一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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保険薬局の薬剤師が、 がん患者さん・在宅緩和ケア中の患者さんに向き合う際に注意すべきこと

COVID-19感染が拡大する中、各医療機関・保険薬局等ではそれぞれ対策が行われていることと思われます。特にがん患者さん、あるいは緩和ケアを受けている患者さんにおいては、感染リスクが高いとのことで、相談を受けるケースが多くなってきていると思います。保険薬局においても患者さんからの質問や不安を打ち明けられることが増えていると思われます。
  今回、日本緩和医療薬学会のアンケート結果や会員から、COVID-19感染拡大に伴い患者さんからの問い合わせや医療機関との連携に戸惑いがあるとの意見が見られました。そこで本学会として保険薬局の薬剤師ががん患者さん、あるいは在宅緩和ケアを受けている患者さん・家族に向き合う際の注意点をQ&A方式にて掲載することとしました。
  がん患者さんにおいてはその治療内容や治療段階により対応が異なるため、一概に答えを出すことは難しいですが、医療機関や多職種との議論のたたき台となるような位置づけとして作成いたしました。このQ&A集が会員の皆さんの行動の気付きにつながり、すべての緩和ケアを受けている患者さんの助けになればと思います。

Q.患者さんが発熱したときの対応をどのようにするのか

 がん患者・終末期患者さんにおける発熱は、必ずしもCOVID-19に由来するものとは言えないことが多いと思います。特にがん患者さんにおいては腫瘍熱により発熱することが見られるため、十分な確認が必要となります。主治医やケアマネジャー等と連絡を取り合い、発熱の原因を探る必要があります。
 もし、COVID-19由来の発熱ではないとしても、咳やその他の症状に応じて適切なPPEの使用(後述参考)や患者さんとの距離を取る等の対策が必要になると考えます。

Q.化学療法継続への不安を訴えられたときどうするのか

 日本臨床腫瘍学会作成の がん診療と新型コロナウイルス感染症:がん患者さん向けQ&A(4/20公開版) (https://www.jsmo.or.jp/general/coronavirus-information/qa.html)の引用になりますが、「患者さん一人一人により状況が異なるため、主治医と相談して決定してください。」となってしまいます。
 しかし、中には不安から自己判断で治療中断してしまう患者さんもいるかもしれませんので、自己判断での治療の中断をしないことを伝えたり、医師と十分治療上のメリット/デメリットを話し合う様に伝えたりしてはどうでしょうか。
 また自分自身この先どのように治療や療養を行いたいと考えているのかを家族や医療従事者と話し合いを行っていく「人生会議(アドバンス・ケア・プランニング:ACP)」について啓発してはどうでしょうか。人生会議を進めるうえで、在宅医療チーム、家族、場合によっては医療機関の医師や看護師等のスタッフを含めた多職種で進めていくことが望ましいでしょう。

■日本癌治療学会,日本癌学会,日本臨床腫瘍学会(3学会合同作成)がん診療と新型コロナウイルス感染症:がん患者さん向けQ&A -改訂第2版-(7/28公開版) 
https://www.jsmo.or.jp/general/coronavirus-information/qa_3gakkai.html

■「人生会議」してみませんか 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html

■アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)神戸大学
https://www.med.kobe-u.ac.jp/jinsei/acp_kobe-u/acp_kobe-u/index.html

 

Q.通院・来局に対する不安を訴えられたときどうするのか

 治療内容や化学療法実施状況によって一概に言えないと思いますが、もし可能な状況であれば「0410対応」について説明してはどうでしょうか。
 主治医と相談をし、なるべく通院回数を減らす方法を探るように説明するのが良いと考えます。来局については郵送や電話での服薬指導等が行えることを説明し、患者さんが安心できる方策を見つけるのが良いと考えます。
 また、当学会HPにて患者様向けのメッセージが掲載されていますので、参考となります。

■日本緩和医療薬学会から、患者さん・ご家族へのメッセージ
http://jpps.umin.jp/jppscomment.html

 

Q.入院から在宅療養へ急遽切り替わり、対応を求められたときはどうするのか

 COVID-19感染拡大に伴い、面会制限によるものや看取り目的の在宅療養への移行が多くなってくると想定されます。それに伴い、病状によっては急遽在宅への切り替え・対応依頼が来ることが想定されますので、事前に連携医療機関とどのような情報が必要なのか関係部署と話し合っておく必要があると考えます。
 急遽依頼があっても下記に示す内容について確認をするようにしましょう。(赤字は必須と考える項目)

