一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.5 No.4 December 2012

総説

緩和医療薬学と医療経済評価
池田 俊也
[要旨] 薬剤をはじめとする医療技術は,医療の進歩に貢献する一方で,医療費増加の主因とみなされている.医療経済評価は,意思決定者に対して,医療資源の効率的な利用法についての示唆を与えることができる.医療経済評価では,複数の代替的な診断・治療技術について,費用と効果の両面から比較を行う.用いる効果指標の違いにより,費用最小化分析,費用効果分析,費用効用分析,費用便益分析,の 4 手法に分類される.費用効用分析は,費用対効果の効果指標として質調整生存年(QALY)を用いる.QALY は,生存年の変化と QOL の変化とを統合した単一指標である.QOL の変化は,死亡を 0,完全な健康を 1 とする効用値によって表す.費用効用分析では,複数医療技術の費用の差を質調整生存年の差で除した,「増分費用効果比(ICER)」によって結果を評価する.費用効用分析は,さまざまな病態や介入を相互比較できることが特徴であることから,緩和医療薬学領域において最も適切な手法と考えられる.
キーワード: 経済評価,費用対効果,費用効用分析,質調整生存年

 

原著論文

薬学部5年次での実務実習が薬学生にもたらす緩和医療における効果
-緩和医療や医療用麻薬に対するイメージの変化および緩和医療への意識の変化-
名徳 倫明,浦嶋 庸子,小西 廣己,廣谷 芳彦
[要旨] 6 年制薬学教育では,薬学生において,緩和医療の基本的な知識や臨床知識の教育が必要とされてきている.今回,実務実習を終えた薬学生を対象に,緩和医療や医療用麻薬に関する調査を行った.実務実習を終えた薬学部 5 回生 121 名を対象に,薬局・病院実習前後にアンケート調査を行った.アンケート形式は,5 段階の選択式回答とし,設問の内容は,「薬局および病院での緩和医療に関する実習項目」「緩和医療を受けている患者のイメージ」「医療用麻薬のイメージ」「緩和医療に関しての現在の考え方」とした.緩和医療を受けている患者や医療用麻薬のイメージは,すべての項目で実習前と比べ,実習後に数値が低下した.さらに,学生は実習後では,緩和医療の重要性の理解を高め,積極的に取り組む必要性を認識していた.薬局や病院での実習を行うことで,緩和医療や医療用麻薬に対しての適切な理解,および緩和医療への意識の向上を得ることができた.今後,学生の薬局・病院実務実習における,緩和医療や医療用麻薬に関する実習の必要性が認められた.
キーワード: 薬学教育,緩和医療,実務実習,薬局,病院

 

大学病院における終末期がん患者に対する接続的鎮静の施行状況
野澤 孝子,岡本 禎晃,恒藤 暁,谷向 仁,津金 麻実子,上島 悦子
[要旨] 苦痛緩和のための持続的鎮静は終末期がん患者において議論になっているが,大学病院におけるその実態は把握されていない.そこで今回,大学病院における死亡前 72 時間の終末期がん患者に対する持続的鎮静の実態調査を行った.大阪大学医学部附属病院で 2008 年 1 月 1 日から 2008 年 12 月 31 日の間に死亡退院したがん患者 119 人を対象に,診療記録をもとにレトロスペクティブに調査した.持続的鎮静は 32.8% の患者で施行されていた.鎮静剤としては,ミダゾラムの静脈内投与が最も多く使用されていた.死亡前 72 時間以内に使用された薬剤について,24 時間ごとに比較したところ,昇圧剤を使用した患者の割合は,持続的鎮静施行群では差がなかったのに対して,非施行群では,時間経過に伴って,有意な増加がみられた.輸液量については,先行研究と比べ,持続的鎮静の有無にかかわらず多い傾向にあり,浮腫の発現割合の高さに関係する可能性が示された.
キーワード: 持続的鎮静,がん患者,終末期