学会誌 VOL.11 No.2 June 2018
原著論文
オピオイド導入後の意識障害に影響を及ぼすリスク因子の検討 |
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枝廣 茂樹、松波 寿雄、大川 浩子 |
[要旨] 緩和ケアの対象患者は,疼痛,全身倦怠感,呼吸苦などの症状に加え,意識障害などの精神症状を併発することも少なくない.また,症状緩和のためにオピオイドが導入され,意識レベルの低下をきたす症例も少なくない.本検討では,オピオイド導入後の意識レベルに影響を及ぼすリスク因子を明らかにするために,多変量ロジスティック回帰分析を用い,後方視的に検討を行った.緩和ケアの対象患者 71 名に対し解析を行った結果,導入前後で,意識レベルの低下が 29.6% に認められた(p < 0.0001).また,多変量解析の結果,年齢(≧ 75 歳)[odds ratio (OR) 11.83,95% confidence interval (CI) 2.14-109.87,p = 0.003],骨転移(OR 7.62,95%CI 1.37-55.96, p = 0.02),傾眠(OR 4.71,95%CI 1.08-25.21,p = 0.039),多剤併用(≧ 8 剤,≧ 75 歳)(OR 10.14,95%CI 2.20-61.75,p = 0.002),アルブミン(Alb)低値(OR 6.05,95%CI 1.40-42.30,p = 0.014)は意識障害の独立したリスク因子となった.一方で,抗がん薬併用(OR 0.16,95%CI 0.02-0.87, p = 0.033)は,意識障害を軽減させる因子であった.以上より,オピオイド導入の際,年齢,骨転移の有無,Alb 値の把握を行うことは重要であり,特に多剤併用の高齢者では,意識障害のリスクが上昇するため,注意深い副作用モニタリングを行い,多角的な視点で薬学的管理およびケアを行う必要がある. |
キーワード: オピオイド導入,意識障害,せん妄,緩和ケア,多剤併用 |
Best Supportive Care患者におけるフェンタニル貼付剤への 早期Opioid Switchingに影響する要因解析 |
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島本 一志、須永 登美子、杉山 恵理花、田島 正教、向後 麻里、佐々木 忠徳、佐藤 均 |
[要旨] 経口オピオイド導入後,早期にフェンタニル貼付剤へ Opioid Switching(OpSw)することがある.このような OpSw は,疼痛コントロールを得るまでの時間に影響を与える可能性がある.しかしながら,早期 OpSwにつながる因子は明らかとなっていない.そこで,早期 OpSw に影響する因子を後方視的に調査した.2013 年 1月から 2016 年 12 月までにオキシコドン徐放錠でオピオイドを導入し,フェンタニル貼付剤に OpSw した Best Supportive Care(BSC)患者を対象とした.OpSw までの期間が 14 日未満または以降の 2 群とし,基本情報,臨床データ,投薬状況を比較した.96 名が対象患者となり,多変量解析の結果,「CRP 1.0 mg/dL 以上」が早期OpSw に影響することが明らかとなり(p = 0.009),「Palliative Prognosis Index 6.5 点以上」も影響する傾向が示された(p = 0.05).本研究で得られた早期 OpSw に影響する因子は,短期予後因子としても報告されている.これらより,BSC 患者へのオピオイド導入後,早期に疼痛コントロールを得るためには,短期予後の評価が重要であることが示唆された. |
キーワード: Opioid Switching,フェンタニル貼付剤,多変量解析,C 反応性蛋白(CRP),Palliative Prognosis Index(PPI) |
がん性疼痛コントロールと栄養指標MNA-SFとの関連性についての検討 |
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岡田 昌浩、杉原 弘記、村上 史承、岡本 伸也、後藤 裕香、星野 祥儀 岡崎 和子、渡辺 陽子、木村 圭佑、小野田 正、竹井 英介、瀬尾 誠、杉原 成美 |
[要旨] 2014 年 10 月から 2016 年 3 月の 1 年 6 カ月間に当院に入院したがん患者を対象として,定期オピオイドの増量に影響を与える因子を明らかにすることを目的に,入院時の栄養指標(Mini Nutritional Assessment-Short Form: MNA-SF)と定期オピオイドの増量の有無を,電子カルテよりレトロスペクティブに調査した.対象患者 32 名を入院中の定期オピオイドの増量の有無に基づいて,増量群 6 名と非増量群 26 名に区分した.MNA-SFは,非増量群に比べて増量群は有意に低かった.本研究により,疼痛コントロール不良となる要因の一つとして, MNA-SF が関連することが示唆された. |
キーワード: Mini Nutritional Assessment-Short Form (MNA-SF),定期オピオイド,定期オピオイドの増量,入院患者 |
山口県薬剤師会会員薬局における医療用麻薬の取り扱い状況と問題点 |
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尾﨑 正和、清水 忠司、大坪 泰昭、相本 由美、河井 臣吾、寺戸 功 佐藤 真也、山本 武史、山本 晃之、志熊 理史、中原 靖明 |
[要旨] 在宅での緩和ケア療法を担う保険薬局にとって,麻薬の取り揃えは不可欠である.しかし,これに関する現状と問題点を明らかにした報告はない.そこで,現状を把握し問題点を明らかにすることを目的に,2016 年11 月に山口県薬剤師会会員の 763 薬局を対象にアンケート調査を行った.調査項目は,基準調剤加算算定状況,麻薬小売業者免許所持状況,麻薬小売業者間譲渡許可取得状況,麻薬在庫状況,麻薬処方箋受付実績,麻薬在庫上の問題点などを設定し,FAX を用いて配布,回収した.663 薬局から回答が得られ,回答率は 86.9%であった.これらを解析し,直近 2 年間の期限切れ麻薬の薬価金額を算出したところ 14,351,085 円であった.麻薬処方箋の受付の多い薬局では,多品目の在庫を抱え,大量の不動在庫が生じていた.山口県薬剤師会が主体となって,麻薬小売業者間譲渡許可の周知に再度取り組む必要があると考えられる. |
キーワード: 医療用麻薬,医療経済,麻薬小売業者間譲渡,アンケート調査 |
短報
オピオイド導入時のスムーズな服薬指導を行うための研修効果の検討 |
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隅田 美紀、長谷部 千夏、永冶 正太郎、秋田 浩子、曽我 望武 鈴木 昇一、小木曽 正輝、立松 三千子 |
[要旨] がん患者とその家族が可能な限り質の高い生活を維持するためには,地域の薬剤師が相談にのり,適切な情報提供によってサポートする必要がある.特に,医療用麻薬(以下,麻薬)に対する不安を取り除くための早期からの関わりは不可欠である.今回われわれは,地域の薬剤師に対して,「初めて麻薬を処方された患者に対するスムーズな服薬指導ができる」ことを目標とした参加型研修会を開催した.研修は,薬局窓口の面談場面をイメージした 3 対 3 のロールプレイ(以下,RP)を含むグループワーク(以下,GW)およびコミュニケーション学習の講義からなり,各セクションの到達度を確認することにより研修の有用性を検討した.「できない」を 1,「できる」を 5 としたとき,参加者の学習到達度は研修前が平均 2.5 であったのに対して,研修後は平均 4.0 に上昇した.このような研修方法は,参加者が互いの経験を共有することを可能にし,服薬指導技術を向上させるために有用であると考えられる. |
キーワード: 医療用麻薬,服薬指導,薬薬連携,ロールプレイ,参加型研修 |