学会誌 VOL.1 No.3 December 2008
総説
鎮痛補助薬の最新ストラテジー |
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井関 雅子 |
[要旨] がん疼痛を緩和するための薬物療法において,オピオイドとともに鎮痛補助薬が,広く使用されている.鎮痛補助薬の使用にあたっては,痛みをできるだけ早く緩和する目的で,安全性を十分に考慮しながら,患者の全身状態と痛みの性状から的確な薬剤を選択し,短期間でタイトレーションを行っていく必要がある.今後は,鎮痛補助薬の投与経路を,経口や静注に固執することなく,髄腔内投与まで視野に入れて,ストラテジーの組み立てを考慮していく時代になる可能性もある. |
キーワード: 鎮痛補助薬,がん疼痛,抗けいれん薬,抗うつ薬,神経障害性疼痛 |
原著論文
モルヒネの副作用対策における新規抗精神病薬アリピプラゾールの有用性/th> |
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塩川 満,成田 年,武井 大輔,松島 勇紀,高木 茂実,橋本 敬輔,池上 大悟, 朝戸 めぐみ,平山 重人,成田 道子,新倉 慶一,葛巻 直子,鈴木 勉 |
[要旨] モルヒネは,緩和医療における疼痛緩和薬物治療の主役を担う薬であるが,副作用として嘔気・嘔吐作用を発現するため,ドパミン受容体拮抗薬が制吐剤として併用されている.しかしながら,こうした薬剤は,慢性投与により錐体外路症状などの副作用を発現する.本研究では,モルヒネの副作用に対する新規抗精神病薬であるアリピプラゾールの有用性について検討を行った.モルヒネ誘発嘔気反応,運動量増加ならびにドパミン遊離作用について検討を行った結果,いずれの作用もアリピプラゾールを併用することにより有意に抑制された.一方,アリピプラゾールの投与によりカタレプシー,糖代謝異常および高プロラクチン血症など,既存の制吐剤である定型および非定型抗精神病薬で懸念されている副作用は認められなかった.こうしたことから,アリピプラゾールは副作用が少ない,オピオイドによる嘔気・嘔吐に対する有用な制吐剤となりうる可能性が示唆された. |
キーワード: モルヒネ,アリピプラゾール,副作用,嘔吐,抗精神病薬 |
東京女子医科大学病院薬剤部における緩和ケア専門薬剤師研究会の取り組み |
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高橋 麻利子,伊東 俊雅,松本 幸恵,小島 正照,矢島 亜紀,守屋 貴充,柏瀬 しのぶ 岡田 文雄,勝見 重昭,青山 涼重,浅沼 貴仁,勝沼 亜紀,清水 香奈子,田口 晃子 千葉 亜希子,坂丹波 礼子,朴 英子,小林 恵美子,木村 利美,佐川 賢一 |
[要旨] 東京女子医科大学病院(以下,当院)薬剤部では,薬剤師の資質向上,緩和薬物療法の標準化を目的として緩和ケア専門薬剤師研究会(以下,研究会)を定期的に開催している.今回,アンケート調査により,研究会所属薬剤師の資質向上に対する有用性について検討した.調査は研究会所属薬剤師 21 名を対象として行った.さらに,アンケート結果を受け,緩和医療における薬学教育の現状を把握する目的で,大学薬学部ならびに薬科大学(以下,国内薬学部)72 校を対象とし,アンケート調査を実施した.その結果,薬剤部職員への教育には専門研究会は必要不可欠であり,内容については今後さらに吟味し,緩和医療全般に目を向けた講義にすべきであることが判明した.一方,国内薬学部への調査においては,緩和医療に関する教育への高い関心とその必要性は感じているものの,教育の具体化に関してはまだ十分とはいえないため,薬剤師教育の重要性を啓発すべきであると考えられた. |
キーワード: 緩和医療,薬学教育,専門薬剤師,チーム医療 |
がん疼痛治療薬の適正使用を目的としたオーダリング・システム入力支援ツールの構築 |
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松尾 宏一,樋口 美奈子,佐々木 好美,岩坪 沙奈恵,和田 依子,西野 弘章 |
[要旨] がんの疼痛緩和の充実は不可欠であるが,必ずしも薬剤の適正使用が行われていないのが現状である.そこで適正ながん疼痛治療の実施を目的とし,九州中央病院オーダリング・システムに導入から維持期までのオピオイド,併用するレスキュードーズ,非ステロイド性抗炎症薬,鎮痛補助薬,副作用対策薬の処方オーダ入力を,容易に行える支援ツールを構築した.このツールは,過去の疼痛治療での問題点を踏まえて作成し,適切な処方を容易に行えるようになっている.そこで,導入前後の処方実態調査と医師へのアンケート調査を行い,処方の変化と医師の評価を解析し,ツールの有用性を検討した.その結果,入力ツールの導入後ですべての薬剤の併用率は増加し,きめ細やかな疼痛治療の実施が可能になっていた.また,アンケート結果では医師の満足度も高かった.このようなツールを薬剤師が準備することは,患者の痛みからの薬学的な管理に貢献することが判明した. |
キーワード: オピオイド鎮痛薬,適正使用,薬学的管理,がん疼痛治療,オーダリング入力支援ツール |
在宅緩和ケアにおける薬局薬剤師の参画意識と現状 |
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赤井 那実香,池田 智宏,濱邊 和歌子,徳山 尚吾 |
[要旨] わが国では,医療費の高騰化に伴った在院日数の短縮により,在宅医療の充実が急がれている.緩和ケアの領域でも,がん対策基本法が施行され,在宅化が推進されている.本研究では,地域密着型の薬局薬剤師の在宅緩和ケアにおける参画の意識と現状を明らかにするため,調査を行った.全回答者の 85.3%が薬局薬剤師は在宅緩和ケアに参画する必要があり,薬局薬剤師,他の医療従事者,患者にとってメリットがあると考えていた.しかし,実施は 4.3%にとどまった.その理由として,人手不足,24 時間対応が困難などのほか,医師から依頼がないといった意見も挙げられた.本研究により,薬局薬剤師は在宅緩和ケアにおいて,自身の参画は意義があると考えていたが,その参画は普及していない現状が明らかとなった.今後,薬局薬剤師が積極的介入を実践し,緩和ケアに果たす役割を社会に対して明確に提示していくことが緊急の課題になると思われる. |
キーワード: 緩和ケア,在宅医療,薬局薬剤師,意識調査,薬局 |