一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.12 No.2 June 2019

原著論文

Patient-Controlled Analgesiaポンプ使用推進に向けた実技セミナーの有用性と課題
山田 正実、地丸 裕美、鳥井 小莉、松村 千佳子、高橋 一栄
[要旨] 入院中のがん患者にオピオイド持続注射が導入された場合,在宅移行後も安定した効果を得るためにはPCA(patient-controlled analgesia)機能を有する持続注入ポンプを用いることが望ましい.しかし,在宅医療チーム側にさまざまな障壁が存在し,在宅での持続注射は普及していないのが現状である.そこで,薬局薬剤師を対象に PCA ポンプ使用に関する講義と実技セミナーを実施した.参加者に行ったアンケートでは,73.7% が PCA ポンプに関与することに障壁があると回答し,特に「設備がない」,「PCA ポンプに対応可能な連携施設がない」の 2つの要素について,アンケートに回答した多くの薬剤師が課題であると感じていることがわかった.また,実技を取り入れた今回のセミナーは,医療機器や医療材料の種類,医療機器の操作方法および緩和ケアにおける知識の習得に有効であることが示唆された.
キーワード: PCA ポンプ,がん疼痛,実技セミナー,薬局薬剤師,在宅緩和ケア

 

がんの痛みと鎮痛薬に対する負のイメージ改善を目的とした多職種による患者教育の効果
山口 文子、鈴木 澪、柏木 幸子、江原 晶子、木村 尚子、嶋中 ますみ、土井 千春、佐藤 透
[要旨] がんの痛みやがんの痛みに使用する鎮痛薬に対する負のイメージ改善と正しい知識の啓発を目的として,がん患者とその家族を対象に,多職種による痛みの教室(以下,教室)を実施している.2009 年 3 月~ 2018年 3 月までの教室の参加者を対象に,教室の前後でアンケート調査を行い,がんの痛みや鎮痛薬に対する認識を調査し,負のイメージ改善における多職種による患者教育の有効性について検討を行った.「鎮痛薬を使用すると中毒になると思いますか」に代表されるがんの痛みに使用する鎮痛薬に関する設問について,教室前(61.7%)から教室後(13.7%)で有意に負のイメージの改善が認められ(p < 0.001),教室が有効であることが示唆された.
キーワード:がん性疼痛,痛み,鎮痛薬,患者教育,緩和ケア

 

短報

アセトアミノフェン錠を用いた錠剤粉砕器内残留薬剤の清掃法に関する検討
尾﨑 正和、幸田 恭治、古川 裕之、北原 隆志
[要旨] 緩和医療において錠剤の粉砕化は頻繁に行われるが,残留薬剤を十分に除去しうる錠剤粉砕器の適切な清掃方法については研究報告がない.そこで,アセトアミノフェンを用いて錠剤粉砕器の掃除機単独,掃除機後に消毒用エタノール綿単回および 2 回清掃,水洗い,2 種類の共洗いの 6 つの清掃法について検討した.薬剤の残留は高速液体クロマトグラフィーを用いて検出し,水洗いでは残留薬剤を検出せず,推奨される清掃法であると考えられた.
キーワード:粉砕化調剤,残留薬剤,錠剤粉砕器

 

イマチニブとクラリスロマイシンの併用により好中球減少が認められた1例
宮田 智陽、和佐本 諭、杉山 昌秀、関口 展貴
布施 春奈、吉池 麻衣、渡邉 将隆、篠原 佳祐
[要旨] イマチニブ(以下,IMT)は CYP3A4 で代謝されるため,阻害剤クラリスロマイシンと併用注意であるが,臨床での併用報告はない.本症例では,2 剤を併用したところ,重篤な好中球減少を生じ,IMT の休薬により回復した.臨床経過より,IMT とクラリスロマイシンの相互作用が疑われるが,実際には,IMT の血中濃度上昇を認めなかった.この 2 剤併用時には,臨床所見を考慮した慎重な副作用管理が重要と示唆された.
キーワード:イマチニブ,クラリスロマイシン,相互作用

 

ナルデメジン投与でコリン作動薬併用患者に発現した重篤な下痢症状の1例
中野 智尋、梅下 翔、加畑 千春、山田 秀治、河原 昌美
[要旨] 強オピオイド開始直後にナルデメジン投与により重篤な下痢を発現し,ナルデメジンが中止となった 1例を経験した.患者は酸化マグネシウム,ベタネコール塩化物,ジスチグミン臭化物を併用していた.他の緩下剤との併用による作用増強に加え,コリン作動薬との併用による腸管神経叢のコリン作用の増強が下痢に関連したと推察された.コリン作動薬を服用中の患者にナルデメジンを投与する際には,十分な注意が必要と考える.
キーワード:ナルデメジン,下痢,コリン作動薬