一般社団法人 日本緩和医療薬学会

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学会誌 VOL.9 No.1 March 2016

総説

オピオイドの分布容積を予測する:定量的構造動態相関注解
植沢 芳広
[要旨] 化合物の酵素活性,毒性,薬効,副作用といった生体内における挙動は,その化合物の分子構造によって規定されると考えることができる.薬物の体内動態も同様である.一方,紙に書き下すことのできる化合物の化学構造は,対象となる化合物・分子に関する情報の塊である.化学構造をひもとくことによって,その分子の有する構造的特徴や物理化学的性質を数値化することができる.このような構造情報と体内動態パラメーターの関係を数学的モデルとして表現する方法が,定量的構造動態相関(Quantitative Structure-Pharmacokinetic Relationship: QSPkR)解析である.本稿では,オピオイドの分布容積を例として,QSPkR 解析における動態パラメーター予測モデル構築のための基本的な方法を詳述する.
キーワード: オピオイド,分布容積,化学構造,定量的構造動態相関,予測モデル

 

原著論文

モーズペーストの利便性改善に向けた研究~基剤変更が組織深達度に及ぼす影響~
佐藤 淳也、藤澤 晨、茂庭 美希、工藤 賢三
[要旨] モーズペーストは,表在性腫瘍の縮小や止血,滲出液制御を目的とした院内製剤である.しかし,その粘性は経時的に高くなり,適用皮膚の状態に応じて調節する必要がある.粘性変化を減らし,利便性の高い製剤として,組成の変更が有効である.そこで,これら変更が組織深達度や被洗浄性に及ぼす影響を検討した.亜鉛華デンプンおよびグリセリン量を変更した製剤,さらに亜鉛華デンプンの代わりにマクロゴール軟膏,親水軟膏,亜鉛華軟膏,吸水軟膏,プラチベースを使用した製剤を作製し,鳥ムネ肉での組織深達度を測定した.また,各製剤の被洗浄性を測定した.その結果,基剤を親水軟膏に変更した製剤の組織深達度は,基本組成と同等であり,被洗浄性は向上した.さらに,滲出液の吸収性も良好であり,吸収後および温度変化による粘性の変化にも安定であった.以上のことから,親水軟膏を基剤としたモーズペーストは,利便性の高い製剤となる可能性がある.
キーワード: モーズペースト,利便性,基剤変更,深達度,被洗浄性

 

呼吸器領域がん患者における予測クレアチニンクリアランスの推奨算出法の検討
矢島 愛理、植沢 芳広、稲野 寛、益田 典幸
尾鳥 勝也、厚田 幸一郎、加賀谷 肇
[要旨] がん患者の疼痛緩和薬物治療における鎮痛薬の選択と投与設計において,クレアチニンクリアランス(CLcr)は基本的指標の一つである.CLcr は,血清クレアチニンと体重,性別等を用いて構築された種々 CLcr 予測式に基づいて推定することができる.CLcr 予測式は蓄尿を必要としない一方,予測式構築時の母集団は一般的にがん患者と異なるため,病態の影響を被る可能性がある.そこで,呼吸器領域のがん患者集団を対象として,種々 CLcr 予測式の予測精度を比較するとともに,重回帰分析により最適な CLcr 予測モデルの構築を試みた.その結果,血清クレアチニン値,性差とともに,体表面積が CLcr の予測因子として抽出された.本重回帰モデルは,既知モデルと比較して最もよい予測性能を示したことから,これらの因子は呼吸器領域におけるがん患者の CLcrの推定に有用であると考えられる.
キーワード: 腎機能,クレアチニンクリアランス,肺がん,緩和ケア,予測モデル

 

1日1回貼り替え型フェンタニルクエン酸塩貼付剤(フェントステープ)の薬物残存量に影響を与える要因
寺岡 麗子、中山 みずえ、竪 ゆりか、上田 華世、湯谷 玲子、沼田 千賀子
岡本 禎晃、平野 剛、富田 猛、平井 みどり、北河 修治
[要旨] 使用済みのフェンタニルクエン酸塩貼付剤を回収し,貼付剤中の残存薬物量を high performance liquid chromatography で測定した.患者間で残存率に著しい違いがあった.平均残存率は,患者の年齢や body mass index と相関しなかった.皮脂が付着した使用済み貼付剤中の薬物量は,付着していない貼付剤よりも高かったことから,患者の皮膚状態によって貼付剤からの放出量が影響を受けることが示された.一度に皮膚に貼付する枚数が多くなる場合,平均残存量は増加した.また,患者によっては,フェンタニルクエン酸塩残存量が貼付する部位によって変動した.これらの結果は,貼付剤からのフェンタニルクエン酸塩の放出量がさまざまな要因に影響されることを示唆した.
キーワード: 1 日 1 回貼り替え型フェンタニルクエン酸塩貼布剤,貼布枚数,貼布部位,残存率

 

短報

ダカルバジンの投与方法変更が血管痛軽減に寄与したと考えられる2症例
杉原 弘記、岡田 昌浩、竹井 英介 岡本 伸也、村上 斗司、川真田 修
[要旨] ダカルバジン(dacarbazine:DTIC)は分解産物が血管痛を発現するため遮光投与が必要だが,点滴経路全般を遮光して投与したにもかかわらず,1 クール目で強い血管痛を認めた.2 クール目より DTIC 溶解液量を500 ml から 100 ml,点滴時間を 120 分から 30 分,溶解液を生理食塩液から 5% ブドウ糖液へと投与方法を変更し,血管痛が消失した悪性黒色腫の 1 症例と,同様の変更後投与方法で血管痛を軽減できたホジキンリンパ腫へのABVD 療法施行の 1 症例を報告する.今回の試みは,治療継続,QOL 維持に有用と考えた.
キーワード: ダカルバジン(DTIC),血管痛,投与方法変更