一般社団法人 日本緩和医療薬学会

menu

学会誌 VOL.12 No.3 September 2019

原著論文

イリノテカン・5-FU併用療法におけるアプレピタント併用下での
パロノセトロンの有用性評価
橋詰 淳哉、黄 智剛、岩永 真理恵、樋口 則英、神田 紘介
兒玉 幸修、中村 忠博、北原 隆志、佐々木 均、室 高広
[要旨] イリノテカン・5-FU 併用療法の悪心予防には 5-HT3 受容体拮抗薬(5-HT3RA),デキサメタゾン(DEX),アプレピタント(Apr)の併用が推奨されるが,5-HT3RA は第一世代と第二世代のどちらを選択するかは結論が出ていない.長崎大学病院で 2010 年 7 月 1 日から 2017 年 6 月 30 日に DEX,Apr に加え,グラニセトロン(GRA:第一世代 5-HT3RA)あるいはパロノセトロン(PAL:第二世代 5-HT3RA)を使用したイリノテカン・5-FU 併用療法施行患者の悪心の発現状況を調査した.対象患者は GRA 群 16 名,PAL 群 43 名であり,遅発期のTotal control 率は GRA 群 31.3%,PAL 群 72.1%であった(p = 0.007).また,PAL 使用は遅発期の悪心発現と有意に関連した(オッズ比 0.22,95% 信頼区間 0.05 ~ 0.82,p = 0.024).PAL は遅発期の悪心抑制に有用であることが示された.
キーワード:パロノセトロン,アプレピタント,イリノテカン,5-フルオロウラシル,がん化学療法誘発性悪心・嘔吐

 

抗がん剤レジメンチェックシステムでの医薬品リスク管理計画の活用と評価
尾崎 正和、田中 翔子、清永 智子、幸田 恭治、北原 隆志
[要旨] 抗がん剤を適正に使用するためには患者のリスクファクターを把握することが極めて重要であり,医薬品リスク管理計画(RMP)の活用が期待されている.そこで,抗がん剤の適正使用を目的にレジメンチェックシステムに RMP 情報を追加した.本研究では,試験的に内服抗がん剤を対象とし安全性検討事項に収載されているリストを RMP 情報として扱った.当院では 21 品目が対象となった.本チェックシステムの有用性を評価するため,当院薬剤部員 47 名に対し無記名かつ任意のリッカートスケール法を用いた質問票調査を行い,回答率は 78.7% であった.「調剤時の有用性」と「チェックシートの見やすさ」に関しては肯定的評価が半数以上となり,これら 2項目は薬剤師の経験年数による影響を受けなかった.
キーワード:副作用モニタリング,化学療法,臨床薬剤師業務,ドラッグインフォメーション,医薬品リスク管理計画

 

短報

オピオイド誘発性せん妄の原因となっていた筋筋膜性疼痛症候群の1例
藤井 良平、蓮尾 英明、佐久間 博子、岡田 美由紀、打谷 和記、岡崎 和一
[要旨] オピオイド誘発性せん妄が疑われる状態では,その背景に筋筋膜性疼痛症候群と診断される症状が隠れている場合がある.今回,がん疼痛により二次的に生じた筋筋膜性疼痛症候群が見逃され,オピオイドの増量によりせん妄が発症していたが,併存していた筋筋膜性疼痛症候群に対してトリガーポイント注射を施行することでオピオイドを減量でき,せん妄が改善した症例を経験したので報告する.
キーワード:オピオイド誘発性せん妄,トリガーポイント注射,筋筋膜性疼痛症候群

 

クエチアピンおよびメサドン投与中に重篤な低血糖を発症したがん患者の1症例
金子 睦志、市川 友莉恵、本間 章太郎、吉野 真樹、霍間 尚樹、山下 正秀、桜井 金三
[要旨] 耐糖能異常のないがん患者において,クエチアピン(以下,QTP)とメサドン(以下,MD)服用中に重篤な低血糖が発症した.継続服用した MD による内分泌機能異常を介在した血糖値低下作用と,低栄養を契機として QTP が低血糖代償反応を抑制した,これらの相加的な影響で発症したと推察した.栄養状態の悪くなりがちながん患者で,特に MD と QTP 併用下では,突発的な低血糖のリスクがあることに配慮すべきである.
キーワード:クエチアピン,メサドン,低血糖