一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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日本緩和医療薬学会から、患者さん・ご家族へのメッセージ

がん治療中や鎮痛薬服用中の患者さん、そのご家族様においては、新型コロナウイルス感染症について不安に思われていることが多く、実際にどのようにすればいいのか、何に注意すればいいのか迷われることが多くあると思います。
  がん患者さん、特にこの1~2年に抗がん剤治療を経験された方は、免疫力が低下している場合があり、新型コロナウイルスに感染したり重症化しやすくなる可能性があることは否定できません。そのため、まず感染を防ぐことが極めて重要となります。
  がん患者さんにおける感染予防策は一般に言われている方法と基本的には差がありませんが、がん患者さんに特に気を付けていただきたいこと、不安に思っていることについて具体的なご提案をいたします。

1.日々の生活の中で注意する点

 がん患者さんは一般に免疫力が低下しています。特に抗がん剤治療をされている患者さんは抗がん剤投与後、2週間から3週間目に白血球、特に敵と戦う好中球が一番少なくなりますので、この時期は十分注意をしてください。外出時は人込みを避け、マスク、メガネ(できれば大き目なもの)、こまめな手洗い、また帰宅時には手洗い・うがいの徹底をお薦めします。メガネの着用は新型コロナウイルスの目からの感染を予防します。基本的に一般的に推奨されている感染予防策の徹底をお願いいたします。
 同居する家族や、頻回に面会のある人に対しては、ご自身が感染しやすい状況にあることを伝え、一般に推奨されている感染予報策の徹底を家族等にもお願いするようにしてください。可能であれば、感染リスクの高い家族とは一定の距離(1mできたら2m以上)を保つように心がけていただきたいですが、実際には難しい点が多くあると思います。普段から、家族内で患者さんとご家族で、外出時や帰宅時の行動について話し合いを持って、特に手指、身の回り品などを通じてウィルスを持ち込まないようにすることが重要となります。

■新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け) 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html

■新型コロナウイルス-がん患者が知っておくべきこと【NCI編】
 がん情報サイト「オンコロ」
 (※本情報は、米国内向けに発信された内容のため、日本国内の社会保障制度並びに医療体制とは異なる場合もあります。ご注意ください。)
https://oncolo.jp/news/20200403kn

■がん患者さんのための新型コロナウイルス対策 日本対がん協会
https://www.jcancer.jp/coronavirus

■がん患者さんを新型コロナウイルス感染症から守るためには
 国立がん研究センター 東病院
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/safety_management/about/kansen/040/COVID-19.html

2.鎮痛薬に関連する事項

 一部の鎮痛薬(注1)について、コロナウイルスを増殖させ、悪化させるため、服用しないほうが良いとの情報が拡散されるということがありました。しかし世界保健機構(WHO)は、治療にあたっている医師への調査により症状を悪化させるという結果はなかったとし、鎮痛薬の服用について、「控えることを求める勧告はしない」と表明しております。
 現在、処方されている鎮痛薬を服用している患者さんにおいては、新型コロナウイルスへの不安から、自己判断によって薬を中止することは控えてください。逆に、発熱があったり体調が悪いからと言って、現在処方されている鎮痛薬を自己判断で量を増やしたりすることは控えるようにしてください。
 もし市販の風邪薬を購入する際(アセトアミノフェンが推奨)には、主成分が処方薬と重複する可能性があるため、必ず薬剤師に相談をしてください。また服用して4日以上経過しても症状の改善が見られない時には保健所へ相談をするようにしてください。
 体調がすぐれない時(発熱や倦怠感、味覚異常など)にはきちんと医療機関への相談の上、受診するようにしてください。

(注1)鎮痛剤とは、専門的には「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」と呼ばれる炎症を抑える作用、熱を下げる作用のある鎮痛剤の総称で、アスピリン、イブプロフェン、ロキソプロフェンなど癌の痛み止めとして処方されるほか、市販の風邪薬、鎮痛薬等によく含まれている成分のことです。なお、新型コロナウイルス感染症ではまだそのような例は報告されていませんが、インフルエンザによる脳炎・脳症を悪化させる懸念があることから、インフルエンザによる発熱に対する使用は推奨されておらず、特に脳炎・脳症を伴う場合は、一部、禁忌とされています。

 

 フェンタニル貼付剤(商品名:フェントス、デュロテップMTパッチ、ワンデュロ、フェンタニルクエン酸塩1日用テープ等)は、特性上、発熱がある場合には一過性に薬の吸収が高まり、眠気やふらつきがでたり、貼付剤を貼り替える前に痛みがでたりすることがあります。もし発熱の症状があるときには、体調の変化や痛みの変化に注意し、普段と違うようであれば医療機関に相談するようにしてください。

 

