一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.2 No.2 July 2009

総説

慢性疼痛と不安/睡眠障害:痛み刺激による脳内感作
葛巻 直子,成田 年,新倉 慶一,鈴木 勉
[要旨] 痛みは人が生存していく中で必要不可欠な警告系であるが,痛みが慢性化すると,不安や抑うつ,さらには QOL の低下を引き起こす.痛みは,末梢から入力した疼痛情報が一次知覚神経を通り,脊髄を介して,視床,大脳皮質へと伝達されることにより認知される.大脳皮質の中でも帯状回領域は不安や抑うつなどの情動行動をつかさどり,痛みの認知に重要な部位であることが近年明らかになっている.最近われわれは,同じ大脳皮質領域でも,一次体性感覚野は疼痛閾値そのものに関与するのに対して,帯状回領域は疼痛に伴う不安やうつ,睡眠障害に大きく関与することを明らかにしている.また,こうした疼痛刺激による情動障害には,帯状回におけるグリア細胞(特にアストロサイト)に局在する受容体やトランスポーターの発現変化が重要である可能性が考えられる.本稿では,こうした慢性疼痛下にける帯状回領域の変化を中心に,「持続的な痛み刺激による脳内感作」を中心に概説する.
キーワード: 慢性疼痛,情動障害,帯状回,アストロサイト,GABA

 

疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた新規メトロニダゾールゲルの調製と製剤評価
渡部 一宏,中村 清吾,島本 敏夫,浦松 俊治,岸 広三,植村 俊信,新池 仁志
[要旨] 聖路加国際病院においては,乳癌の癌性皮膚潰瘍部の悪臭に対し,基剤にカーボポールを用いたメトロニダゾールゲル(MTZ・Gel)を調製し,患者に適応している.MTZ・Gel の癌性皮膚潰瘍部の悪臭に対する有効性はあるものの,使用後の患部を覆ったガーゼとゲルが乾燥・付着し,剥離する際に患部が出血するなどの使用感の問題点が挙げられている.この問題点を解決するために,基剤に保水性や保形性が高い疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(サンジェロース®)を用いたメトロニダゾールサンジェロースゲル(MTZ-SW・Gel)を調製した.われわれは,すでに MTZ-SW・Gel に対する臨床試験を行い,その有効性,安全性ならびに使用感に対する評価が認められている.今回,MTZ-SW・Gel の品質の確保を目的として,製剤学的評価を行った.稠度および展延性を評価した結果,MTZ-SW・Gel は MTZ・Gel よりもさらに柔らかく,延びがよい製剤であることが認められた.安定性試験の結果,MTZ-SW・Gel は 28℃および 40℃いずれの条件下であっても製剤中の MTZ の含量の変化はなく 60 日間安定であった.薬物放出性試験の結果,8 時間後の MTZ の薬物放出率(%)は MTZ-SW・Gelは,97.6 で,MTZ・Gel は,89.7 であり,MTZ-SW・Gel のほうが基剤から薬物放出性が高いことが認められた.
キーワード: 病院薬局製剤,メトロニダゾール,疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース,癌性悪臭,乳癌

 

難治性の嘔気・嘔吐に対しオランザピンを投与した2例
山中 幸典,荒木 裕登,酒井 崇,松浦 明子,岡井 美鈴,田中 友晴,斎藤 純一
[要旨] 終末期の嘔気・嘔吐は quality of life を著しく低下させ,オピオイドの増量を妨げ,疼痛管理を不良にする.近年,オランザピン(OLZ)が化学療法による嘔気・嘔吐に有効であると報告されている.今回われわれは,制吐薬内服にもかかわらず嘔気・嘔吐があり,食欲も低下していたが,OLZ 投与により嘔気・嘔吐が消失し,食欲不振も改善した症例を経験した.OLZ は,嘔気・嘔吐のみならず食欲不振にも有効であると考えられた.
キーワード: 嘔気・嘔吐,オランザピン,オピオイド

 

がん化学療法の標準レジメンにおける口内炎発症要因の解析
宍野 友紀,飛鷹 範明,井門 敬子,末丸 克矢,荒木 博陽
[要旨] がん化学療法の 3 種類の標準レジメンにおける口内炎の発症頻度と発症要因の検討を行った.R-CHOP療法,TJ 療法,FOLFOX 療法の施行患者でそれぞれ 23%,17%,12%に口内炎の発症がみられ,初回化学療法施行後 2 週間以内の白血球減少(Grade 3 以上)と有意な関連性(OR, 4.9; 95% CI, 1.25 ~ 21.1)が認められた.したがって,早期からの白血球減少では,口内炎の発症に注意する必要がある.
キーワード: 口内炎,化学療法,副作用