QOL)評価法による検討は少ない.そこで,① 嘔吐調査票(客観的評価法),② Functional Living Index-Emesis 調査票(QOL 評価法)を用いて,QOL 評価法の有用性を検討した.対象患者 144 例において,客観的評価法における Complete Response(CR)率は 83.3%(120 例),QOL 評価法における No Impact on Daily Life(NIDL)率は 73.6%(106 例)で,有意差が認められた(p < 0.05).FLIE 調査票における悪心に関する項目の平均スコアは嘔吐に関する項目の平均スコアよりも高値であり,嘔吐と比較して,悪心のほうが QOL に大きく影響していることが示唆された.そのため,本研究における CR 率と NIDL 率の不一致は,悪心によりQOL が不良な患者が存在したためと考えられた.このような患者は,客観的評価のみでは抽出することができず, QOL 評価を用いる必要性が示唆された.
キーワード: がん化学療法,がん化学療法誘発性悪心・嘔吐,クオリティーオブライフ,Functional Living Index-Emesis(FLIE)調査票

 

携帯型持続注入ポンプを想定した緩和医療で使用するフルルビプロフェンアキセチル注と他剤との配合変化に関する評価
名徳 倫明、岡 隆志、北出 尚子、梅谷 亮介、中村 紗矢香、
瀬名波 宏昌、浦嶋 庸子、廣谷 芳彦
[要旨] フルルビプロフェンアキセチル注は脂肪乳剤であるため,多剤との混合には注意を要する.そこで,フルルビプロフェンアキセチル注を 5% ブドウ糖液または生理食塩液,さらにリドカインや他の薬剤と混合し,光遮蔽型自動微粒子測定装置を用いて粒子数を測定した.同時に,pH および外観変化を確認した.フルルビプロフェンアキセチル注と 5% ブドウ糖液との混合では,粒子径の粗大化は観察されなかったが,フルルビプロフェンアキセチル注と生理食塩液との配合では,33℃ 曝光条件下で粒子径の粗大化がみられた.フルルビプロフェンアキセチル注を 5% ブドウ糖液または生理食塩液に混合し,さらにリドカイン注を追加すると,どちらの輸液においても粒子径の粗大化がみられた.この結果より,携帯型持続注入ポンプを使用したフルルビプロフェンアキセチル注の投与では,希釈に 5% ブドウ糖液のみ使用し,他の薬剤との混合は避けるべきであることが示唆された.
キーワード: 緩和医療,フルルビプロフェンアキセチル注,配合変化,微粒子,携帯型持続注入ポンプ

 

高度および中等度催吐性プラチナ製剤誘発性消化器症状におけるアプレピタントの有効性
竹内 美緒、後藤 綾、椿井 朋、肥田 裕丈、向山 直樹、大塚 光穂、小森 由美子、
加藤 博史、宮崎 典子、宮崎 雅之、山田 清文、野田 幸裕
[要旨] 本研究では,高度および中等度催吐性抗がん剤であるシスプラチンおよびカルボプラチン施行患者における悪心・嘔吐に対するアプレピタントを加えた 3 剤併用療法の有効性について調査した.シスプラチン施行患者において,アプレピタント非投与群における悪心および嘔吐の程度は,アプレピタント投与群のそれらに比べ,有意に改善されていた.カルボプラチン施行患者においては,アプレピタント追加投与群において,悪心および嘔吐の発現程度の改善が認められた.以上の結果から,シスプラチンやカルボプラチンを用いた化学療法施行時に,アプレピタントを積極的に使用することは,患者の quality of life(QOL)の向上や円滑な治療進行につながるものと示唆される.したがって,高度だけでなく,中等度催吐性化学療法を施行する患者においても,アプレピタントの導入を積極的に推奨すべきである.
キーワード: がん化学療法誘発性の悪心・嘔吐(CINV),アプレピタント,併用療法

 

呼吸困難を有する死期がせまったがん患者に対するコルチコステロイド投与の効果
前田 剛司、鈴木 大吾、早川 達
[要旨] 死期がせまった呼吸困難を訴えているがん患者に対するコルチコステロイドの全身投与の効果を検討した.2012 年 1 月~ 2013 年 12 月までの 2 年間に,呼吸困難を訴えて注射コルチコステロイドを全身投与したがん患者 13 名を調査対象とした.使用期間は平均 9.2 日(範囲 1 ~ 21 日),効果発現までの日数は平均 0.8 日(範囲 1~ 2 日),ベタメタゾンは 2 mg から 4 mg の範囲で,デキサメタゾンは 1 mg で選択された.使用開始時と最大効果発現時の比較では,呼吸困難は有意に改善した(p = 0.013).また,使用開始時と最終投与時の比較では,呼吸困難は改善傾向を示した(p = 0.093).以上の結果から,呼吸困難を有する死期がせまったがん患者に対するコルチコステロイドの全身投与は有効であることが示唆された.
キーワード: 呼吸困難,がん患者,コルチコステロイド,効果