学会誌 VOL.1 No.1 May 2008
巻頭言
日本緩和医療薬学雑誌創刊に寄せて |
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鈴木 勉 |
総説
悪性腫瘍の骨転移による疼痛の発現機序と薬物による疼痛緩和 |
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岸 里奈,水野 智博,脇 由香里,野田 幸裕 |
[要旨] 現在,日本における死亡原因の 1 位は悪性腫瘍によるものであり,悪性腫瘍による疼痛をコントロールすることは,患者の生活の質(QOL)を向上させるためにも重要である.近年,モルヒネ等のオピオイドの使用拡大に伴って,日本でも疼痛コントロールが盛んに行われるようになってきており,早期から適切な薬剤でコントロールを始めることによって,終末期の患者だけでなく,がん患者全体の QOL が向上してきている.しかし,痛みだけでなく患者の精神的なケア,さらにはコントロールの難しい疼痛もある.特に,骨転移痛のコントロールは一般に困難なことが多く,体動が困難となり,患者の日常生活活動性(ADL)や QOL が著しく低下することから積極的な治療が必要とされている.しかし,骨破壊(骨折)を伴わない骨転移の生理学的な痛みの発現機序は明確には解明されていない.現在のところ骨転移痛の発現機序としては,骨転移の進展によって,腫瘍からさまざまなホルモンやサイトカインが放出され,骨吸収の進行,マクロファージの活性化,さらに活性化したマクロファージからプロスタグランジン E2(PGE2)やサイトカインが放出されることなどが考えられている.骨転移痛の治療薬の一つであるビスホスホネート製剤は,破骨細胞の機能を阻害することによって,腫瘍細胞,破骨細胞,マクロファージ等が関与している骨吸収促進サイクルを抑制し,その結果,PGE2 等の生成を抑制することにより骨転移痛を軽減する.今後,骨転移の生理学的機序のさらなる解明と早期における骨転移痛治療法の確立が重要になるものと思われる. |
キーワード: 骨転移,悪性腫瘍(がん),疼痛,治療法 |
原著論文
病院における緩和医療の現状ならびに薬剤師業務に関する調査研究 |
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伊勢 雄也,宮田 広樹,片山 志郎,塩川 満,柏原 由佳,松本 高広,舛岡 由紀子 鈴木 勉,井上 忠夫,富永 さおり,山村 重雄,伊東 俊雅 |
[要旨] 病院における緩和医療の現状ならびに薬剤師業務に関するアンケート調査を行った.298 施設(65.9%) よりアンケートが回収できた.約 85%の施設がここ数年でオピオイド製剤の採用品目が増えていた.124 施設が緩和ケアチームを有していたが,その施設の病床数によりチームの保有割合に差が認められた.緩和ケアチームの職種別構成割合では,薬剤師ならびに看護師の割合が最も高かった.薬剤師の緩和ケア領域に携わる業務形態としては,薬剤管理指導業務が最も多く,次いで麻薬管理業務,緩和ケアチームであった.また,薬剤師が緩和ケア領域に関わることにより,明確なアウトカム(患者の薬剤に対する誤解の解消,副作用の軽減等)がもたらされる可能性が考えられた.以上,多くの施設において緩和ケアチームに薬剤師が参加しており,また,薬剤師はこの領域に明確なアウトカムをもたらす存在である可能性が示唆された. |
キーワード:緩和医療,薬剤師業務,アンケート調査,緩和ケアチーム |
Effect of Gosha-Jinki-Gan on Vincristine-Induced Painful Neuropathy in Mice |
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Junzo KAMEI, Shun-suke HAYASHI, Shigeo MIYATA, Masahiro OHSAWA |
Abstract: In the present study, we examined the effect of Gosha-jinki-gan on vincristine-induced thermal hyperalgesia in mice. Mice were intraperitoneally (i.p.) treated with vincristine at a dose of 0.05 mg/kg 1 day after measurement of the pre-drug latency in the tail-flick test, and then treated with a dose of 0.125 mg/kg twice a week for 6 weeks. In vincristine-treated mice, a significant decrease in tail-flick latency developed at 6 weeks after treatment. Pretreatment with Gosha-jinki-gan, at doses of 30, 100 and 300 mg/kg, by peroral administration (p.o.), dose-dependently increased the tail-flick latency in vincristine-treated