学会誌 VOL.4 No.3 October 2011
原著論文
緩和医療における保険薬局の現状と意識調査 |
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冨田 祐作,中根 茂喜,水井 貴詞,伴 竜典,山中 祐治,中島 瑞紀,川合 甲祐,鈴木 善貴 池田 哲雄,岩田 智樹,佐野 吉嗣,斎藤 寛子,勝見 章男,西田 幹夫 |
[要旨] 緩和医療における保険薬局の現状を把握するため,愛知県および下呂市薬剤師会の保険薬局薬剤師を対象にアンケート調査を行った.調査項目は,服薬指導実施状況など 16 項目とした.524 名から回答を得た.医療用麻薬を含む処方せんの調剤や服薬指導に携わったことがある薬剤師は 290 名で,その 67.2%は情報が不足しているため,困惑することがあると回答した.保険薬局薬剤師が必要としている情報は,告知の有無,病名,痛みの評価などの項目であり,情報不足の現状が明らかとなった.医療機関から能動的な情報提供を行うことにより,保険薬局薬剤師との間で有益な連携が図られ,質の高い地域連携を提供できると推察される.しかし,現存する情報提供書では必要な情報を十分網羅できないため,緩和医療に特化した情報提供ツールの作成が急務である. |
キーワード: 緩和医療,保険薬局,保険薬局薬剤師,アンケート調査,地域連携 |
モルヒネのヒトがん細胞株の増殖に対する影響 |
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岩田 紘樹,佐藤 洋美,岡部 裕之,矢野 友啓,関根 祐子,上野 光一 |
[要旨] モルヒネは,がん疼痛治療に用いられる主要な薬剤であるが,医療用麻薬の使用をより普及させるためには,その安全性に関するエビデンスの確立が必要である.本研究では,モルヒネが患者の腫瘍自体に影響を及ぼしているのかどうかを明らかにするため,ヒトがん細胞株に対するモルヒネおよびその代謝物の作用を検討した.ヒトでの血中濃度に相当する 1 nM ~ 100 µM のモルヒネは,2 種のがん細胞株の増殖および併用したビンブラスチンの効果に影響を与えなかった.一方,高濃度域(0.5 ~ 4 mM)のモルヒネによって,6 種のがん細胞株の増殖が抑制され,subG1 期の細胞が増加した.モルヒネの代謝物の morphine-6-glucuronide は,モルヒネと同等の増殖抑制作用を示した.モルヒネの増殖抑制作用は,ナロキソンでは拮抗されなかった.以上より,血中濃度のモルヒネはヒトがん細胞株の増殖に直接的には影響しないこと,高濃度のモルヒネでは増殖抑制作用がみられることが示された. |
キーワード:モルヒネ,がん細胞,細胞増殖 |
迷走神経機能不全下での知覚神経感作とセロトニン4受容体作動薬mosaprideによる鎮痛効果 |
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古田 貞由,松本 健次郎,堀江 俊治,鈴木 勉,成田 年 |
[要旨] 本研究では,慢性的な迷走神経機能不全下での表在組織,深部組織および内臓組織における求心性知覚神経(C 線維,Aδ線維,Aβ線維)の感受性変化を明らかにするために,横隔膜下迷走神経切断(SDV)処置 2週間後のラットの尾部,下肢,下行結腸における疼痛閾値と求心性知覚神経の電流閾値の変化を検討した.SDV によって,尾部疼痛閾値と知覚神経の電流閾値に変化はなかったが,下肢脹脛では Aδ線維の閾値低下を伴った痛覚過敏が生じた.さらに,下行結腸において,C,Aδ,Aβ線維の閾値の顕著な低下が観察され,内臓疼痛様行動が認められた.この内臓痛は,5-HT4 受容体作動薬 mosapride の投与で有意に減弱した.以上より,慢性的な迷走神経機能不全は,内臓求心性知覚神経を強く感作して強度の内臓痛を誘発する可能性が示唆され,また,この内臓痛には mosapride が有効であることが明らかになった. |
キーワード: 迷走神経切断,内臓痛,体性痛,mosapride,ラット |