一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.3 No.3 December 2010

総説

がん性疼痛に対する神経ブロックの役割
榎本 達也,髙田 朋彦,月山 淑,鈴木 勉,成田 年,井関 雅子
[要旨] がん性疼痛の治療は,がん患者の QOL の向上にかかせない重要な課題のひとつである.現在のがん性疼痛治療の第一選択は,薬物療法であることはゆるぎがない.しかし,数パーセントの患者の疼痛は,薬物療法だけでは解決せず残存する.その場合に検討される治療法として,神経ブロック,インターベンション治療,外科的侵襲的鎮痛法がある.神経ブロックは局所に作用するため,薬物投与による副作用を軽減できる可能性がある.神経ブロック自体による副作用も認められるが,エコーガイドや CT ガイド下に行うことによって,副作用の発生を抑えることができる.神経ブロック療法は,どの段階におけるがん性疼痛であっても,積極的に施行されるべき有用な治療方法である.
キーワード: 緩和ケア,薬物療法,神経ブロック,がん性疼痛,WHO 除痛ラダー

 

ストレスにより痛みが増強する脳メカニズム
仙波 恵美子
[要旨] 「ストレス」と「痛み」は密接に関連する.痛みとストレスの中枢回路が互いにオーバーラップしているためと考えられる.脳画像による検討では,ヒトに痛み刺激を与えると,前帯状回,島皮質,前頭前皮質などの活性化がみられ,これらの領域はストレスによる情動反応にも関わっている.これらの領域の興奮は,中脳中心灰白質,吻側延髄腹内側部 (RVM) などの下行性疼痛調節系を介して脊髄に伝わり慢性痛の維持・増強に働く.急性ストレスは一般に鎮痛に働くが,慢性的なストレス負荷は痛覚過敏を起こす.われわれは,ラットを用いて,慢性拘束ストレス負荷が痛覚過敏を起こすことを示し,このとき RVM で ERK の活性化と 5-HT の産生増加が起こることを確認した.さらに,強制水泳ストレス負荷による疼痛反応の増強にも RVM からの下行性入力が関与していることを示した.すなわち,慢性ストレス負荷時の痛覚過敏には,下行性疼痛調節系の賦活が関与していると考えられる.
キーワード: 慢性痛,ストレス,吻側延髄腹内側部,セロトニン,前帯状回

 

原著論文

肺がん患者におけるオピオイドによる副作用の増悪因子の探索
岸 里奈,宮崎 雅之,桐山 典子,進藤 有一郎,近藤 征史,今泉 和良
毛利 彰宏,山田 清文,長谷川 好規,野田 幸裕
[要旨] 疼痛緩和治療におけるオピオイドの適正使用の立案と実施を目的として,オピオイドによる消化器症状の副作用と,それらの発現頻度・程度を増悪させる可能性のある因子との関連性について検討した.名古屋大学医学部附属病院呼吸器内科病棟において,オピオイドを新規に導入した肺がんの入院患者 37 名を対象とした.オピオイド導入時に全身状態の指標である performance status(PS)が 3 以上または best supportive care(BSC)の患者において,オピオイドによる便秘,悪心または嘔吐のいずれかが発現した患者の割合は,PS 2 以下または BSCでない患者のそれに比べ,有意に増加していた.そのリスク比は,それぞれ 3.94(p < 0.01),2.30(p < 0.01)であった.オピオイドの導入時期が遅延するほど副作用発現頻度・程度が増悪するため,早期から適切に疼痛評価を行うことや,オピオイド導入が必要な場合は迅速にオピオイドを導入することが提唱されている.それらに加え,本調査結果から,全身状態が悪化あるいは BSC の患者にオピオイドを導入する場合は,副作用対策を強化する必要があると示唆される.
キーワード:オピオイドによる副作用,増悪因子,全身状態

 

短報

フェンタニルパッチ使用の適正化を目指して-本剤に対する鎮痛耐性が疑われた症例とオピオイド使用量調査-
北澤 文章,安部 敏生,上田 久美,弓場 達也,高良 恒史,横山 照由,杉井 彦文
[要旨] フェンタニルパッチ(FP)の長期使用患者(現投与量 17.5 mg/3 日)に,オキシコドン塩酸塩徐放剤40 mg/ 日の併用下,FP を 10.0 mg/3 日まで減量しても鎮痛効果は減弱せず,FP の鎮痛耐性発現が疑われた.また,薬剤師が FP の安易な使用の回避目的で積極的な介入を行ったところ,社会保険京都病院における FP 使用量は減少傾向を示した.以上から,FP の使用には痛みの的確な評価と,貼付薬の特性に対する考慮が臨床上きわめて重要である.
キーワード: フェンタニルパッチ,鎮痛耐性,使用量