mice. This significant prolongation of the tail-flick latencies in both vincristine-treated and vehicle-treated mice induced by p.o. Gosha-jinki-gan (300 mg/kg) was dose-dependently and significantly attenuated by i.p. pretreatment with NG-nitro-L-arginine methyl ester (L-NAME; 2 and 5 mg/kg), a non-specific NO synthase inhibitor. The content of NO metabolites in the spinal cord was significantly less in vincristine-treated mice than in vehicle-treated mice. Pretreatment with Gosha-jinki-gan (300 mg/kg, p.o.) significantly increased the content of spinal NO metabolites in vincristine-treated mice. The present results show that Gosha-jinki-gan can effectively attenuate vincristine-induced thermal hyperalgesia. These results suggest that Gosha-jinki-gan reverses vincristine-induced thermal hyperalgesia through the reversal of vincristine-induced dysfunction of NO/cGMP in the mouse spinal cord. |
Key words: Gosha-jinki-gan, vincristine, nitric oxide, hyperalgesia, spinal cord |
オピオイドローテーションの薬剤経済学的分析/モルヒネ徐放錠からフェンタニル貼付剤またはオキシコドン徐放錠へローテーションした際の費用最小化分析 |
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伊勢 雄也,輪湖 哲也,三浦 義彦,片山 志郎,原田 知彦,赤瀬 朋秀 |
[要旨] オピオイドローテーション(モルヒネ徐放錠からフェンタニル貼付剤またはオキシコドン徐放錠へのローテーション)の薬剤経済学的分析を行った.判断樹によるシミュレーションモデルを作成し,費用最小化分析を行った.なお,分析は支払い者の立場により行った.その結果,患者1人あたり塩酸オキシコドン徐放錠 39,409円,フェンタニル貼付剤 57,106 円と,フェンタニル貼付剤と比較してオキシコドン徐放錠の費用が 17,697 円少なかった.しかしながら,感度分析を行った結果,この結果は確実性が高いとはいいきれず,疼痛改善率に左右される可能性が考えられるため,実際に臨床現場において切り替えを行う場合,その製剤の疼痛改善率も予測したうえで薬剤をローテーションしたほうがより経済的な治療法となる可能性が考えられた. |
キーワード:薬剤経済学,費用最小化分析,オピオイドローテーション,フェンタニル貼付剤,オキシコドン徐放錠 |
短報
緩和的化学療法としての肝動注隔日投与療法の有用性/多発性肝転移を有する食道癌に対する緩和的奏効症例からの検討< |
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毛利 順一,吉山 友二,菅家 甫子,松山 賢治,加藤 潤一郎,須田 奈美 高橋 直人,石橋 由朗, 鈴木 裕,柏木 秀幸,荒川 泰弘,市場 保 柵山 年和,井上 大輔,小林 直,相羽 惠介 |
[要旨] 多発性肝転移等遠隔転移巣を有する根治手術不能原発進行食道扁平上皮癌(60 歳代男性,臨床病期 Ⅳb)の全身化学療法に耐性化した肝転移巣に対し,5-fluorouracil による隔日 24 時間肝動注療法を施行したところ,腫瘍熱は消失し,副作用の出現は軽微であった.これより,本治療法は緩和的化学療法として有用であることが示唆された. |
キーワード: 緩和的化学療法,肝動注,5-フルオロウラシル |
国立がんセンター中央病院におけるオピオイド製剤の処方動向 |
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龍島 靖明,西垣 玲奈,赤木 徹,坂本 治彦,加藤 裕久,下山 直人,山本 弘史 |
[要旨] 臨床でのオピオイド製剤を用いた疼痛緩和治療の動向を明らかにすることを目的として,国立がんセンター中央病院における 2001 年度から 2006 年度までのオピオイド製剤の処方状況を調査した.オピオイド製剤の総処方量および処方患者数は,オピオイド製剤の選択肢が増えるのに伴い増加していた.特に速効性製剤と低用量徐放性製剤の処方量の増加は著しかった.オピオイド製剤を用いた疼痛緩和治療の浸透が示唆された. |
キーワード: オピオイド製剤,オキシコドン,処方動向 |