学会誌 VOL.4 No.1 March 2011
総説
抗がん剤による末梢神経障害の特徴とその作用機序 |
---|
荒川 和彦,鳥越 一宏,葛巻 直子,鈴木 勉,成田 年 |
[要旨] 抗がん剤による末梢神経障害は,古くから知られているにもかかわらず,その発生機序の詳細には不明な点が多く,未だに有効な治療法が存在しないのが現状である.末梢神経障害は,患者の Quality of Life(QOL)を低下させ,抗がん剤の投与量の減量や治療の中止を余儀なくされる場合が多く,用量制限毒性となることもある.したがって,がん化学療法を継続していくうえで,末梢神経障害の予防法と治療法の確立はきわめて重要である.本稿では,抗がん剤による末梢神経障害の分類と評価法,対処法の現状について紹介するとともに,使用頻度が高く,臨床上問題となっている抗がん剤に関連した末梢神経障害について,臨床像と臨床で実践されている対処法,さらに,発現機序の解明に関する研究報告をもとに概説する. |
キーワード: 抗がん剤,末梢神経障害,神経障害性疼痛,発現機序,副作用管理 |
神経ATP感受性K+チャンネルと慢性疼痛の病態機序 |
---|
河野 崇,横山 正尚 |
[要旨] ATP 感受性 K+チャネル(KATP チャネル)は,細胞の代謝状態と細胞膜の興奮性を関連させる内向き整流性 K+チャネルであり,糖尿病および循環器疾患治療薬の標的として注目されている.KATP チャネルの分子構造は,ポアを形成する Kir6.x とスルフォニル尿素受容体からなる異種 8 量体である.中枢神経組織において,KATPチャネルは広く発現することが以前より確認されており,その活性は膜電位の調節,神経伝達物質分泌,および神経保護作用等に関与することが報告されている.近年われわれは,KATP チャネルが末梢神経,特に後根神経節にも発現し,細胞膜の興奮性を調節していること,チャネル発現および活性は神経障害性疼痛モデルラットでは著明に低下することを明らかにした.これらの結果は,KATP チャネルが神経障害性疼痛の病態機序に関与することを示唆しており,今後神経障害性疼痛に対する治療の標的として検討する必要があると考えられる. |
キーワード: カリウムチャネル,後根神経節,神経障害性疼痛,電気生理 |
原著論文
がん診療連携拠点病院における緩和ケア提供に関する薬剤業務等の全国調査 |
---|
杉浦 宗敏,宮下 光令,佐藤 一樹,森田 達也,佐野 元彦,的場 元弘,恒藤 暁,志真 泰夫 |
[要旨] がん診療連携拠点病院における緩和ケア診療体制の実態を把握することを目的に,薬剤業務について2007 年 11 月の実態を質問紙法により調査した(有効回答施設数,N = 264,回収率 92%).緩和ケアチームのカンファレンスおよび病棟ラウンドに薬剤師が参加する施設はそれぞれ 69%,48%,緩和ケア担当薬剤師がいる施設は87% で,その週当たりの業務時間は平均 4.5 時間であった.薬剤師による緩和ケアに関する薬剤業務の実施状況は,常に実施している施設が処方鑑査については 44 〜 69%,服薬指導については 9 〜 42% であった.また,緩和ケアに関する薬物療法教育を行っていると回答した施設は,院内医療者対象が 79%,地域診療所・保険薬局対象が 49%であった.今後,薬剤師が緩和ケア診療においてその役割を十分に果たすためには,薬剤業務の実施率や薬物療法教育への関与を高める必要があり,担当薬剤師の配置数確保などの環境整備が必要であることが示唆された. |
キーワード: がん診療連携拠点病院,緩和ケアチーム,薬剤師,薬剤業務,実態調査 |
外来がん化学療法において発現した有害事象の調査に基づいた患者向け説明書の作成 |
---|
小路 恵子,小谷 悠,石川 和宏,伊藤 真子,宮崎 雅之,桐山 典子,山田 里美 安藤 雄一,森 智子,毛利 彰宏,山田 清文,野田 幸裕 |
[要旨] 2006 年 5 月に名古屋大学医学部附属病院外来化学療法室が設置されて以来,受診患者数は年々増加している.施行患者の増加に伴い有害事象(adverse reaction:ADR)の発現頻度も増加していると推察されるが,実際にその件数などについて詳細に調査はされていない.ADR の発見やその対応は,患者自身が自宅にて行う場合が多いため,患者は ADR の初期症状とその対策について十分に理解しておく必要がある.本研究では,電子カルテを用いて ADR の種類および発現回数をレトロスペクティブに調査し,調査結果から,医師,看護師および薬剤師にて発現の頻度が高く,患者自身で対応可能な 13 種類の ADR を選定した.選定した ADR の説明書には,初期症状の見分け方および対策方法などを記載し,ADR ごとに分冊にした.本説明書について患者にアンケートを実施したところ,分冊にした説明書の有用性が得られた.レジメンや抗がん剤ごとに作成された患者向けの一般的な説明書とは異なり,がん種別に頻度の高い ADR を明確化し,それをもとに患者教育がしやすい分冊型にした説明書は,外来化学療法室のみならず,各診療科の病棟においても有用であることが示唆された. |
キーワード: 外来化学療法,有害事象,がん化学療法,患者向け説明書 |