学会誌 VOL.2 No.4 September 2009
総説
痛みや鎮痛における個人差の遺伝的要因 |
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森山 彩子,西澤 大輔,池田 和隆 |
[要旨] 痛みは生体防御機構であるとともに,過度の痛みは著しい QOL の低下を引き起こす.特に緩和領域においてはがん性疼痛に対し,広くオピオイドを用いて鎮痛を行っているが,痛みや鎮痛薬の感受性の個人差が臨床上大きな問題である.この個人差の発生メカニズムに各個人の遺伝子の相違が関係することが,近年遺伝子欠損マウスやオピオイド関連分子の遺伝子研究により徐々に明らかとなってきた.またヒトゲノムの遺伝子特性についての網羅的解析も可能となったことで,さらに痛みや鎮痛薬感受性と遺伝子多型の関連が明らかになり,一人一人にあった最適な疼痛治療の確立,すなわちテーラーメイド医療が実現すると期待されている. |
キーワード: 痛み,オピオイド,個人差,遺伝子多型,テーラーメイド医療 |
嘔気・嘔吐の薬物療法 |
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武井 大輔,成田 年,塩川 満,余宮 きのみ,鈴木 勉 |
[要旨] 嘔気・嘔吐は患者にとって耐え難い苦痛であり,Quality of Life (QOL)の著しい低下を招く.がん患者の嘔気・嘔吐はさまざまな原因により生じ,原因や病態により対処法が異なってくる.しかしながら,がん患者の多くは,すでに薬剤を多数服用していることが多く,漫然とした薬剤追加はさらなる副作用発現のリスクを伴うことになる.そこで,嘔気・嘔吐の原因や機序に基づいた薬物療法についてまとめた. |
キーワード: 嘔気・嘔吐,がん,制吐剤 |
原著論文
緩和医療に関する保険薬局の現状と薬局薬剤師の学習状況/習熟度,意識度を中心に |
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張替 ひとみ,宮崎 敦,片山 ひろみ,加賀谷 肇,吉田 久博 |
[要旨] オピオイド鎮痛薬投与を受けても,痛みが緩和せず,副作用のみが発現している患者が多い地域医療の実態が存在することが知られている.保険薬局薬剤師(以下薬局薬剤師)が処方設計に参画し,服薬支援を適切に行うことにより,このような実態が改善できると考える.その実現に向け,緩和医療に関する知識や対応について,保険薬局(以下薬局)と薬局薬剤師の現状を把握し,改善策を検討するため,大規模なアンケート調査を実施した.その結果,薬局薬剤師の緩和医療に対する認識不足,特に WHO 方式がん疼痛治療の「基本 5 原則」等最も重要な基本的知識の不足,緩和医療が地域医療において普及していないこと, 薬局の体制が十分整備されていないことが判明した.しかし,薬局薬剤師は緩和医療の重要性を十分理解し,意欲的に取り組もうとしている姿勢がうかがえた. |
キーワード: 緩和医療,薬局,薬局薬剤師,習熟度,学習ニーズ |
がん患者の痛みの聞き取り方法に関する検討 |
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土田 沙織,白井 裕二,柏木 ひさ子,横田 徳靖,栗原 英明,森田 雅之,木津 純子 |
[要旨] がんの痛みは大きく侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に分類でき,痛みの種類によりオピオイドの効果が異なる.がん患者の痛みを診断・治療するには,患者から痛みの種類がわかるような聞き取りをすることが重要である.しかしながら,がん患者の薬物治療にかかわる薬剤師によるがん患者の痛みの聞き取り方法に関する検討は少ない.そこで今回,薬剤師が 18 名の患者を対象に,作成した質問票に沿って同じ質問方法で痛みの表現を聞き取った.その結果,痛みを 1 種類の形容表現で表すものと複数で表すものが認められた.表現は「張っている」「重い」「ズキズキ」が 5 名以上から収集できた表現であり,がん患者が発しやすい表現である可能性が考えられた.本研究ではがん患者から聞き取った痛みの表現と,オピオイドの効果との関連性を検討した. |
キーワード: 痛み,がん,質問,表現 |
短報
保険薬局における疼痛緩和医療への取り組み |
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加藤 種子,平野 智美,石川 将也,松波 晋平,澤田 えり,服部 克彦 |
[要旨] 当薬局は在宅緩和医療に医療チームの一員として関わってきたが,来局患者には十分な薬学的管理指導が提供できているとはいいがたかった.そこで,来局患者に疼痛日記の配布と疼痛緩和薬物療法のチェックリストの運用を試みた.15 カ月間の疼痛日記およびスタッフのチェックリストの利用率は共に低い結果となったが,今回の研究中では適正な処方が以前より増加していたにもかかわらず,医師への疑義照会率は増加していた.このため,今回の試みにより,薬剤師による薬学的管理指導の充実が図られたと考える. |
キーワード: 緩和医療,疼痛日記 |