一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.3 No.4 December 2010

総説

基礎研究者の立場からみたがん緩和医療と適応障害
辻 稔,宮川 和也,武田 弘志
[要旨] がん患者は,病名の告知や疼痛をはじめ,治療上過剰かつ多様なストレス環境におかれることから,精神面に障害をきたし,治療効果や quality of life(QOL)の低下を招くことが少なくない.したがって,よりよいがん緩和医療を提供するためには,がん患者の精神的苦痛を早期に発見し,適切に軽減させることが重要である.本稿では,がん患者が呈する精神症状のうち最も発現頻度が高い適応障害を取り上げ,本精神症状の特徴や治療法について概観する.また,発がんや疼痛と情動異常との関連に主眼をおいた最近の基礎研究の成果,ならびに著者らがストレス適応研究のために創生し使用しているモデル動物の特徴を紹介し,今後の精神腫瘍学(サイコオンコロジー)研究の展望について考察する.
キーワード: がん,適応障害,慢性疼痛,ストレス適応,サイコオンコロジー

 

上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)ゲフィチニブに関する最新の知見
伊勢 雄也,成田 年,鈴木 勉,宮田 広樹,片山 志郎,弦間 昭彦
[要旨] 本稿では,EGFR のシグナル伝達ならびに遺伝子変異について述べた後,ゲフェチニブを用いた現在の治療戦略を最新のエビデンスをもとに概説する.さらには,ゲフェチニブの主な副作用ならびにその対策についてもあわせて述べる.
キーワード: ゲフィチニブ,epidermal growth factor receptor (EGFR),遺伝子変異,個別化治療

 

ナルフラフィン塩酸塩(レミッチカプセル)の設計・合成とその薬理学的特性
長瀬 博
[要旨] モルヒネから依存性を分離して強力鎮痛薬を創出するため,オピオイドκ受容体タイプの作動薬を設計・合成する試みが世界中で行われ,多くの会社は U-50488H の類似体を合成したが,重篤な薬物嫌悪性が発現し,鎮痛薬としても,後に適用が試みられた止痒薬としても成功しなかった.われわれは,独自構造を有するナルフラフィン塩酸塩を創出し,依存性,嫌悪性ともに分離することに成功した.しかし,術後疼痛の適用では鎮静作用との分離が十分ではなく,腎透析の患者の重篤な痒みを適用とするそう痒症治療薬として臨床試験を行い,2009 年 3月にレミッチカプセルとして販売を開始することができた.ナルフラフィンは長期投与試験において,依存性との分離を含む安全性が十分に確認でき,現在では 70 ~ 80%の有効率を示している.さらに,そう痒症治療薬のみではなく,上市した唯一のκ作動薬として,モルヒネ(µ 作動薬)耐性の患者の痛みに対しても,鎮痛補助薬としての適用が期待される.
キーワード:κオピオイド受容体作動薬,ナルフラフィン,レミッチカプセル,そう痒症治療薬,鎮痛補助薬