年会案内・報告

第3回年会報告

第3回日本緩和医療薬学会年会を終えて

第3回日本緩和医療薬学会年会が、2009年10月17日(土)〜18日(日)にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催され、私が大会長の誉を任ぜられました。お陰さまで大変盛況のうちに終了することができ、参加者も招待者を含め2,300名を超える規模となりました。
本会のメインテーマを「ココロとカラダの痛みを和らげる医療をめざす」といたしました理由は、痛みのみではなく総合的に患者を診る力を参加した方々に再認識していただきたいとの思いからでした。また、今回の大会では3つのサブテーマを掲げました。

まず、緩和医療における研究の最前線の情報を得られる大会であること。
それは医療現場における痛みと副作用の管理だけでなく、栄養管理や褥瘡・感染症なども含むトータル的な緩和医療としての情報です。
またそれには、痛みのメカニズムなど研究者からの最新の報告、コミュニケーション技術の習得の機会を含んでいます。

2つ目には、在宅における緩和医療です。
国の施策として在宅医療への波はこの分野でも例外ではなく、開局の薬剤師にとって、緩和医療の知識、またその医療用麻薬の取り扱いのノウハウなどはこれからますます必要になっていくものと考えます。
このため、在宅医療を担う開局薬剤師に向けた情報発信をすることにいたしました。

最後は、がん医療の最新エビデンスの情報です。
近年様々な専門薬剤師の認定が行われるようになってきましたが、緩和医療においては痛みのみに特化するのではなく、痛みの原因となっているがんそのものの正しい知識と最新の治療方法、そしてその効果などを知っていただきたいと考えました。
このため、乳がん、肺がん、大腸がん、また抗がん剤による副作用への対処など、トータル的に痛みを管理できる情報を得ていただきたいとの考えです。

これら3つのサブテーマのもとにプログラムを編成し、本会の特色を前面に押し出すことといたしました結果、シンポジウム13、セミナー16、特別講演 2、招待講演2、口頭発表16セッション、その他代表理事講演、大会長講演など大変盛りだくさんの大会となりました。

今回の特別講演には17日の初日にWHOのDr.ScholtenにWHO疼痛治療ガイドラインの現状についてご報告いただきました。
また、2日目の特別講演にはNHKエデュケーショナル・エグゼクティブプロデューサーの坂井かをり先生に、患者の視点に立ったがんや緩和の医療についてご講演いただきました。
医療者が忘れがちな患者視点の医療とは何かを熱くお話しいただき、私たちが心のこもった医療を提供することが患者にとってどれだけ大事なことなのか、改めて教えていただきました。ご講演の後、会場からたくさんの質問が寄せられたことも印象深いエピソードの一つです。

今回の大会で私が取り組みたかったことがもう一つあります。それは口頭発表に重点を置くことです。
いつしか薬剤師の学会発表の主流はポスター発表となり、大会によっては全てポスター発表というプログラムも散見されるようになりました。これは薬剤師のディベート力を磨く機会を自ら放棄しているように思えてなりませんでした。薬剤師がこれだけ病棟などの臨床の現場に赴くようになってきたにもかかわらず、このままでは現場での医師や看護師との協議、さらには情報を必要としている患者への適切な対応ができなくなってきてしまうのではないかとの危機感からでした。
口頭発表で堂々とフロアからの質問に答え、また決められた時間内に起承転結を付けたメリハリのある発表を行う。これは臨床の現場で必ず役に立つ、また、臨床で必須となるスキルです。
このため、今大会では優秀発表賞はすべて口頭発表から選出するとし、プライオリティーを付けた演題募集を行いました。
大会中、口頭発表ブースは入りきれない参加者であふれ、発表者と参加者のやり取りも大変活発に行われていました。

いずれの会場も参加者であふれ、また椅子の増設が追い付かず、大勢の方に立ち見でのご不便をおかけしましたことをこの場をお借りしてお詫び申し上げます。
しかし、今回ご参加いただいた薬剤師のうち500名近くの方が開局の薬剤師であったことは、やはり緩和医療、がん医療が在宅医療への流れを受け、急速に増 えていることを裏付けているのではないかと改めて感じることができました。

また、本会と並行して東京都内の船堀タワーホールにて市民公開講座を開催いたしました。一般市民の皆様に、薬剤師が緩和医療の中でどのような役割を担っているかを知っていただくことも目的の一つではありましたが、なにより、がんになる前に緩和医療のこと知っていただきたく、テーマを「がんと向き合うためのがん治療と緩和ケア」とし、現在緩和ケアを受けられている方のみならず、がん治療を受けている方、さらにはがんではない方にもご参加いただき緩和医療について、医療用麻薬について正しい知識を持っていただくことを主目的といたしました。パネリストには、帝京大学医学部内科学講座/有賀悦子先生、同志社女子大学薬学部/中西弘和先生、聖路加国際病院看護部/中村めぐみ先生をお招きし、それぞれの専門分野からのお話と緩和医療がいかにチーム医療で成り立って いるか、そして緩和医療を受けることがどれだけメリットがあることなのかをお話しいただきました。大変好評であったとお聞きしています。

最終日には、優秀発表賞の発表が行われ、病院薬剤師から3名、開局薬剤師から1名、大学研究者から1名の合計5名の方が表彰され盾と記念品が贈られました。
簡単ではございますが、第3回日本緩和医療薬学会の年会報告とさせていただきます。ありがとうございました。

日本医科大学付属病院薬剤部薬剤部長
第3回日本緩和医療薬学会年会長
片山 志郎

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