学会誌 VOL.7 No.2 June 2014
総説
筋萎縮性側索硬化症の緩和ケア-薬剤師の関わりを中心に- |
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八本 久仁子 |
[要旨] 筋萎縮性側索硬化症(ALS:Amyotrophic Lateral Screlosis)は慢性的に進行し,球麻痺症状の悪化に伴って会話困難や嚥下機能障害をきたし,重度の身体症状を伴う.2011 年,モルヒネを ALS 患者に使用することが保険審査上認められ,痛みや呼吸苦に対するオピオイドの使用は今後増加すると考えられる.しかし,オピオイドを使い慣れている医師や看護師が,神経内科病棟には多くないため,副作用対策や管理に詳しい薬剤師が関与する意義は大きい.薬剤師が患者に対して直接説明し,効果・副作用の確認を行うには,コミュニケーション支援ツールにも対応すべきである.また,完治の望めない疾患では,客観的評価より患者の主観的評価の向上をはかる必要があるため,QOL(quality of life)の評価がより重要となってくる.ALS の診療自体が,すなわち緩和ケアであるといえる.薬剤師はがん患者だけでなく,あらゆる患者に対して,質の高い緩和ケアを提供できるようにステップアップをはかる必要がある. |
キーワード: 緩和ケア,非がん,ALS,モルヒネ,薬剤師 |
原著論文
終末期がん患者における輸液治療の質的評価 |
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杉山 未緒,和田 紀子,樋口 比登実,鶴野 美紀,柏原 由佳,半田 智子 村山 純一郎,片山 志郎,加藤 裕久 |
[要旨] 終末期がん患者は経口摂取が減少し,多くは輸液治療が行われる.しかし,腹水や胸水などの水分貯留症状を悪化させることが報告されている.日本緩和医療学会が作成した「終末期癌患者に対する輸液治療のガイドライン」の効果の目安は Quality of Life(QOL)であるが,Palliative Pefomance Scale(PPS),PPI(Palliative Pognostic Index)を QOL の指標として用いた報告はない.そこで,昭和大学病院緩和医療チームが担当した終末期がん患者 62 名の輸液治療の現状と,終末期輸液治療を PPS と PPI を用いて評価する,後方視的診療録調査を行った.輸液 1 日総投与量> 1.5 l(H 群),1 ~ 1.5 l(M 群),< 1 l 群(L 群)の 3 群で PPS と PPI を 4 つの期間において比較したところ,いずれも死亡 28 日前において L 群のほうが,M 群,H 群よりも PPS が有意に高値で,PPI が有意に低値であった.生命予後 1 カ月程度の終末期がん患者は,輸液量と PPS,PPI が関係するため,輸液量を減らすことにより PPS が上昇し,PPI が低下する可能性がある.輸液治療の QOL の指標として,PPS, PPI の妥当性を評価する必要がある. |
キーワード: 終末期,がん,輸液治療,Palliative Pefomance Scale,Palliative Pognostic Index |
がん化学療法における5-HT3受容体拮抗在”パロノセトロン静注”の薬剤経済学的検討 |
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山西 由里子,田隖 博樹,池田 俊也,山田 治美,井上 忠夫,武田 弘志 |
[要旨] パロノセトロンは遅発性悪心・嘔吐に対し,グラニセトロンと比べ統計的に有意な抑制効果が示されている.近年,医薬品の価値は,臨床エビデンスと経済エビデンスを統合して評価することが求められていることから,臨床判断分析を用いてパロノセトロンの薬剤経済評価を検討した.研究では,外来化学療法においてパロノセトロンまたはグラニセトロンを投与した際の,1 患者あたりの期待費用と 1 嘔吐抑制あたりの費用効果比について検討した.その結果,期待費用はパロノセトロン 32,567 円,グラニセトロン 27,020 円であった.一方,費用効果比は,パロノセトロン 63,237 円,グラニセトロン 66,881 円で,パロノセトロンのほうが費用対効果は良好であった.パロノセトロンは従来の治療薬では効果不十分な遅発性悪心・嘔吐に効果を発揮し,追加薬剤投与にかかる診療費や薬剤費の軽減により,従来の薬剤と比べ費用対効果が優れるものと考えられた. |
キーワード: 薬剤経済学,がん化学療法,5-HT3 受容体拮抗剤,パロノセトロン |