学会誌 VOL.3 No.2 August 2010
総説
がん性疼痛に対するくも膜下鎮痛法 |
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服部 政治,吉澤 一巳,益田 律子,冨安 志郎,鈴木 勉,成田 年 |
[要旨] 脊髄を鎮痛標的とする脊髄くも膜下鎮痛法は,全身投与による鎮痛に限界がある場合に考慮される手法であり,非常に強力かつ良質な鎮痛効果を提供することができる.しかしながら,適切な施術と管理が行われなければ時として重篤な合併症に至ることもあり,緩和医療に従事する薬剤師としてこの脊髄くも膜下鎮痛に用いられる薬剤の特性を理解することは大変重要である.そこで本稿では,緩和医療における脊髄くも膜下鎮痛法の意義,適応を中心に概説する. |
キーワード: くも膜下鎮痛,オピオイド,局所麻酔薬,神経毒性 |
原著論文
全病院職員の緩和ケアに対する意識向上の取り組み―e-Learningによる緩和ケア教育― |
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縄田 修一,斎藤 真理,庄司 邦枝,山田 朋樹,上手 真梨子,松岡 朋子 古川 政樹,橋本 真也 |
[要旨] 【緒言】近年,e-Learning は,新たな教育ツールとして注目されている.今回,全病院職員に対して,共通の内容で e-Learning を活用した緩和ケア教育を行い,職種ごとの緩和ケアの理解と意識向上について検討した.【方法】平成 20 年 11 月 6 日~ 11 月 26 日の期間に,全病院職員 1,658 名を対象に院内オーダー端末を利用した e-Learning「緩和ケアの基礎知識」を実施した.また,教育の効果を検討するために正誤問題を作成し,80%以上の正答率で修了とした.さらに,修了者を対象に緩和ケアに関する意識調査を同時に実施した.【結果】修了率は 76.8%であった.コンテンツに対する修了者の評価は,ボリューム・内容ともに 85%が「ちょうどよい」と回答した.また,正誤問題 25 問の初回回答正答率は,約 85%で医療職,非医療職では差がなかった.アンケート調査では,回答者の 99%が,がん治療において緩和ケアは重要だと回答した.【考察】全職員を対象にした緩和ケアに関する e-Learning は,職種に関係なく有用な教育ツールとなり,緩和ケアの意識向上にも重要な役割を果たすことができると考えられた. |
キーワード: e-Learning,教育,緩和ケア,アンケート,麻薬 |
低用量フェンタニル貼付剤によるがん性疼痛コントロール―製剤変更による影響― |
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保土田 誠一郎,杉浦 宗敏,長瀬 幸恵,岩瀬 哲,中島 克佳,内野 克喜,鈴木 洋史 |
[要旨] がん性疼痛治療に使用されるフェンタニル貼付剤のリザーバー型製剤(RT)には低用量の規格含量がなく,貼付面を半面にする投与が行われることもあった.2008 年 7 月から国内でも,マトリックス型製剤(MT)がRT になかった低用量の規格含量を含めて上市された.東京大学病院において,RT から MT に製剤変更した前後に低用量のオピオイド製剤からフェンタニル貼付剤に切り替えて使用された患者は,RT 投与群 12 名(2008 年 1~ 6 月),MT 投与群 21 名(2009 年 1 ~ 6 月)であった.フェンタニル貼付剤に切り替えた後に投与量の増量が必要となった患者は,RT 投与群で 12 名中 8 名,MT 投与群で 21 名中 6 名と有意差があった(p = 0.04).RT からMT に製剤変更したことによって,疼痛コントロールがより確実となったことが示唆された. |
キーワード: フェンタニル貼付剤,リザーバー型,マトリックス型,がん性疼痛,低用量 |
在宅緩和ケアにおいて利用可能な消化器症状に対するオクトレオチド効果判定法の検討 |
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田辺 公一,池﨑 友明,大久保 純,山谷 香織,竹内 都子,北澤 英徳,村杉 桂子,村上 望 |
[要旨] オクトレオチドは,緩和医療における末期癌患者の消化管閉塞に伴う消化器症状に用いられる.今回われわれは,聖隷三方原病院方式 STAS の中の消化器症状に関する食欲不振 STAS と嘔気 STAS に着目し,オクトレオチドの早期消化管閉塞症例に対する新たな有効性の効果判定基準を作成することを試みた.オクトレオチドの投与開始時から 1 週間の食欲不振 STAS と嘔気 STAS を評価し,投与開始 1 週間後のスコアの変化量と緩和ケア専門医の評価とを比較した.2007 年 10 月から 2009 年 10 月の間にオクトレオチドが投与され,投与開始から 1 週間以上生存していた 22 例を嘔吐あり群と嘔吐無し群に分類して解析対象とした.嘔吐あり群では嘔気 STAS と,嘔吐無し群では食欲不振 STAS と緩和ケア医の評価に有意な相関がみられ,基準関連妥当性が確認された.これらの STAS スコア変化量を指標とし,4 日目までに 1 回目の判定を行う新たな効果判定基準案を作成することができたことから,在宅緩和ケアでのオクトレオチド使用推進につながることが期待された. |
キーワード: オクトレオチド,Support Team Assessment Schedule(STAS),消化管閉塞,在宅緩和ケア,効果 |