学会誌 VOL.4 No.4 December 2011
原著論文
がん診療連携拠点病院における緩和ケア提供体制と薬剤業務の困難感 |
---|
杉浦 宗敏,宮下 光令,佐藤 一樹,森田 達也,佐野 元彦,的場 元弘,恒藤 暁,志真 泰夫 |
[要旨] がん診療連携拠点病院における緩和ケア診療体制の実態を把握することを目的に,薬剤師による院内医療者の薬剤使用に対する評価と薬剤師が薬剤業務を行う際の困難感について,2007 年 11 月の実態を質問紙法により調査した(有効回答施設数 N = 264,回収率 92%).緩和ケアチームが活動を行ううえで,薬剤師の必要性を理解していると思うと回答した施設は 81% であった.薬剤師の業務を行うための時間の保証と患者・家族の理解に関して障害があると回答した施設は,いずれも 70% を超えていた.因子分析で抽出されたドメインのうち,「他職種との協働」と「薬剤師の臨床能力」は,緩和ケア病棟あり(p < 0.01,p = 0.01)と担当薬剤師の週のべ業務時間(p = 0.02,p = 0.01)に有意な関連があった.今後,薬剤師が緩和ケア診療においてその役割を十分に果たすためには,緩和ケアに関わる業務時間の確保が必要であり,そのことが医師や看護師との協働や薬剤師の臨床能力の向上つながることが示唆された. |
キーワード: がん診療連携拠点病院,緩和ケアチーム,薬剤師,薬剤業務,実態調査 |
液体クロマトグラフィー質量分析法によるがん患者の血清中フェンタニル濃度の測定 |
---|
井之上 浩一,松下 祥子,野村 基雄,立松 三千子,水谷 和子,日野 知証,岡 尚男 |
[要旨] 本研究では,液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)を用いて,ヒト血清中フェンタニルの分析法開発を試みた.LC/MS 測定法については,エレクトロスプレーイオン化法を使用し,安定同位体(フェンタニル-d5)を血清中に添加して内標準法により測定した.前処理は,オンライン固相抽出法(Waters 社製 OASIS-HLB)を用いて LC/MS に直接導入した.モニタリングイオンとしては,フェンタニル(m/z 337.1 → 187.9)およびフェンタニル -d5(m/z 342.2 → 187.9)を設定して,定量限界 0.05 ng/ml(血清)となった.添加回収実験において,99 ~ 111% となり,再現性については日内変動 RSD:1.0 ~ 10.1% および日差変動 RSD: 1.7 ~ 6.9% となった.本手法をがん患者の血清へ応用した.その際,フェンタニルの血清中濃度は,持続静注症例において 0.20 ± 0.01 ~ 1.69 ± 0.04 ng/ml および経皮吸収剤使用症例において 0.16 ± 0.01 ~ 1.09 ± 0.03 ng/ml と良好に測定することが可能であった.本分析技術は,ヒト血清中フェンタニル濃度測定することができ,疼痛コントロールなどの臨床へ応用できるものと思われる. |
キーワード:フェンタニル,血中モニタリング,液体クロマトグラフィー質量分析法,オピオイド・ローテーション |
フェンタニル経皮吸収型製剤による皮膚症状に対するテガダーム®の軽減効果に関する調査 |
---|
沼田 千賀子,寺岡 麗子,八木 敬子,江本 憲昭,平井 みどり,北河 修治 |
[要旨] フェンタニル経皮吸収型製剤には,皮膚に 24 時間あるいは 72 時間貼付して使用する 2 種類の製剤がある.そのうち後者は,皮膚の同一箇所に長時間密着しているため,皮膚症状が強く現れることがある.これが原因で,治療継続が困難となる場合があり,疼痛コントロール不良の一因となっている.そこで,2008 年に発売になったマトリックス型とリザーバー型のプラセボパッチを用いて皮膚症状を調査し,比較検討を行った.その結果,マトリックス型パッチは,リザーバー型パッチに比べ,パッチサイズが小さく薄いため使用感に優れているが,やや剥がれやすい欠点もみられた.また,パッチ下にテガダームⓇを貼付することにより,皮膚の赤味が軽減されることが明らかとなった.また実際,皮膚症状発現によりフェンタニル経皮吸収型製剤の投与が継続困難となった患者に,テガダームⓇ上から全面貼付を行った結果,皮膚症状が軽減され,疼痛コントロールもでき治療継続が可能となった. |
キーワード: フェンタニル経皮吸収型製剤,皮膚症状,半閉鎖ドレッシング材 |