学会誌 VOL.6 No.1 March 2013
総説
入院がん患者を対象とした麻薬性鎮痛薬自己管理プロトコールの構築と有用性 |
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佐藤 淳也,木村 祐輔,長澤 昌子,菅野 綾子,工藤 賢三,高橋 勝雄 |
[要旨] がん性疼痛の軽減には,麻薬性鎮痛薬を早期から使用することが重要である.特にレスキュー麻薬は,疼痛出現時患者の判断で早期に使用することが重要であるが,入院患者における麻薬の自己管理はほとんど行われていないため,これを迅速に使用するには困難がある.著者らは,自己管理に関する医療者の認識を調査し,これを踏まえた麻薬自己管理プロトコールを作成した.プロトコールに基づいて麻薬を自己管理した場合の影響を評価した結果,自己管理開始前後において,レスキュー麻薬の使用回数の有意な増加と数値的疼痛スケールの有意な減少を認めた.副作用は増えたものの,いずれも一時的かつ軽度であった.麻薬自己管理に関する患者および医療者のアンケート評価も良好であった.以上より,入院がん患者における麻薬の自己管理は,麻薬による疼痛管理に関する理解力を評価することで実施可能であり,がん性疼痛の軽減に積極的に行われるべきであると思われた. |
キーワード: 麻薬性鎮痛薬,自己管理プロトコール,緩和ケア,入院がん患者,疼痛緩和 |
トラマドールおよび新規オピオイド系鎮痛薬タペンタドールの鎮痛作用機序とその比較 |
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中川 貴之 |
[要旨] トラマドールは,WHO 方式がん疼痛治療では第 2 段階薬に分類される非麻薬性の弱オピオイドであり,非がん性慢性疼痛にも保険適応がある.トラマドールそのものは,弱いノルアドレナリン/セロトニン再取り込み阻害作用しか有していないが,生体内で脱メチル化され,弱いμ-オピオイド受容体活性を示す活性代謝産物(主に M1)に代謝される.一方,タペンタドールは,トラマドールのμ-オピオイド受容体活性とノルアドレナリン再取り込み阻害作用を強化しつつ,セロトニン再取り込み阻害作用を減弱させた新しいオピオイドであり,国内でも臨床試験が進行している.両薬物とも,弱いμ-オピオイド受容体活性とノルアドレナリン再取り込み阻害作用が相乗的に作用することで良好な鎮痛作用を発揮し,侵害受容性疼痛よりもむしろ神経障害性疼痛に対して,有効性が高いと考えられている.本稿では,両薬物の薬理学的性質,特に鎮痛作用機序を比較し,神経障害性疼痛に対する有効性についても概説したい. |
キーワード: トラマドール,タペンタドール,μ-オピオイド受容体,モノアミン再取り込み阻害,神経障害性疼痛 |
原著論文
病院・薬局実務実習における緩和医療教育の実態調査とその教育効果 |
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真野 泰成,原島 大輔,柳橋 翔,大内 かおり,加藤 芳徳,廣澤 伊織 田島 正教,山田 治美,小瀧 一,武田 弘志,旭 満里子 |
[要旨] 緩和医療教育の現状とその教育効果を評価するため,2010 年度Ⅰ期実務実習を終了した 5 年次薬学生を対象にアンケート調査を実施した.病院実習において麻薬調剤を体験した割合は,薬局実習に比べ高かった(61.0% vs. 20.6%,p<0.01).麻薬の服薬指導を体験した割合は,両実習ともに 15% 以下,麻薬の管理体制を経験した割合は 90% 以上であった.「WHO 除痛ラダー」など緩和医療の基本的知識の理解度は,病院,薬局実習後および未実習の学生間で,ほとんど同じレベルであった.しかし,緩和医療の現場で必要とされる専門的知識の理解度は,病院実習後の学生が他に比べて高かった.これらの結果は,病院実習における麻薬調剤の体験率が,薬局実習に比べ高かったことに起因していると考える.麻薬の調剤や服薬指導といった体験型実務実習の充実をはかることが,緩和医療の教育効果のさらなら向上をもたらすと考える. |
キーワード: アンケート調査,緩和医療,麻薬,実務実習,教育効果 |