学会誌 VOL.18 No.1 March 2025
原著論文
外来での医療用麻薬処方に対する病院薬剤師の介入ニーズ調査 |
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井手 飛香、稲村 由香、鍋島 直美、木村 恵、安髙 久美子、白石 朝子 |
[要旨]医療用麻薬が処方された外来患者への病院薬剤師介入の必要性を明らかにするため,医師の意識調査を行った.外来患者へ医療用麻薬を初回導入する際,説明に時間が足りないと感じている医師は 6 割を超え,7 割の医師がオピオイドスイッチングや薬剤選択・薬剤処方量などに不安を感じていた.服薬指導や処方介入は薬剤師の職能であり,患者のみでなく医師の不安軽減にも繋がる可能性が示唆された.特に医療用麻薬の初回導入時やスイッチング時は疼痛が悪化していることが多く,速やかで確実な症状緩和のための薬剤師の役割は大きい.回答した医師の 99% が医療用麻薬の処方時に薬剤師による指導を必要としており,特にカルテを参照しながら病状に応じてフィードバックできる点は病院薬剤師の利点である.医療用麻薬処方に対する薬剤師介入のニーズは高く,更に保険薬局薬剤師と連携することで,服薬アドヒアランスや薬物療法の安全性に貢献できる可能性がある. |
キーワード: 医療用麻薬,薬剤師介入,がん性疼痛,外来がん患者 |
薬局薬剤師におけるケミカルコーピングの認知度と関連する経験に関する実態調査 |
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佐藤 由美、土井 真喜、飛鷹 範明、中村 和代、下村 翔一、金辻 純子、横山 晴子、国分 秀也 |
[要旨] ケミカルコーピングとは感情的な苦痛に対処する為のオピオイド鎮痛薬の使用とされ,薬物依存の前段階と考えられている.がん治療の進歩や医療用麻薬の適応拡大に伴い,医療用麻薬の適正使用における薬局薬剤師の役割も重要になっている.そこで,薬局薬剤師における医療用麻薬のケミカルコーピングの認知度と関連する経験の実態を調査した.回答者 665 名中ケミカルコーピングの意味を知っていた者は 66 名(9.9%)であった.医療用麻薬の服薬指導経験者 594 名中 64 名(10.8%)はケミカルコーピングを疑った経験があり,この経験に影響を与える因子としてケミカルコーピングの認知,医療用麻薬の適正使用に関する受講回数,麻薬処方箋応需枚数が抽出された.地域における医療用麻薬の適正使用において薬局薬剤師が中心的役割を担う為には,薬局薬剤師に対するケミカルコーピングに関する知識の普及と経験不足を補う手段や研修の構築が求められる. |
キーワード: ケミカルコーピング,医療用麻薬,薬局薬剤師,医療用麻薬の適正使用 |
短報
医療用麻薬注射剤の全量採取調製により過剰投与が疑われた1 例 |
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相田 和希、尾野 大気、森田 光枝、佐藤 淳也 |
[要旨]医療用麻薬注射剤(以下,麻薬注射剤)のアンプル容器では,不足なく秤量できるように表示量より過剰に充填されている . 今回,指示された麻薬注射剤のアンプルを全液量採取する調製者とシリンジで正確に液量を秤量する調製者が存在した . 医療従事者間の異なる調製方法によって希釈濃度が変化し,過剰投与や疼痛コントロール不良が起きたと考えられた 1 例を経験したので報告する. |
キーワード:がん疼痛,過量充填,オピオイド鎮痛薬 |
肺がん患者の呼吸困難に対してヒドロモルフォン塩酸塩注の持続皮下投与が奏効した1 例 |
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大内 友季江、曽我 里紗、佐藤 千穂、安達 寛成、亀岡 祐一 |
[要旨] ヒドロモルフォン塩酸塩はモルヒネに類似した特性を持つことから呼吸困難の緩和に有効である可能性が示唆されているが,十分なエビデンスは示されていない.今回,呼吸困難を呈した左下葉肺がんの患者に対し,ヒドロモルフォン塩酸塩注の持続皮下投与を開始したことで Numerical Rating Scale(NRS),Integrated Palliative care Outcome Scale(IPOS)共に症状の改善を認め,原疾患の増悪で永眠するまで呼吸困難症状の再増悪を来すことなく過ごすことができた症例を経験したので報告する. |
キーワード: ヒドロモルフォン塩酸塩,呼吸困難,オピオイド |