一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.15 No.1 March 2022

原著論文

褥瘡に対する白糖・ポビドンヨード配合軟膏の異なる2製剤の治癒期間への影響
鷲尾彩菜、髙田昂輔、山根麗子、島田洋子、大塚尚治、縄田修一、佐々木忠徳
[要旨] 終末期がん患者の褥瘡は,患者の QOL(Quality of Life)を低下させ,治療期間が延長すると介護者の負担につながり,経済的負担も増すため,早期の治癒が必要である.褥瘡治療薬の白糖・ポビドンヨード配合軟膏は,製剤によって基剤や添加物が異なるため滲出液の吸水作用に違いがある.しかし,この違いが治癒期間に影響を及ぼすかどうかは明確でない.そこで,基剤・添加物の異なるユーパスタ®コーワ軟膏(興和株式会社,以下,先発品 A)とメイスパン®配合軟膏(Meiji Seika ファルマ株式会社,以下,後発品 B)の違いによる褥瘡治癒への影響を検討した.白糖・ポビドンヨード配合軟膏の先発品 A を使用した患者 38 例と後発品 B を使用した患者 39例における外用剤の投与期間,治癒期間を後方視的にカルテ調査した.投与期間は先発品 A 7 日間(1-64 日間),後発品 B 11 日間(3-210 日間),治癒期間は先発品 A 14 日間(1-64 日間),後発品 B 15 日間(3-218 日間)で,有意差は認められなかった.白糖・ポビドンヨード配合軟膏の先発品 A と後発品 B の治癒期間は同等であることを示唆した.
キーワード:褥瘡,白糖・ポビドンヨード配合軟膏,後発品,水溶性基剤,終末期がん

 

フェンタニルクエン酸塩舌下錠の適正使用の取り組みとその実態調査
藤岡貴光、斎藤太寿、小林義和、齋藤雅俊、柴田壮一、中山莊平、松原 肇
[要旨] フェンタニルクエン酸塩舌下錠(fentanyl citrate sublingual tablet;以下,FST)は,口腔粘膜より吸収される即効性オピオイドで,これまで内服薬で対応困難であった経口摂取や嚥下が困難な患者にも使用できる有用なレスキュー薬である.しかし,用量調節の方法,投与回数の制限や投与間隔等の使用方法は極めて複雑で,当院ではそれらに関する医師の不適切な指示が散見された.今回,入院患者のうち FST を新規で投与された患者に対して,FST の protocol-based pharmacotherapy management(以下,PBPM)を導入した.その結果,導入後の医師の不適切な指示は導入前より有意に減少し,プロトコールを適用した患者においては不適切な指示はゼロとなった.PBPM を活用した FST の適正使用の報告はなく,我々の取り組みは他施設においても参考になると考えられる.
キーワード:フェンタニルクエン酸塩舌下錠,プロトコール,protocol-based pharmacotherapy management(PBPM),レスキュー薬,適正使用

 

医療用麻薬に関連するインシデント/アクシデントの調査と経験年数に着目した相関解析
田中 怜、飯島久子、青山隆夫、石川 寛、佐藤淳也、川岸佐和子、河野洋平、梅坪翔太、佐藤 哲、篠 道弘
[要旨] 医療用麻薬に関連するインシデント・アクシデント(以下,IA)は重大な健康被害を及ぼすと考えられるが,現在までに麻薬に限定した解析は行われていない.そこで,2014 年 4 月~ 2019 年 3 月までを調査期間と定め,IA 件数や IA 当事者の経験年数をはじめとした各因子を調査した.また,IA 当事者の経験年数が 1 ~ 3 年目であった報告をケース群,4 年目以上であった報告をコントロール群とした解析を行った.IA 報告の総件数は 1,856件であり,多変量ロジスティック回帰分析の結果,経験年数 1 ~ 3 年目の看護師による報告との間に,「処方忘れ・不足」「レベル 1」「10 月」「12 月」が有意な正の相関 (p < 0.05) をもつ因子として認められた.一方で,「外来」が有意な負の相関 (p < 0.05) をもつ因子として認められた.今後も調査を継続し,本結果を反映した IA 再発防止を目指すシステムの構築に務めていきたい.
キーワード:医療安全,医療用麻薬,リスクマネジメント,インシデント,アクシデント

短  報

オピオイドで疼痛管理不良の放射線皮膚炎にリドカイン混合ワセリンが奏効した1例
島田 泉、工藤範子、外山美央、市川紘将、土田裕子、岩井由樹、鈴木丈雄、結城明彦、濱 菜摘、外山 聡
[要旨] リドカインゼリーを混合したワセリンを塗布することで放射線皮膚炎による激しい疼痛を明瞭に軽減できた症例を報告する.今回の症例では,放射線皮膚炎の疼痛にオピオイドやステロイド外用剤を用いたが,疼痛コン トロールに苦慮していた.リドカイン混合ワセリンは,放射線皮膚炎による難治性の疼痛を軽減(NRS9 → 3)する.
キーワード:放射線皮膚炎,疼痛,リドカイン塩酸塩ゼリー

 

トルバプタン投与により難治性下腿浮腫の著明な改善が認められた終末期がん患者の2例
臼井正信、二村昭彦、都築則正、伊藤彰博
[要旨] トルバプタン投与により,著明な浮腫軽減を認めた 2 例を経験したので報告する.症例 1: 盲腸がん多発肝転移患者の難治性下腿浮腫に対し,3 カ月で体重は 6 kg 減少し,歩行可能となり自宅に退院した . 症例 2: 多発遠隔転移を有する腎細胞がん.下腿浮腫が著明であったが投与 2 カ月で体重は 6.5 kg 減少し,退院できた.終末期がん患者の難治性浮腫に対するトルバプタン投与は,浮腫の軽減および QOL 向上に有効な可能性が考えられた.
キーワード:V2 受容体アンタゴニスト,終末期がん,難治性浮腫