年会案内・報告

第9回年会報告

第9回日本緩和医療薬学会年会を開催して

平成27年10月2日(金)〜4日(日)にかけて、パシフィコ横浜・会議センターにて「第9回日本緩和医療薬学会年会」を開催いたしました。晴天に恵まれ、気持ちいい横浜の海の風が感じられました。3日間の会期を通して、2,600名ほどの先生方にご参加いただきました。ご参加いただいた皆様方には、学会を盛り上げていただきました事に心から感謝し、御礼申し上げます。

すべての患者さんとその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持あるいは向上のために、薬剤師をはじめとする医療従事者、研究者、日本緩和医療薬学会は真摯に取り組んでいるのはご承知のとおりです。多くのがん患者さんは、がんと診断された時から疼痛があり、がん治療を続けながら同時に緩和ケアを必要としています。このことは、がん患者さんだけでなく、がん疾患以外の術後の疼痛、リウマチ疾患や帯状疱疹痛などを有する患者さんも疼痛緩和ケアの対象となります。

このように、広がりをみせる疼痛緩和ケアや支持療法などの多様な緩和ケアに対処するため、緩和医療薬学のステップ・アップが是非とも必要と考えました。同時に、緩和領域におけるチーム医療の再構築も重要な課題と考えていました。従来の医療機関内の疼痛緩和ケアチームの活動のステップ・アップとともに、「薬(病院)-薬(薬局)-学(大学)-会(学会)」の連携によるチーム活性力を多面的に高め、本学会が主体的に取り組む姿勢を提示し推進することを、第9回年会で会員ならびに全医療従事者、患者さんと家族の皆様と共有できること切望いたしました。

こうした趣意から、第9回年会では「ステップ・アップ緩和医療〜多様な緩和ケアとチーム活性・連携力の醸成〜」をタイトルに掲げ、薬剤師、薬学系研究者のみならず、広く医療従事者、福祉関係職、行政ならびに医療関係企業のご参加を得て、今後の緩和医療薬学の方向性を忌憚なく協議していただければと考えました。

今回は、特別講演として独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長 近藤達也先生に緩和医療における臨床試験の重要性について、そして昭和大学大学院保健医療学研究科 副島賢和准教授に「涙も笑いも力になる、患者に寄り添ういのちの授業」と題して、患者さんの立場でご講演いただきました。教育講演9セッション、シンポジウム23セッション、ワークショップ3セッションを企画いたしました。非常にバランスのよいご講演になったと自負しております。特に教育講演の1つの新しい試みとして参加型教育講演「トライしてみよう!がん疼痛のアセスメント 実践を交えて」を開催いたしました。非常に好評で、ワークショップとともに参加型教育講演は今後の年会の企画案として継続すべきものと強く感じました。

また、同時開催されました市民公開講座では、アロマセラピーを使った健康づくりに取り組まれている星薬科大学先端生命科学研究所生命科学先導研究センターの塩田清二特任教授に楽しくご講演いただきました。550名ほどの方々が参加され、アロマセラピーに代表される代替医療への関心の高さに驚かされました。

会員の皆さんの発表では、一般演題が291演題(口頭発表:57演題、ポスター発表:234演題)でした。シンポジウムは23セッションで、基礎研究や臨床研究、薬・薬連携、在宅医療の取り組みなど幅広い内容になりました。超高齢化が進む日本の医療は、今後、大きく機能再編が進み、基幹病院が急性期医療を担い、慢性疾患や長期療養・終末期医療、緩和医療そして介護の場は病院から地域・在宅へと移行することになります。在宅医療では、患者さんの望む生活とQOLの維持・向上を目的とする支える医療が中心であり、NBM[(Narrative based medicine)患者さんの物語に基づいた医療]の実践が求められます。また、多様な疾患を合併することの多い在宅患者さんの病状やその変化を把握し、医療・介護・社会心理的に適切な対応をする必要があるため、在宅医療やその介護は地域の多職種が連携・協力したチーム医療での取り組みが重要であり(地域包括ケアシステムなど)、薬剤師をはじめとする医療スタッフもこうした在宅チーム医療に加わり情報共有するとともに、患者さん・家族から自ら臨床情報を収集して臨床判断し、治療・ケア・支援を積極的に実践する能力が必要となると考えられます。在宅医療への関わりについても、多くの参加者により熱い議論が繰り広げられました。最終日には、厳正かつ公平な審査の結果、口頭発表およびポスター発表の中から6題が、年会優秀発表賞として選出され、閉会式にて表彰させていただきました。

第9回年会では参加者の自己研鑽力と研究力を高めるために、本学会はもちろん関連学会の単位認定の取得を促進しました。年会開催中に取得できた単位認定は、緩和薬物療法認定薬剤師(日本緩和医療薬学会)、薬剤師研修センター認定薬剤師(日本薬剤師研修センター)、がん専門薬剤師(日本医療薬学会)、薬物療法専門薬剤師(日本医療薬学会)、がん薬物療法認定薬剤師(日本病院薬剤師会)、外来がん治療認定薬剤師(日本臨床腫瘍薬学会)でした。参加者には大変好評でした。一方、研究力を高めるために2日間にわたって本学会研究推進委員会が主催する「研究相談会」を開設しました。本学会の取り組む姿勢が、しっかり示されたものと思います。

本年会を無事に終えることができましたのも、ひとえに年会にご参加頂きました多くの皆様方をはじめ、年会開催に際して企画・運営にご尽力いただきました委員各位、昭和大学の皆様、協賛をいただきました各企業、その他ご支援いただきました多くの皆様方のお陰と、心から御礼申し上げます。年々大きくなる本学会が益々発展されますことを祈念いたしております。

昭和大学 薬学部 薬物療法学講座 医薬情報解析学部門 教授
第9回日本緩和医療薬学会年会長
加藤 裕久

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