一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.4 No.2 June 2011

原著論文

新規疼痛制御物質としての不飽和脂肪酸の現状と今後の展望
徳山 尚吾、中本賀寿夫
[要旨] 脂肪酸は,生体にとって必要不可欠な栄養素であり,エネルギーの産生や細胞膜の構成において必須の成分である.また,シグナル伝達分子としての役割も果たすなど,多くの生命現象に関与している.近年,脂肪酸の生理・薬理作用に関する多くの報告が集積されてきた結果,脂肪酸の摂取量や体内部位における分布バランスの相違によって,脂肪酸がそれぞれ独自の機能を発揮することも明らかになってきている.興味深いことに,最近では,多価不飽和脂肪酸と疼痛制御との関連が脚光を浴びつつある.n-3 系脂肪酸の摂取によって,炎症性疼痛や神経障害性疼痛を軽減することが報告されている.さらに,慢性疼痛などを有する患者において n-6 系脂肪酸の血清濃度が上昇するとの報告もある.以上,不飽和脂肪酸が,疼痛制御において重要な役割を果たしている可能性が示唆されている.本総説では,新規疼痛制御物質としての不飽和脂肪酸の現状と,今後の展望について概説する.
キーワード: 不飽和脂肪酸,疼痛,抗侵害作用

 

末梢性神経障害性疼痛治療薬プレガバリン(リリカ®カプセル)の薬理作用機序および臨床効果
越智 靖夫,原田 拓真,鈴木 美咲,荒川 明雄,鈴木 実
[要旨] プレガバリンは,電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットとの結合が作用機序と考えられる新しいタイプの鎮痛薬であり,神経障害性疼痛の薬物治療において国際疼痛学会が推奨する第一選択薬のひとつとして位置づけられている.本邦でも 2010 年 4 月に,帯状疱疹後神経痛を適応症として承認された.さらに,同年10 月には,本邦初となる末梢性神経障害性疼痛の適応を取得した.本病態は,末梢神経に対する損傷や疾患の結果生じる疼痛であり,原因となる疾患の治癒とともに消失せず,治療に難渋する難治性・慢性疼痛も含まれている.このことから,臨床で使いやすく,有効性の高い治療薬が望まれており,プレガバリンはその新たな選択肢となることが期待される.本稿では,プレガバリンの末梢性神経障害性疼痛に対する作用機序および臨床試験成績について紹介する.
キーワード: リリカⓇ,プレガバリン,α2δサブユニット,末梢性神経障害性疼痛

 

原著論文

がん性疼痛治療における非オピオイド鎮痛薬長期投与の安全性に関する検討
海老沼 慶一,国分 秀也,佐々木 寿子,矢後 和夫,高柳 理早,山田 安彦
[要旨] がん疼痛治療における COX-2 選択的阻害薬およびアセトアミノフェン(APAP)の腎機能・肝機能・心血管に対する長期的な安全性を評価するため,北里大学病院において 2006 年 1 月~ 2008 年 6 月に,16 週間以上 COX-2 選択的阻害薬あるいは APAP(3,200 mg ~ 4,000 mg/day)を使用したがん疼痛患者を抽出し,各薬剤投与から 4 週ごとの SCr,AST,ALT,T-Bil,および心血管障害の発生有無についてレトロスペクティブに調査した.その結果,メロキシカム,セレコキシブ,および APAP 投与群では各検査値の有意な変化はなく,長期的な安全性が示唆された.一方,エトドラクにおいては,投与後 8 週および 16 週に SCr の有意な上昇が認められ(p =0.015,p = 0.020),強い COX-2 選択性が腎機能に影響する可能性が示唆された.しかし,その上昇は正常範囲内であり,エトドラクも長期的に安全な薬剤と考えられた.
キーワード: COX-2 選択的阻害薬,がん疼痛,長期投与,アセトアミノフェン