学会誌 VOL.18 No.3 September 2025
総 説
倫理指針に基づく研究実施と関連法令の影響——個人情報保護法と臨床研究法を中心に—— |
---|
島津実伸 |
[要旨]本稿は,臨床研究法や個人情報保護法の登場により複雑化した医学研究規制を,人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針との関係を中心に概観し,指針に基づき研究を行う研究者が,留意すべき点を整理し,検討するものである.特に,個人情報保護法の改正により,倫理指針は大きく影響を受け,学術研究の範囲やオプトアウトの可否など,法令上求められる手続との関係性が問われることとなった.また,臨床研究法についても,同法の対象となる研究 ( 特定臨床研究や非特定臨床研究 ) の特徴や観察研究の適用除外などの「棲み分け」に関わる論点を理解することは,法令違反を防止するだけでなく,「統括管理者」など今後,導入される制度を踏まえれば,ますます重要な課題となる. |
キーワード:人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針,個人情報保護法,臨床研究法,研究倫理 |
原著論文
がん疼痛薬物療法に関するオリジナル小冊子を用いた 薬剤師によるオピオイド説明の評価 |
---|
小藪(宮田)恵里花・神田友江・大西利佳・三岡麻千子・郷真貴子・木村美智男・宇佐美英績 |
[要旨]外来でオピオイドが導入された患者への服薬指導は十分とは言えない中,どの施設でも適切に指導が行われることが望まれる.本研究では,オリジナル小冊子を用いたオピオイド説明に対する患者満足度,改善点,およびオピオイドのイメージを明らかにすることを目的にアンケート調査を行った.Customer Satisfaction(CS)分析を行い,総合評価の中央値[範囲]は 5[4-5]であった.CS 分析改善度が 5 以上の項目は,冊子の字の大きさや配置 7.31,外来診察時の医師の説明 6.29 であり改善項目として挙げられた.オピオイドに対するイメージは,ネガティブ(中毒になる,怖いなど)な意見が 93.5%(29/31 例),ポジティブな意見が 6.4%(2/31 例)であった.患者は,オピオイドに対してネガティブなイメージを持っている.その中で,オリジナルのオピオイド小冊子を用いた初回説明は,患者の満足度が高く有用なものであった. |
キーワード:緩和,がん疼痛,オピオイド小冊子,CS 分析,満足度 |
薬剤師,看護師を対象とした医療用麻薬注射剤の調製方法に関する実態調査 |
---|
相田和希・藤村昭太・外山智章・加納亜由子・大野凜太郎・板垣鈴香・佐藤淳也 |
[要旨]麻薬注射剤は,採取容量試験法に則り,不足なく採取できるように表示量より過剰充填されているが,その程度は分かっていない.多くの医療関係者は,1 アンプル中の薬剤の全量を表示量と考えている.表示された成分量(mg)や容量(mL)ではなく,処方されたアンプル数で全量回収すると,過剰投与になる可能性がある.複数の医療機関の薬剤師・看護師を対象に,麻薬注射剤の調製方法に関するアンケート調査を実施した.その結果, 1,955 名中 59% がアンプル内の全液量を採取すると回答した.薬剤師の 75%,看護師の 36%が,正確に採取すると回答があり,正しい調製に関する教育を受けた薬剤師と看護師の割合は,卒前では 11%と 28%,職場では 22%と 49%であった.今回の結果より,調製方法は全量採取が頻繁に行われている実態が明らかになった.処方量によっては,規定濃度からの逸脱や過量投与の可能性がある.注射用麻薬の標準的な調製法の周知徹底が必要である. |
キーワード: がん疼痛,注射,過量充填,アンプル,教育 |
病院薬剤師におけるケミカルコーピングの認知度と関連する経験に関する実態調査 |
---|
佐藤由美・土井真喜・飛鷹範明・大内竜介・中村和代・下村翔一・宮里明芽・横山晴子・国分秀也 |
[要旨]ケミカルコーピングとは感情的な苦痛に対処する為にオピオイド鎮痛薬を使用することを意味する.ケミカルコーピングは依存の前段階とも考えられており,医療チームは患者の感情的なニーズに対処する必要がある.そこで,病院薬剤師におけるケミカルコーピングの認知度と関連する経験の実態を調査した.回答者 357 名中ケミカルコーピングの意味を知っていた者は 115 名(32.2%)であった.医療用麻薬の服薬指導経験のある 314 名のうち 135 名(43.0%)はケミカルコーピングと思われる不適切使用を感じた経験があり,107 名(79.3%)が麻薬処方医に報告し,93 名(68.9%)が患者の話を傾聴していた.ケミカルコーピングを疑う患者に対して多職種でサポートする為に,病院薬剤師主導による効果的な介入方法や,ケミカルコーピングを含む医療用麻薬の適正使用に関する教育などが検討課題である. |
キーワード: ケミカルコーピング,医療用麻薬,病院薬剤師,医療用麻薬の適正使用 |