年会案内・報告

第6回年会報告

第6回日本緩和医療薬学会年会を終えて

平成24年10月6日(土)ならびに7日(日)の両日、神戸国際会議場・神戸国際展示場(神戸市)にて「第6回日本緩和医療薬学会年会」を開催致しました。2日間天候にも恵まれ、病院薬剤師、保険薬局薬剤師、薬学研究者をはじめ、医師、看護師、企業人、宗教学研究者、セラピストなど、招待者を含めると2,300名を超える多分野の先生方にご参加頂くことができました。ご参加頂いた皆様方には心からお礼申し上げます。

現在日本は、2030年問題とも言われる、超高齢化・大量死の時代を迎え、3人に1人はがんで亡くなる時代となりました。「我が国における緩和医療の重要性を鑑み、保険薬局薬剤師(薬)、病院薬剤師(薬)ならびに薬学研究者(学)間の連携(薬・薬・学連携)の強化を図り、緩和医療における薬物療法の推進と大学や企業での教育研究の発展に寄与する」との学会理念のもと、薬剤師の緩和医療への主体的参画が求められております。また、緩和医療はがん患者の疼痛管理だけに止まらず、例えば神経難病や子供の疾患などにも、緩和的アプローチが必要とされます。折しも学会直後の10月8日夕刻、今年のノーベル医学生理学賞受賞者が発表され、京都大学教授・山中伸弥氏(神戸大学医学部卒)の名前が全世界に響き渡りました。山中教授のiPS細胞は、難病治療や新薬開発への応用が期待されており、再生医療だけでなく、緩和医療の世界とも関連してくると思われます。医学生理学の常識を覆したiPS細胞の存在は我々に、常識に囚われていては画期的な進歩発展は望めない、ということを教えてくれています。そういった思いの中で、いま第6回の年会を思い返しております。

今回のテーマ「緩和医療のブレイクスルー 〜行動する薬剤師に向けて〜」を選んだのは昨年の春頃でした。以前から、緩和医療に取り組む薬剤師の中で、ある種の戸惑いや何をすればよいのか途方に暮れているような感じが存在するのを見るにつけ、ただ座って勉強するだけの時代は終わっている、というもどかしさを感じていたのが、このテーマを選んだ一番の理由です。また、医療現場ではチーム医療が謳われ、多職種協働が当たり前になりつつある中で、果たして薬剤師がチームの一員になって生き生きと仕事ができているのだろうか、という疑問もありました。しかし、今回の学会発表を俯瞰してみて、行動する薬剤師の数は着実に増加している、という感を強く致しました。今回学会を開催して得られた、一番の収穫だったと思います。単なる一例報告やアンケート集計、あるいは基礎実験データに止まらない、きちんとした研究デザインに基づく研究成果をどう共有するか、治療にどう反映するか、という姿勢が根付いてきたということでしょう。

発表内容は、一般演題が279題(口演:38演題、ポスター:241演題)、シンポジウムはオピオイドの基礎と臨床、緩和における症状マネジメントや薬物治療、トータルペイン、スピリチュアルケア、そして教育など、様々なテーマのシンポジウムが合計13セッション(55演題)、多くの参加と熱い議論が繰り広げられました。また難治性疾患の緩和・サポートと、患者主導の臨床試験という珍しいテーマのワークショップ、多職種協働緩和ケアチーム活動のデモ「ライブカンファレンス」と討論など、インタラクティブ・参加型のプログラムにも多くの方に満足して頂いたようです。

特別企画として設けた、当学会代表理事の加賀谷肇先生と、日本緩和医療学会の前理事長をつとめられた恒藤暁先生の対談では、緩和医療の歴史と今抱えている問題点、両学会の将来について、短時間で網羅的に理解することができました。特別講演のAndrew Dickman先生のご講演では緩和医療における今後の薬剤師のあり方を、淀川キリスト教病院の田村恵子先生のご講演では医療従事者としてケアの本質についてお話いただき、多くの参加者に感銘を与えていたようです。招待講演の沼野尚美先生は「心にふれる人との関わり」、森田達也先生は「緩和医学における最近の知見と臨床疫学の基礎」、石飛幸三先生は「平穏死のすすめ」という演題でご講演頂き、感動とモチベーションの高まりを与えて下さいました。年会2日目には、オレンジバルーン・プロジェクトの一環として、市民公開講座が開催されました。「もうひとつの薬〜生活薬のひろがり〜」では、徳永進先生の体験に基づく、「ひと」とその「行動」がお薬である、というお話に、参加された一般の方々も時折笑いながら、深く頷いておられました。

尚、厳正かつ公平な審査の結果、口頭発表の中から4題が、年会優秀発表賞として選出され、閉会式にて表彰が行われました。

以上、本年会を無事に終えることができましたのも、ひとえに年会にご参加頂きました多くの皆様方をはじめ、年会開催に際して企画・運営にご尽力頂きました委員各位、協賛を頂きました各企業、その他ご支援頂きました多くの皆様方のお陰でございます。この場をお借りして深く感謝申し上げるとともに、今後の日本緩和医療薬学会の益々の発展を祈念致します。

 

 

神戸大学医学部附属病院 教授・薬剤部長
第6回日本緩和医療薬学会年会長
平井 みどり

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