COVID-19関連

    • *患者さんの発熱状況や感染リスクの可能性(院内での発生状況等)
  • *発熱等がある際はPCR検査日時・結果の確認(いつから陰性なのか、退院直前にも検査)
    • *感染患者さんであれば確定の日と経過、陰性化の確認日
    • *在宅移行後、各職種訪問時のPPE対応(PPE緩和時期も含む)
    • *発熱時の対応等(コロナ感染症対策として、退院後多職種でどのように対応するか)

 

在宅緩和ケア関連

    • *疾患名・合併症、これまでの治療経過(検査データ含む)
    • *入院中に実施された薬物療法の処方意図とその効果(レスキュー回数等を含む)
    • *注射薬施用時は、1日用量、希釈倍率、投与速度、ロックアウトタイム、PCA投与量、使用機器等
    • *退院予定日時と退院時処方の日数、医療機関の初回介入日(通院の場合は受診日)
  • *内服・坐剤投与、経腸投与の是非(どの時点で注射剤へ切り替える必要があるか)
  • *化学療法の目的と内容、今後の予定
  • *本人・ご家族の病識
  • *おおよその予後とACP、DNARの確認
  • *ご本人・ご家族の在宅療養での希望(目的)
  • *退院に伴い実施する患者さん・家族に対する教育内容(輸液投与、投与機器の扱い方など)
  • *入浴の可否・頻度(注射剤投与が必要な場合に確認)
  • *今後予測できる体調変化と、注意すべき症状コントロールなどの確認
  • *緊急時の対応(発熱時、在宅での症状コントロール不良時など)
  • *バックベッド対応の有無(どの時点で再入院か)
  • *患者さんに使用する医療器材の内容(フーバー針のサイズや、デバイス等の確認)

Q.患者さんに対応するとき、何に注意をすればよいのか

 来局される患者さんにおいては、他の患者さんと同様に薬局内での感染をさせないことを念頭に、滞在時間をなるべく減らす、他の患者さんとの接触を減らす(車での待機等)、場合によっては郵送対応等の対応が必要になると考えますが、特別な対応をする必要はないとかんがえます。
 ただ、がん患者・終末期患者さんにおいては他の患者さん以上に感染に対する不安を覚えている可能性が高いため、十分に寄り添った対応が必要と思われます。
 対応については下記サイトが参考となります。

■薬剤師向け新型コロナウイルス対策特設ページ(ヤクメド)
https://yakumed.jp/covid-19

 在宅緩和ケアを受けている患者さんにおいては、その病状や家庭環境によって対応が異なると思われます。基本は患者さんに不安を与えないことを念頭に対応が必要と考えます。来局患者同様、がん患者さん・終末期患者さんという枠で分ける必要はありませんが、感染させないよう十分な注意を払う必要はあると考えます。
 中には在宅酸素療法やたんの吸引を行っている患者さんもいると思われます。そのような患者さんにおいてはマスクの着用をすることが不可能な場合があり、薬剤師側での防御が重要になると考えます。
 在宅療養での対応については下記サイトが参考となります。

薬剤師の訪問服薬指導における新型コロナウイルス感染防止のためのチェックリスト公開にあたり(一般社団法人全国薬剤師・在宅療養支援連絡会)

 

Q.どこまで個人防護具(PPE)を装着するべきか

 がん患者や終末期患者さんに対応する際、通常のPPE使用基準に準じて装着で問題はないと考えます。がん患者・終末期患者さんと言うことで過剰なPPEの使用(ガウンやフェイスマスク)は逆に患者さん・家族の不安を煽ることになりかねないので注意が必要と考えます。
 また、患者さん・家族によっては外からウイルスを持ち込まれることに対する不安が強い場合もあると思います。その際にはPPEを過剰に使用するのではなく、訪問時間を短縮する・患者さんとの距離を取る等の対策により、感染させない対応を取る必要があると考えます。連携する医師や看護師と足並みをそろえる必要もありますので、連携各所とどのようにPPEを使用していくのかを事前に話しあう必要もあると考えます。
 基本的なPPE使用については関連学会を参考にしてください。

■『教育ツール Ver.3 (感染対策の基本項目改訂版)』(日本環境感染学会)
http://www.kankyokansen.org/modules/education/index.php?content_id=5
主に「02.標準予防策」および「03.感染経路別予防策」をご参照下さい。

■職業感染制御研究会
http://jrgoicp.umin.ac.jp/

・『新型コロナウイルス感染症、個人防護具の使い方に関する情報』
http://jrgoicp.umin.ac.jp/index_related_6.html

・『個人防護具の自作・代替品性能評価』
http://jrgoicp.umin.ac.jp/index_ppewg_diy_eval.html

■『在宅医療における新型コロナウイルス感染症対応Q&A 』(日本在宅医療連合学会)
https://www.jahcm.org/assets/images/pdf/20200629_covid19_01_v2.1.pdf