学会誌 VOL.5 No.2 June 2012
総説
去勢抵抗性前立腺がんの緩和医療における合成グルココルチコイドの有用性と有害性 |
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茅根 義和,井上 重治 |
[要旨] 合成グルココルチコイド,とりわけ長時間持続型のデキサメタゾン(DXM)及びベタメタゾン(BTM)は,抗炎症剤として開発されたが,去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に抗がん剤と併用して用いられるほか,単独でも DXM の場合,50%の患者に有効性が認められた.合成グルココルチコイドの抗がん作用は,主にグルココルチコイド受容体(GR)を介して発現され,活性化された GR は細胞増殖に関与する各種の転写因子を阻害する.さらに,多くの細胞成長因子にも関与して増殖を抑制する.CRPC においては,アンドロゲン受容体(AR)が変異してアンドロゲン依存性から非依存性に変わり,本来 AR のアンタゴニストが,変異 AR に対してはアゴニストとして増殖を促進する.DXM は,アンドロゲン非依存性の CRPC 細胞に特異的に増殖抑制効果を示す.このほか,合成グルココルチコイドは,貧血や食欲不振の改善,抗ストレス効果などで,CRPC 患者の平均生存期間の延長やADL の改善に貢献しており,有害作用よりも有用性が高いと評価された. |
キーワード: グルココルチコイド,デキサメタゾン,去勢抵抗性前立腺がん,グルココルチコイド受容体,アンドロゲン受容体 |
がん悪液質発症の分子機構とその治療への応用 |
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大澤 匡弘,森 直治,川村 和美,島田 雅彦,二村 昭彦,山本 昇平,東口 髙志,小野 秀樹 |
[要旨] がん悪液質は,多くの進行がん患者にみられる治療抵抗性の低栄養状態で,生活の質の低下や生存期間の短縮などをもたらす.悪液質は,筋肉量の減少を主徴とした複合的な代謝異常の症候群であり,進行性の機能障害を生じるなど,多数の因子が複雑に絡み合って出現するが,そのメカニズムは未だ不明である.最近の研究から,がん悪液質では,腫瘍細胞から放出される因子や炎症性サイトカイン類によって,代謝異常や神経内分泌系の変化をもたらしているのではないかと考えられている.これらの研究から,栄養補給や薬物投与によるがん悪液質の改善が脚光を浴びはじめている.また,遺伝子改変動物を用いた解析から,悪液質に関わる新規分子も同定されつつある.今後,悪液質の病態生理学的な理解が進み,その進行に関わる新規分子を標的とした薬物の開発や,効果的な栄養サポート法の発見等が期待される. |
キーワード: 悪液質,骨格筋組織,脂肪組織,薬物治療 |
原著論文
入院がん患者の麻薬自己管理に関する医療者意識調査 |
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佐藤 淳也,木村 祐輔,長澤 昌子,菅野 綾子,工藤 賢三,高橋 勝雄 |
[要旨] がん患者の除痛には,麻薬の適正使用が重要である.特に,突出痛に対しては,患者の判断にて適時かつ迅速にレスキュー薬を使用することが必要である.しかし,入院がん患者における麻薬の自己管理はほとんど普及していない.そこで,普及の妨げとなっている要因をさぐるため,医療者の懸念や認識を調査した.その結果, 83%の回答者が麻薬自己管理は患者の除痛率向上につながると考え,自己管理について否定的な意見は回答者の10%に過ぎなかった.麻薬自己管理に必要な能力としては,「定時薬とレスキュー薬の区別」「レスキュー薬の服用間隔遵守」とする意見が多く,導入時期については,「効果と副作用が安定してから」「投与量が落ち着いたら」という意見が多かった.以上の結果を踏まえると,自己管理能力を適切にアセスメントする導入プロトコールを策定すれば,麻薬の自己管理は実施可能であり,除痛率の向上が期待されるものと思われる. |
キーワード: 医療用麻薬,自己管理,緩和ケアチーム |