3.診察・薬の処方について

 新型コロナウイルスの感染がこわくて、診察や薬をもらいに病院等に行くことに不安を感じる方も少なくないと思います。医師に受診間隔や薬の処方日数を長くしてもらうことにより、病院や薬局へ行く回数が少なくなり、感染の機会を減らすことができます。
 また、すべての病院やクリニック、薬局が実施しているわけではありませんが、下記のような方法が行われている施設もあります。もし、このような制度を利用したいと考えておられましたら、医療機関や薬局に相談してみてください。

3-1.処方箋の送付

 すでに実施されている患者さんもいらっしゃいますが、処方箋をFAXやアプリを用いて薬局に処方箋を送ることが可能です。あらかじめ薬局に処方箋を送付することにより、薬局内での待ち時間を短くすることができたり、他の患者さんが少ない時間に薬を取りに行くことが可能となります。医療用麻薬のある処方箋もFAXで送ることができます。
FAXやアプリで処方箋を送付した場合には、薬を受け取る際に処方箋の原本が必要となりますので、必ず持参するようにしてください。

3-2.薬の受け取り

 処方箋を薬局に持参した後、処方された薬を郵送し、電話にて薬の説明や服用状況の確認をしてくれる薬局もありますので、かかりつけ薬局に相談をしてみてください。
ただし、医療用麻薬が処方されている場合は、本人もしくは家族の方の受け取りが基本となります。患者さんや家族の方の依頼を受けた患者さんの看護にあたる看護師、介護にあたる人等に対しても麻薬を手渡すことができますが、不正流通防止の観点から受け取りに来た方に依頼を受けた者であることを書面や電話等で確認することがあります。

3-3.オンライン診療(電話、通信機器などによる再診と処方について)

 新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、慢性疾患等を有する定期受診患者さん等が継続的な医療・投薬を必要とする場合の電話や情報通信機器を用いた相談・診療等の臨時的・特例的な診療で、患者さんの診察や処方箋の発行を行います。がん患者さんであっても、症状が安定しており、定期的な受診をされている患者さんが対象となります。
医療用麻薬や新薬は処方日数に制限(14日もしくは30日まで)があるため、どうしても頻回の受診が必要となります。オンライン診療が利用できれば、病院へ行かなくても処方箋の発行が可能となります。
このオンライン診療を利用した場合では、処方箋は医療機関から患者さんが指定した薬局にFAXで送られ、処方箋原本が薬局に郵送されます。そのため患者さん自身が処方箋を取りに行ったり、薬局に処方箋をもっていったりする必要はありません。ただし、薬の受け取り方法(郵送または薬局での受け取り)については薬局と相談をして決めてください。

■オンライン診療に関する厚生労働省のホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index_00010.html

■オンライン診療の対応医療機関リスト(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index_00014.html

 

4.消毒薬について

 一般的な感染に対し身の回りの消毒が必要不可欠ですが、昨今の事情から消毒用アルコールが入手困難となっています。
 身の回りの物の消毒に対しては、消毒用アルコール以外にも次亜塩素酸ナトリウムや煮沸消毒を用いても十分に効果があることがわかっております。次亜塩素酸ナトリウムは一般的に漂白剤(商品名:キッチンハイター、キッチンブリーチ等)と言われるものになります。この次亜塩素酸を薄めて使用することにより消毒用アルコールの代わりに身の回りの消毒をすることが可能です。原液で使用すると人体に影響を及ぼしますので必ず薄めて使用するようにしてください。薄める方法は各社HPにて確認してください。

次亜塩素酸ナトリウムの使用にあたっては、下記の注意点を守ってください。
●皮膚に対する刺激が強いため、手洗いなど人に対しては使用しないでください。
●使用するときは、消毒液が直接皮膚に触れないように樹脂製(ビニールなど)の手袋を使用してください。消毒液が皮膚や衣服についた場合は、直ちに水で洗い流してください。
●使用するときは、換気を十分に行ってください。
●薄めた消毒液は時間が経つにつれて効果がなくなりますので、使うときに原液を希釈して必要な量だけ作り、作り置きをしないでください。
なお、2020年5月21に開催された独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の有識者による検討委員会(第3回)では、以下を有効として追加しました。
https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200522009/20200522009.html 参照)
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(0.1%以上)
アルキルグリコシド(0.1%以上)
アルキルアミンオキシド(0.05%以上)
塩化ベンザルコニウム(0.05%以上)
ポリオキシエチレンアルキルエーテル(0.2%以上)
実際に、有効と判断された界面活性剤を含む家庭用洗剤のリストは(https://www.nite.go.jp/information/osirasedetergentlist.html)を参照ください。
また、低水準消毒薬(クロルヘキシジングルコン酸塩、ベンザルコニウム塩化物)については十分な効果が得られない可能性があるとの報告もあるので注意してください。